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誰にも言えない…オトコのお悩み相談室

目標は美女とマラソン!…も、ひざに痛み。解消法を教えて

「ランナー膝」と中高年ランナーの「ひざ痛」の大きな違い

 荒川直樹=科学ライター

まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。

食品企業の営業職43歳。独身。大学時代にはラグビーでウィングを務めるなど「屈強かつ俊敏なボディ」には自信がある。酒の席では「今でもトライアスロンなんて軽いね」が口癖だ。そんなオレに声をかけてきたのが社長室の美人秘書。「私、来年の“熊猫マラソン”に出ようと思っているんです。よかったら一緒に走りませんか?」だって。オレの下心は爆発寸前。早速、格好いいシューズとウエアを購入。毎週、日曜日に公園で合同トレーニングを始めたが、彼女の走りは予想以上に速い。しかも、3週目からひざにズキズキとして痛みが出始めた。それを笑顔で隠し続けているのは、男のメンツじゃない。ただ、彼女と一緒にいたいの…(涙)。ひざの痛みを解消し、楽しく走り続けるにはどうしたらいい?
(イラスト:川崎タカオ)

 秋は、スポーツを始めるには最適の季節だ。ただ「メタボ対策」など、中高年になって始めたスポーツについ夢中になってしまい、その結果、「ひざ痛」などスポーツ障害を訴える人が増えるのもこの季節だ。

運動経験がある「自信過剰派」ほどトラブル深刻

 スポーツトレーナーとして体育大学の学生や市民ランナーの治療を行っている「あっぷる鍼灸接骨院」(横浜市青葉区)の秋山聡志院長は、「私の接骨院があるこの地域では横浜マラソンが3月に開催されるため、秋になって本格的な走り込みを始める方が多い。その影響で10~11月はひざ痛で受診する人が増える」と話す。

 ただ、ひとことで「ひざ痛」といっても、大学や実業団のチームで本格的な基礎トレーニングを行っているランナーと一般の人の「ひざ痛」とでは、痛みの原因となる膝関節の状態が異なることが多いという。

 特に「若いころから運動で鍛えているからランニングぐらい大丈夫」と自信過剰の人ほど深刻なひざのトラブルに陥りやすいと秋山院長は指摘する。走る前にしっかり確認しておきたいことは「膝の負担の少ない正しい走りができているか」「膝関節を守る筋肉がついているか」「ランニングレベルに合ったシューズを履いているか」の3点だ。

ランナー膝と中高年ランナーの「ひざ痛」の違い

 「ランナー膝」という言葉がある。ランニングの際に、膝の外側が痛くなる症状のことだ。

 「ランニングで痛めたひざはみんなランナー膝だろ」と思っている人も多いと思うが、専門的にはちょっと違う。狭義のランナー膝は太ももの外側を覆っている長い靱帯(腸脛靭帯:ちょうけいじんたい)が、走り込むうちに膝の関節の外側の出っ張りとこすれて炎症を起こしたものだ。

 ただ秋山院長は「しっかりした体作りができた選手が走り込み過ぎたことによって起こる本来のランナー膝とは違い、中高年ランナーの場合は膝関節を取り囲んでいる靱帯にトラブルを起こしていることが多い」と話す。

 私たちの膝は、前後に伸ばしたり(伸展)曲げたり(屈曲)する運動だけでなく、ひざを内側および外側にひねる回旋運動を行う。これらの動きをサポートしているのが外側側副靱帯、内側側副靱帯、前十字靱帯、後十字靱帯だ。正しい走りでは、これらの靱帯への負担は少ないが、走り方が悪いと特定の靱帯に負担がかかり、強い痛みを生じることになる。

中高年が痛めやすいひざの靱帯
走り方が悪いと、外側側副靱帯、内側側副靱帯、前十字靱帯、後十字靱帯に負担がかかり、強い痛みを生じる。
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つま先が外を向き過ぎた着地はひざを痛める

 まずは膝関節に負担の少ない走りができているかをチェックしよう。人間が歩いたり走ったりするときの基本動作は以下のようになる。

(1)つま先を正面に向けながら踵(かかと)で着地する
(2)足底に加わる重心が、足裏の形状に沿って軽く外側にカーブを描くように移動
(3)最後は、親指で強く蹴り出す

 大事なのは、足を着地させる際のつま先の向きだ。秋山院長は「中高年ランナーはガニ股気味の人が多く、つま先が外に開きがち。そのままでは、うまく親指で蹴り出せないので、膝を曲げたときに関節を内側にひねる回旋運動が働いてしまい、それが外側側副靱帯、内側側副靱帯を痛めることにつながる」と解説する。

 歩き方、走り方にはクセがあるもの。先の3つのコツを踏まえて、普段から正しい歩き方を心がけよう。また、東京なら皇居周辺など、ランナーが集まる場所には着替えやシャワーの場所を提供するランニングステーションがある。走り方をトレーナーに相談できるクリニック・イベントも開催されているので、機会を見つけて自分のフォームをチェックしてもらうといいだろう。とくにO脚気味の人は、もともとつま先が外を向きやすく、フォームが崩れやすい。よくトレーナーと相談するといいだろう。

関節を支える筋肉を鍛える

 体力自慢の中高年ランナーにありがちなのは、自分自身の筋力を過信していること。膝関節の負担の少ない、正しい走りをサポートしてくれるのは中臀筋、内側広筋、大腿四頭筋などの筋肉だ。秋山院長は「このうち中臀筋、内側広筋はちょっとした運動不足で筋肉量が落ちやすく、鍛えようとしてもなかなか付きにくい」と話す。無理な走り込みで筋力をつけようとすると逆に故障の原因になる。

 秋山院長が薦めるのは、下図のような家庭でもできるトレーニングで筋力アップを図ることだ。このうち中臀筋は体軸のふらつきを防ぐ重要な筋肉。片足で立ってみたとき、すぐにふらついて倒れてしまうようなら中臀筋が衰えているサインだ。図に示したトレーニングのほか、市販のバランスボールなどを利用してもいい。また、内側広筋を鍛えるには膝のすぐ上あたりにボールを挟む運動がよい。ボールは、バレーボールより小さめぐらいがよく、100円ショップで売られている子供用ボールも案外使いやすい。

ひざの関節をサポートする筋肉を鍛えるエクササイズ
(1)中臀筋を鍛えるエクササイズ 上げた右腕が下側になるように、左腕で体を支えて、床の上で体を横向きにする。その状態で左足を30cmほど上げ10秒静止。10回を1セットとして、3セット行う。
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(2)内側広筋(ももの内側)を鍛えるエクササイズ 床の上に両脚を真っ直ぐ伸ばして座り、両脚のももの間に挟んだ直径15cm程度のボールを凹ませるように、10秒間ももに力を入れる。10回を1セットとして、3セット行う。
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格好つけずに自分に合ったシューズを

 高価なクラブが必要なゴルフと違って、ランニングにとりあえず必要なのはシューズだけ。ついついアスリートが使っているような「憧れのシューズ」に手を出してしまいがちだが、秋山院長によれば、それもひざトラブルの元。

 「アスリートは、走りの衝撃を最小限にする体の動きが身についているため、クッション性が少ないシューズを履いている。そうでない初心者は、やはりクッション性の優れたタイプのシューズを選ぶ方がよい」と秋山院長は話す。シューズは、専門的知識を持つ店員のいるショップで選ぶといいだろう。また運動用品メーカーが開催するランニング・クリニックに参加し、相談してみるのもいい。クリニックではO脚気味のひざの負担を減らすインソールなどのアドバイスもしてくれる。

 「高価なシューズを長期間履くよりは、お手頃のものを定期的に買い換えた方がいい」と秋山院長。シューズの踵は走り方のクセによって左右などに偏ったすり減り方をするが、それがフォームを崩すことにつながるからだ。

準備運動と早めのケアが故障を予防する

 秋山院長の最後のアドバイスは、「ウォーミングアップ」と「クーリングダウン」を忘れないようにすることだ。走ることがウォーミングアップと勘違いしている人もいるが、走る前にしっかりとストレッチなどで筋肉を柔らかくしておこう。また、走り込みで筋肉や関節に「痛み」「違和感」などを覚えたら、「走りを終えてすぐにアイシングをするのが基本」と秋山院長は話す。

 痛みは、ランニングのフォームなどのどこかに問題があることを知らせるサインだ。「地域のスポーツトレーナーやランニングクリニックで相談し、走りを一歩ずつ改善していくことが、生涯楽しく走れる体を作ることにつながる」と秋山院長は話している。

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