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誰にも言えない…オトコのお悩み相談室

50代で尿漏れ、叔父は前立腺がん…もしかして自分も?

PSA検診で前立腺肥大か、前立腺がんかを見極め

 荒川直樹=科学ライター

まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。

事務機器メーカーに勤務する52歳。ここ10年ぐらい風邪もひいたことがないほど丈夫なのがとりえだが、近頃カラダの悩みができた。オレの「前立腺問題」だ。まず、最近、オシッコをするのに時間がかかるようになった。排尿後にも、なんだかオシッコが残っている気がするときもある。また、先日は朝起きて体操しているときにオシッコがごく少量漏れてしまい、本当に落ち込んだ。恥ずかしいという気持ちもあるが、自分の叔父さんを前立腺がんで亡くしていることから、まさか自分も…と思ったからだ。少しの尿漏れならいいけど、まだがんで死にたくない。前立腺の病気の基礎知識を教えて。
(イラスト:川崎タカオ)
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 前立腺は、男性の体にだけ存在するクルミ大の生殖器だ。膀胱の真下にあり、尿を排泄する尿道を取り囲むように存在している。前立腺の役割は、まだ解明されていない部分も多いが、まずは精液の一部である前立腺液の分泌。そして射精や尿の排泄にも関与している。

 オトコにとっての問題は、この前立腺が、年齢とともに大きくなる傾向があることだ。さまざまな理由で亡くなった人の前立腺(摘出標本)を病理検査で調べた臨床研究によると、50歳の人では約30%、60歳の人では約60%、70歳の人では80%で肥大が認められた。

前立腺が大きくなると尿道が圧迫される
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前立腺肥大は、さまざまなオシッコ問題を引き起こす

 そして、肥大しはじめた前立腺は、年齢とともに、さまざまな「オシッコ問題」を引き起こすことになる。順天堂大学医学部泌尿器外科の堀江重郎教授は「代表的な症状は、肥大した前立腺が尿道を圧迫することで尿の出が悪くなる排尿症状、尿を溜めることに問題のある蓄尿症状、排尿後に起こる排尿後症状に分けられる」と話す。50歳代ともなれば、以下の症状に覚えがある人も多いだろう。

加齢により現れる代表的なオシッコ問題
排尿症状尿が出にくい
尿の勢いが弱い
排尿するとき、お腹に力をこめる
蓄尿症状尿が近い
夜間、排尿のために起きる
尿がもれる
排尿後症状排尿後に膀胱に尿が残った感じがある
排尿後に下着をつけると少量の尿が漏れる

 これら前立腺肥大の症状は、最初は「ちょっと困ったな」ぐらいの症状でも、少しずつ悪化が進むことが多い。ひどくなると、「宴会で酒を飲んだとき」「風邪薬、咳止めなどの医薬品を使用したとき」などがきっかけで、突然オシッコが出なくなる「尿閉」が起こり、救急車で病院に運ばれることもある。ここまでくると場合によっては手術治療が必要になる。

 排尿に1分近くかかるといった排尿症状に、映画を鑑賞するくらいの時間でもオシッコを我慢できないといった蓄尿症状が重なるようであれば、早めに泌尿器科で相談し、自分の病状を正確に診断してもらうことが大切だ。

前立腺肥大とがんの関連性は高くない

 こうした前立腺肥大症状を持つ人は、前立腺がんの不安も大きいことだろう。国立がん研究センターが発表している「がん罹患数予測(2016年)」によると、男性のがん罹患数の1位は前立腺がんであった。

 ただ、堀江教授は「前立腺肥大を放っておくとがん化すると思っている人も多いが、前立腺が肥大する組織と、がんが発症する組織は異なることが多い」と話す。前立腺がんのリスクは前立腺肥大の程度とはあまり関係がない

 前立腺がんの早期発見のために重要なのは「PSA(前立腺特異抗原)検診」だ。PSAは、前立腺に異常が起きたとき血液中に表れる特異的なタンパク質。その値の高低から前立腺がんの可能性を調べる。

 ただ、PSA検診の結果は、前立腺肥大でも高くなるため、がんが心配される検査値の目安を知っておこう。例えば、64歳以下の人の基準値上限(それ以下なら、がんがないと考えられる値)は3.0ng/mg。PSAが基準値を超えていても、10ng/ml未満であれば、前立腺がんがある可能性は10~20%である。一方、100ng/mlを超えていれば、かなりの確率でがんが見つかるという。

 日本泌尿器科学会のガイドラインでは前立腺肥大症状の有無にかかわらず、50歳代からPSA検診を受けることを推奨している。また、前立腺がんは親族に患者がある場合、罹患リスクが高まると考えられている。家族に病歴のある人の場合は、40歳代からのPSA検診の受診を勧めている。

進行の遅い前立腺がんの治療法選択

 PSA検診で前立腺がんの疑いが高まったときは、がんであるかどうかを確かめるために「針生検」などを行う。これは前立腺の組織を針で採取して、がん細胞の有無を調べる検査だ。

 検査結果が陽性だった場合の治療法については、医師とよく相談する必要がある。堀江教授は「前立腺がんは進行の遅いがん。高齢者の場合、早期に発見されても、残りの生涯のうちに症状が出ないこともある」と話す。

 つまり、がんの悪性度や年齢を考慮しながら、治療法を選択する必要がある。例えば、患者が若く腫瘍も大きいなら完治させることを第一に考えて手術治療や放射線治療を選ぶが、がんと共存しながら天寿を全うしたいという人であれば経過観察治療やホルモン治療などを選ぶという具合だ。

患者にやさしい前立腺がんのロボット支援手術

 手術治療による完治を目指すことを選択した場合、知っておきたいのは前立腺がんにおける最新の手術治療だ。それが「ロボット支援腹腔鏡手術」(ダヴィンチ手術)である。

ダヴィンチ手術の実施風景
手術室でロボットを遠隔操作する堀江医師(順天堂医院)など
患者サイドでは助手も患部の3D画像を共有(写真提供:順天堂医院)
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 ダヴィンチは、腹腔鏡手術用に開発された手術支援ロボットだ。一般的な腹腔鏡手術というのは、まず、体に5~6カ所の穴をあけ、そこから内視鏡やメス、鉗子(かんし)を挿入。医師は腹腔鏡の画像を見ながら、メスや鉗子を操作して手術を行う。それに対してダビンチ手術では、メスや鉗子を動かすのは4本の腕を持つロボットであり、医師はコンソールという装置に座りロボットを遠隔操作する。

 堀江教授は「かつての内視鏡手術では、医師は無理な体勢でメスや鉗子を操作することも多かったが、ダヴィンチでは楽な姿勢で手術が行える。しかも、患部の拡大表示などロボットの支援機能が充実して、より微細な手術が正確に行えるようになった」と話す。

 こうしたダヴィンチ手術の特長は、前立腺がんの根治治療に非常に適したものと言える。前立腺は、排尿をコントロールするのに重要であると同時に、その外側は勃起を起こす神経によりタケノコの皮のように包まれている。そのため前立腺がんの摘出手術を行うと、神経や筋肉が傷つき、手術後に尿失禁や勃起障害(ED)を生じるリスクがあったのだ。

 「ダヴィンチでは、前立腺を包む神経を丁寧に前立腺から剥がしたり(神経温存手術)、排尿機能に重要な筋肉を損傷しない手術が可能になった」と堀江教授。排尿や性生活など治療後のQOL(生活の質)の高い治療といえるだろう。

ダヴィンチ手術の特長
□傷口が小さく、患者の痛みが小さい
□手術時間が短く、回復が早い
□入院期間が短い
□手術後、排尿が早く回復する
□手術後、勃起機能が早く回復する

 前立腺は、膀胱の下にある小さな臓器だが、前立腺肥大や前立腺がんになりその機能を損ねると、QOL(生活の質)を大きく落としかねない。日ごろから、自分の排尿の状態に気を配るとともに、定期的なPSA検診を受けておきたい。

堀江重郎(ほりえ しげお)さん
順天堂大学医学部附属・順天堂医院泌尿器外科 教授
堀江重郎(ほりえ しげお)さん 1985年、東京大学医学部を卒業。東大病院勤務後、米国テキサス州で医師免許取得。2003年に帝京大学医学部泌尿器科学・主任教授に就任。12年から順天堂大学医学部泌尿器外科学・教授。日本泌尿器科学会指導医。日本抗加齢医学会副理事長。一般向けの著書に『ヤル気がでる! 最強の男性医療』(文藝春秋)、『男性の病気の手術と治療―診察室では聞けない前立腺・ED・がんの心得』(かまくら春秋社)、『うつかな?と思ったら男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社)などがある。
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