日経グッデイ

誰にも言えない…オトコのお悩み相談室

職場で人との関わりがおっくうに…男性ホルモンが減ってきたから?

ホルモン補充だけでなく、自分の居場所を持とうとする行動がカギ

 荒川直樹=科学ライター

まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。

建設機械メーカーの営業部門に勤める48歳。ラグビーで鍛えた体力と根性でブルドーザーのように働いてきた。ボディビルが趣味でちょっと毛深いので「歩く男性ホルモン」なんて呼ばれたこともある。しかし、昨年あたりから、このホルモンパワーに異変があらわれた。疲れやすくなり、昼休みなどにボーッとしていることが多く、周囲からも「このところ覇気がない!」と言われてしまった。また、これまで早起きだったのに、寝覚めが悪く新聞を読む気力がない。そんなとき雑誌で目にしたのが男性ホルモンの低下で起こる「男性更年期障害」の記事。まさかと思ったが、よくよく思い起こしてみると、ここしばらく「朝勃ち」がない。飲み会で同僚と盛り上がるのも、何だかおっくうになってきた気がする。女性を口説く気力も消え失せた。ああ、このままオレの男性ホルモンは低空飛行を続けてしまうのか。誰か「ホルモン力」を回復する方法を教えてくれ。
(イラスト:川崎タカオ)
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 女性の場合、閉経期におこる性ホルモンの低下が、いわゆる更年期症状をもたらすことはよく知られている。男性にとって主要な性ホルモンであるテストステロンは、20代後半をピークに減少していくのだが、男性のテストステロン量は個人差が大きいうえ、なだらかに低下していくため、女性のような更年期はないと考えられてきた。

 しかし近年、男性も40~50代になると、ストレスなどが原因でテストステロンが急に低下し、心と体にさまざまな影響を与えることが分かってきた。病態についての研究も進み、LOH(Late-Onset Hypogenadism/加齢性腺機能低下)症候群と呼ばれるようになった。いわゆる男性更年期障害の正式な病名だ。

40代を過ぎたらミスター・ホンダにご用心

 どんな健康な人も、40~50代になれば、なんらかの不調を抱えるようになる。どんなときにLOH症候群を疑ったらいいのだろうか。順天堂大学医学部泌尿器外科の堀江重郎教授が紹介するのは「Mr. HONDAに気を付けろ!」というメッセージだ。

 もちろん特定の人物とは関係ない。LOH症候群に特徴的な症状を英語で示し、その頭文字をつなげると、以下に示すようにHONDAとなるのだ。もともとアメリカで救急医療用に作られた標語だったが、堀江教授が男性医学向けにアレンジした。

:hypertension 高血圧
:obesity 肥満
:nocturia 夜間頻尿
:depression うつ症状、diabetes 糖尿病
:arthralgia 関節痛

 例えば、40代以上で、「肥満気味で関節が痛く、元気が出ず、仕事も楽しくない」「運動がおっくうになり血圧高め」「夜、何回もオシッコで目覚めてしまい、朝がつらい」といった症状があれば、「Mr. HONDA」を疑うきっかけになると考えていいだろう。

自分の「会社ライフ」が色あせていく

 こうした症状のなかでも、ビジネスマンにとって深刻なのは、うつ症状などの精神症状といえる。とくに堀江教授が指摘するのは社会性や行動に異変をもたらすことだ。

 堀江教授は「テストステロンは、社会において協調性を保ちながら自分を主張していくとか、自己実現を図っていくときに重要なホルモンであることが分かってきた」と話す。集団のなかで主張し、表現し、新しいことにチャレンジする意欲を維持するのにテストステロンが必要なのだ。

 だから、ビジネスマンの場合、LOH症候群になると、仕事にはつらつと取り組めなくなり、新しいことにチャレンジする意欲も失われてしまう。重症化すれば、いわば自分自身の「会社ライフ」がまったく色あせてしまうといえるだろう。

 堀江教授は「一般に健康問題は、社会と切り離して論じられることが多いが、LOH症候群というのは患者と社会との関係に深く関わる病気」と指摘する。LOH症候群にできるだけ早く気づき、適切な治療を行うことが、社会の一員でいるために大切といえるだろう。

血液検査でテストステロン量をチェック

 もしかしたら自分もLOH症候群かもしれないと思ったら、どうしたらいいのだろうか。まずは、泌尿器科のなかで「男性更年期外来」「メンズヘルス外来」「男性科」などを標榜している診療科で相談するといいだろう。

 こうした医療機関では、LOH症候群が疑われる患者に対して、まずはAMS(Aging Males Symptoms)調査票を用いた問診を行う。世界的に使われている調査票で、ライフスタイルやLOH症候群に関する症状の有無、EDや排尿障害、睡眠の状況を調べる。合計点が26点以下は正常、27~36点は軽度、37~49点は中等度、50点以上なら至急の治療が必要だ。

LOH症候群の問診に使うAMS(Aging Males Symptoms)調査票の例
1 総合的に調子が思わしくない (健康状態、本人自身の感じ方)
2 関節や筋肉の痛み (腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み)
3 ひどい発汗 (思いがけず突然汗が出る。緊張や運動と関係なくほてる)
4 睡眠障害の悩み (寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが早く 疲れがとれない、浅い睡眠、眠れない)
5 よく眠くなる、しばしば疲れを感じる
6 いらいらする (当り散らす、些細なことにすぐ腹を立てる、不機嫌になる)
7 神経質になった (緊張しやすい、精神的に落ち着かない、じっとしていられない)
8 不安感 (パニック状態になる)
9 身体の疲労や行動力の減退 (全般的な行動力の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分をせかさないと何もしない)
10 筋力の低下
11 憂うつな気分 (落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、 無用感)
12 ”人生のピーク(絶頂期)は通り過ぎた”と感じる
13 力尽きた、どん底にいると感じる
14 ひげの伸びが遅くなった
15 性的能力の衰え
16 早期勃起(朝立ち)の回数の減少
17 性欲の低下 (セックスが楽しくない、性交の欲求が起こらない)
各項目について、「なし」は1点、「軽い」は2点、「中程度」は3点、「重い」は4点、「非常に重い」は5点。合計点が26点以下は正常、27~36点は軽度、37~49点は中等度、50点以上なら至急の治療が必要。(順天堂医院泌尿器科の資料を基に編集部で作成)

 自分のテストステロン値がどのレベルであるかは、血液検査で簡単に測定できる。医療機関によってはその日のうちに結果がわかり、総テストステロン値が350ng/dL以下の場合は治療が必要であるということが世界的な基準となっている。ただ堀江教授は「テストステロン値は、体調やストレスによって大きく変動するので、何回か測定しながら判断することが必要」と説明する。

 専門医は、これらAMS調査票やテストステロン値のほか、全身疾患の有無、生活環境などを考慮しながらLOH症候群の診断を行うとともに、治療方針を決めていくことになる。

ホルモン補充療法を行うのは3割ほど

 診察によってLOH症候群であるとされた場合、主な治療法は男性ホルモン補充療法、漢方薬などによる治療、生活習慣の改善の3つだ。

 ホルモン補充療法は、AMS調査票40点以上、血液検査での総テストステロン値が350ng/dL以下のときに検討される。治療は、テストステロン注射を2~3週間の間隔で3カ月行い、効果があれば継続。50~60代なら治療期間は1年が目安だ。

 期待が高まるホルモン補充療法だが、専門家たちはLOH症候群の症状を改善するには、心理的サポートや生活改善など総合的なアプローチが必要だという。ホルモンさえ補充すれば症状が改善するというわけでもないうえ、安易にホルモン補充療法を行うと患者自身のテストステロン分泌能力を低下させてしまう場合があるからだ。

 堀江教授も「私が診察を行うメンズヘルス外来でも、ホルモン補充療法を行うのは3割程度。残りは漢方療法や生活習慣の見直しにより、患者本来のホルモン生産能力を高める治療が行われる」と話す。

「自分の居場所」をつくることが大切

 ではどのような生活改善が男性ホルモン生産能力を高めることにつながるのか。堀江教授が第一に挙げたのは、自分の居場所を作ること。オーバーワークややっかいな人間関係などで溜まったストレスは男性ホルモンを低下させる。「緊張を解くカギは、自分の居場所をつくること。職場、趣味の集まり、ボランティアなど自分が必要とされる場所を見つけてほしい。どこかで頼りにされている人はLOH症候群にはならない」と堀江教授はアドバイスする。

 そのほか堀江教授は、さまざまな生活改善を提案しているので、その一部をご紹介する。

男性ホルモン生産能力を高める8カ条
積極的にリラックスできる機会を持つ
運動を積極的に行いメタボを解消
日々の食事はおいしく楽しく
ぐっすり眠り、すっきり目覚める
ときどきは大声で笑う
自慢できる趣味を持つ
男同士の友情を大切にする
ワクワク、ドキドキすることに挑戦する

 どれも身近な生活改善ばかりだが、こうした小さな改善の積み重ねが男性ホルモン力をアップしてくれると同時に、LOH症候群によって失われた自分の「社会性」を取り戻してくれるのだ。

堀江重郎(ほりえ しげお)さん
順天堂大学医学部附属・順天堂医院泌尿器外科 教授
堀江重郎(ほりえ しげお)さん 1985年、東京大学医学部を卒業。東大病院勤務後、米国テキサス州で医師免許取得。2003年に帝京大学医学部泌尿器科学・主任教授に就任。12年から順天堂大学医学部泌尿器外科学・教授。日本泌尿器科学会指導医。日本抗加齢医学会副理事長。一般向けの著書に『ヤル気がでる! 最強の男性医療』(文藝春秋)、『男性の病気の手術と治療―診察室では聞けない前立腺・ED・がんの心得』(かまくら春秋社)、『うつかな?と思ったら男性更年期を疑いなさい』(東洋経済新報社)などがある。