自分の「会社ライフ」が色あせていく
こうした症状のなかでも、ビジネスマンにとって深刻なのは、うつ症状などの精神症状といえる。とくに堀江教授が指摘するのは社会性や行動に異変をもたらすことだ。
堀江教授は「テストステロンは、社会において協調性を保ちながら自分を主張していくとか、自己実現を図っていくときに重要なホルモンであることが分かってきた」と話す。集団のなかで主張し、表現し、新しいことにチャレンジする意欲を維持するのにテストステロンが必要なのだ。
だから、ビジネスマンの場合、LOH症候群になると、仕事にはつらつと取り組めなくなり、新しいことにチャレンジする意欲も失われてしまう。重症化すれば、いわば自分自身の「会社ライフ」がまったく色あせてしまうといえるだろう。
堀江教授は「一般に健康問題は、社会と切り離して論じられることが多いが、LOH症候群というのは患者と社会との関係に深く関わる病気」と指摘する。LOH症候群にできるだけ早く気づき、適切な治療を行うことが、社会の一員でいるために大切といえるだろう。
血液検査でテストステロン量をチェック
もしかしたら自分もLOH症候群かもしれないと思ったら、どうしたらいいのだろうか。まずは、泌尿器科のなかで「男性更年期外来」「メンズヘルス外来」「男性科」などを標榜している診療科で相談するといいだろう。
こうした医療機関では、LOH症候群が疑われる患者に対して、まずはAMS(Aging Males Symptoms)調査票を用いた問診を行う。世界的に使われている調査票で、ライフスタイルやLOH症候群に関する症状の有無、EDや排尿障害、睡眠の状況を調べる。合計点が26点以下は正常、27~36点は軽度、37~49点は中等度、50点以上なら至急の治療が必要だ。
LOH症候群の問診に使うAMS(Aging Males Symptoms)調査票の例 |
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1 総合的に調子が思わしくない (健康状態、本人自身の感じ方) |
2 関節や筋肉の痛み (腰痛、関節痛、手足の痛み、背中の痛み) |
3 ひどい発汗 (思いがけず突然汗が出る。緊張や運動と関係なくほてる) |
4 睡眠障害の悩み (寝つきが悪い、ぐっすり眠れない、寝起きが早く 疲れがとれない、浅い睡眠、眠れない) |
5 よく眠くなる、しばしば疲れを感じる |
6 いらいらする (当り散らす、些細なことにすぐ腹を立てる、不機嫌になる) |
7 神経質になった (緊張しやすい、精神的に落ち着かない、じっとしていられない) |
8 不安感 (パニック状態になる) |
9 身体の疲労や行動力の減退 (全般的な行動力の低下、活動の減少、余暇活動に興味がない、達成感がない、自分をせかさないと何もしない) |
10 筋力の低下 |
11 憂うつな気分 (落ち込み、悲しみ、涙もろい、意欲がわかない、気分のむら、 無用感) |
12 ”人生のピーク(絶頂期)は通り過ぎた”と感じる |
13 力尽きた、どん底にいると感じる |
14 ひげの伸びが遅くなった |
15 性的能力の衰え |
16 早期勃起(朝立ち)の回数の減少 |
17 性欲の低下 (セックスが楽しくない、性交の欲求が起こらない) |
自分のテストステロン値がどのレベルであるかは、血液検査で簡単に測定できる。医療機関によってはその日のうちに結果がわかり、総テストステロン値が350ng/dL以下の場合は治療が必要であるということが世界的な基準となっている。ただ堀江教授は「テストステロン値は、体調やストレスによって大きく変動するので、何回か測定しながら判断することが必要」と説明する。
専門医は、これらAMS調査票やテストステロン値のほか、全身疾患の有無、生活環境などを考慮しながらLOH症候群の診断を行うとともに、治療方針を決めていくことになる。
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