注意力を保つことが記憶上手のコツ
さて50代、60代で、ときどき物忘れはあるものの、日常生活や仕事への悪影響はまったくないという人は、一般的な加齢変化と言っていいだろう。加齢変化というと「あきらめるしかないのか」と思うかもしれないが、そうではない。朝田特任教授は「物忘れの特徴を知ることで、自らの行動の欠点をサポートすればいい」と話す。
例えば、人が何かを記憶するとき、まず脳の前頭前野という部分にあるワーキングメモリーに入る。そこで何かに注意し、これは覚えておこうと脳が判断したとき、記憶エリアに格納される。
朝田特任教授は「最近では、何かを記憶するには、覚えておく力と同じぐらい、注意力が必要だということが分かってきた。例えば、重要な書類の入ったカバンを置くときは、自ら「ここに置く」と意識して、注意力を高めることが大切だ。また、印鑑、自動車のカギなど、日常的に扱うものは、つい何気なく置いてしまいがち。身のまわりを整理整頓して、「帰宅したらここに置く」と決めておき、日々注意するといいだろう。
また、ビジネスマンは黒いカバンを使うことが多いが、そこに同じ色の黒い手帳などを入れておくと必要なときに探し出せず、「もしかしたら忘れてきたのでは」と慌てることも多いという。その場合は、手帳に明るい色のカバーをつけるなどの工夫が効果的だ。
脳力サポートで若い頃のパフォーマンスを
スケジュールを忘れやすい場合は、手帳のスケジュール欄の書き込み方に一工夫するとよい。例えば、忙しいときは何日、何時の項目にただ「上野」と場所だけ書いてしまいがちだが、後で何の予定だか分からなくなってしまうことがある。朝田特任教授は「予定を記録する場合は、相手の名前や用件など、必ず2つ以上の言葉を書き入れると、たいがいのことは思い出す」と話す。
2つ以上書くことが重要なのは、人間の記憶は芋づる式に思い出される特徴があるためだという。だから、打ち合わせで会った人の名刺には、ちょっとした容姿の特徴や、雑談に出てきたことなどを書き留めておくといい。それだけで次回会ったときの準備は万端だ。
予定をすっぽかして恥をかかないためには展望記憶のサポートが必要だ。朝田特任教授が勧めるのは、朝、出社前なら家族と、出社後なら同僚と1分間程度のスケジュール会議をすること。それだけで手帳の内容のリマインドになる上、展望記憶も確実に強化されるという。
そして、記憶力や集中力を向上させるために重要なのは、運動と瞑想だという。とくに有酸素運動がお勧め。普段運動しない人でも、週2~3回、20分ほどのウォーキングを行うといいだろう。
朝田特任教授は「人間の注意力、記憶力を司る知的能力は風船のようなもの。年齢とともにそのキャパシティ(容量)が少しずつ低下していく。しかし、それを上手にサポートすれば、いつまでも若い頃と同じようなパフォーマンスを維持できる」とアドバイスしている。
メモリークリニックお茶の水の院長、東京医科歯科大学特任教授
