短時間のエピソード記憶喪失はてんかんの場合も
エピソード記憶の喪失には、2つのタイプがある。一つは、数秒前、数分前に話したことをまったく覚えていないもの。もう一つは、家族で旅行に行ったこと全体を覚えておらず、家族に「あのレストラン最高だったね」などとヒントを言われても思い出さないものだ。
どちらも認知症の初期段階を疑う必要があるが、前者には思わぬ病気が隠れていることもある。てんかんの「複雑部分発作」と呼ばれるものだ。
朝田特任教授は「複雑部分発作は、激しいけいれんなどは起こさない。例えば、会議中に鉛筆を握ったまま、数秒から数分間意識の乱れなどがある程度」と話す。しかし、その間、起こっていることを記憶にとどめる機能がストップしてしまう。その結果、後で自分がしていたことをまったく覚えていないことになる。
てんかんというと子供の病気というイメージがあるが、その発生頻度は中高年以降に再び高まり、60代がピークとなる。治療を行えば発作を抑えることができるので、記憶の異変に早めに気付くことが大切だ。
エピソード記憶喪失の症状 | 可能性のある病気 |
数秒前、数分前に話したことをまったく覚えていない | てんかんの「複雑部分発作」 |
出来事についてヒントを言われても思い出さない | アルツハイマー病 レビー小体型認知症 |
軽度認知障害なら回復する例も
エピソード記憶喪失の後者のケースでは、旅行などの記憶がスッポリ抜けてしまう。専門家によっては「悪性」の物忘れだという。数年に1回あったものが、やがて毎年、毎月と高頻度に起こるようになったら、アルツハイマー病やレビー小体型認知症などが原因の認知症である可能性がある。
こうしたエピソード記憶の物忘れはもちろん、それ以外の物忘れも頻繁に起こり、日常生活や仕事に支障を来すようなら、なるべく早く専門医の診察を受けたほうがよい。朝田特任教授は「これまでの認知症医療では、症状がある程度進んでから治療が開始されていたが、最近では認知症になる一歩手前の状態、軽度認知障害(MIC)の段階でリハビリテーションなどを行うようになってきた」と話す。
認知症患者は、記憶力の低下以外にも注意力、方向感覚、推察する力の低下などさまざまな認知障害が起こる。一方で軽度認知障害は、記憶力の低下が主な症状であり、日常生活は自立して行える状況だ。記憶力低下の背景にある疾病によっても異なるが、リハビリテーションによって症状の進行が遅くなるばかりか、すっかり回復する例もあるという。
回復の機会を失わないためにも早期発見が重要だ。「オレはそこまでは悪くない」と思っていても、検査の結果、微小脳梗塞など思わぬ脳の異変が原因のこともあるという。早めに「物忘れ外来」などを受診してみるといいだろう。
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