日経グッデイ

誰にも言えない…オトコのお悩み相談室

いびきが原因で夫婦別寝室は悲しい…

睡眠時無呼吸でなければ、運動、節酒、姿勢改善も有効

 荒川直樹=科学ライター

まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。

 32歳営業職、結婚5年目のごくフツーのビジネスマンなんだけど、誰にも言えない秘密がある。実はオレは「夜這い夫」。まだ若いのにウチでは夫婦別寝室なのだ。どんなに奥さんと仲良く過ごしていても、寝るときは「じゃあね」だ。その理由はオレのいびき。奥さんの主張は「別にあなたと寝るのは嫌じゃないんだけど、私も仕事あるし~(オレより稼ぎがいい)。ゆっくり眠りたいってわけ」とごもっともだが、とっても寂しい。いびきのせいで心から満たされた家庭生活を送れないオレを誰か助けて!
(イラスト:川崎タカオ)

 いびきは、ありふれた症状の一つであり、年齢とともに増えてくる。順天堂医院耳鼻咽喉・頭頸科の池田勝久主任教授は「30~35歳では男性の20%、女性の5%で起きており、60歳までの有病率は男性で60%、女性で40%との報告がある」と話す。(出典:榊原博樹.日本臨床58.1575-1586.2000.など)

 こうしてみると、世の中の妻の多くは、諦め半分で旦那のいびきと付き合っているようだが、池田主任教授は「それでも改善した方がよいいびき、治さなければならないいびきがある」という。一つは最近「危険ないびき」として知られるようになった睡眠時無呼吸症候群(以下、SAS)だ。SASは、睡眠時に「息が止まる(無呼吸)」などの症状が繰り返される病気で、昼間の眠気のほか、心臓血管障害、糖尿病などのリスクを高めることが知られている。

 そして、もう一つは、いびきの「騒音」により家族の健康的な生活を損ねてしまうという家庭内問題。池田主任教授は「かつては若い女性のいびきは社会通念上許されなかったこともあり、真剣な悩みは女性に多い」と話すが、男性でも「上司とゴルフ場のホテルで同室になり、いびきの不安で明け方まで眠れなかった」「いびきのせいで彼女とうまくいかない」といった声は多い。

 今回は、SASの兆候がない、一般的な人にとっての「いびき対策」を中心に紹介する。

気道が狭くなる原因は多種多様

 いびき対策のためには「なぜいびきが起きるのか」を知る必要がある。池田主任教授は「いびきは、さまざまな原因で気道、つまり呼吸の通り道が狭くなると起こる」と話す。例えば、仰向けの状態で深い眠りになると、舌、軟口蓋(なんこうがい)など口の中の筋肉が緩んで下がってくる(舌根・軟口蓋沈下)。それで気道が狭くなり、息を吸うときなどに振動していびきの音となる。

 ただ、いびきの原因はそれだけでない。池田主任教授は「肥満や扁桃肥大により、口の奥(咽頭部)が狭くなる。あご(下顎)が小さいために、舌の付け根部分の気道が狭くなる。アレルギー性鼻炎、鼻中隔弯曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)などによる慢性的な鼻づまりがある、といったこともいびきの原因になる」と話す。

のどの閉塞がいびきの原因
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いびきは、さまざまな原因で気道、つまり呼吸の通り道が狭くなることで起こる。

 このようにいびきの原因は多種多様だ。いびきの治療に積極的な耳鼻咽喉科医は、原因を探ることから始めるわけだが、医療機関を受診する前に心得ておきたいことがある。

 それはSASの兆候がないことの確認だ。池田主任教授は「家族や友人などに相談し、無呼吸の有無を確認してもらうといい」と話す。もし、睡眠中に呼吸が止まる症状が多く認められた場合は、入院による終夜ポリグラフ検査などSASの診断ができる医療機関を受診し、必要に応じた治療を受けてほしい。

横向きに眠るクセをつけるなど生活改善

 SASではない一般的ないびきの対策には、生活改善、寝具の改善、マウスピース療法、手術治療などいくつかの方法がある。

 いびきの軽減につながる生活改善は、まず、適度な運動による肥満解消がある。睡眠前の飲酒は睡眠中の筋肉を弛緩させて、いびきの原因になるので控える。逆に、ベッドパートナーに先に眠ってもらうために、コーヒーなどの刺激物を取ると良い場合がある。また。睡眠薬や抗ヒスタミン剤などの副作用がいびきの原因になっていることもあるので、その可能性が疑われる場合は担当医と相談したい。

 最も身近にできる改善策は眠る姿勢に気をつけることだ。仰向けに眠ると気道が狭くなりやすい。そこで、横向き(側臥位:そくがい)に寝る習慣をつけると、いびきをかきにくくなる。睡眠中ずっと横向きを保つために、パジャマの背部に袋を縫い付け、その中にテニスボールやゴルフボールを入れておく「ボールテクニック」も有効である。最近は、寝返りを防ぐための腰に巻くサポーターも市販されている。

 一方、横向きに眠る方法のほかに、眠るときに頭部を高くする姿勢(半斜位:はんしゃい)でいびきを低減できる。上半身に畳んだ毛布などを当てるなどすれば、旅行先で「いざというとき」に役に立つ。

眠る姿勢を変えるグッズでいびきを抑える
「ボールテクニック」睡眠中ずっと横向きを保つために、パジャマの背部に袋を縫い付け、その中にテニスボールやゴルフボールを入れておく。
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「半斜位」上半身に畳んだ毛布などを当て、眠るときに頭部を高くする。
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 なお、SASの人はまず医療機関で受診することが前提ではあるが、「減量や節酒、眠る姿勢の改善もある程度は有効」(池田主任教授)という。

チューブを鼻から通す新たな療法も登場

 先に紹介した方法でも改善効果が見られない場合は、迷わず医療機関の耳鼻咽喉科などで受診することがお勧めだ。医療としてのいびき治療のうち、比較的軽度~中等度のいびきに有効なのがマウスピースを用いた物理療法だ。仰向けに寝るとき、下顎が落ちるといびきをかきやすいので、下顎や舌を前方に突出させる特殊なマウスピースを使うと有効だとされる。マウスピースは歯科などで歯形に合わせて作ることができる。

 また、新たな物理療法として登場したのが鼻腔挿入デバイス(商品名:ナステント、提供:seven dreamers laboratories、本社:東京都港区)で、池田主任教授も臨床応用を始めたという。これは、シリコンゴムでできた軟らかいチューブ。鼻から挿入し、口蓋垂(のどちんこ)付近まで通して一晩留置することで、気道の閉塞といびきを改善する使い捨て製品だ。「使用していることが分かりにくいので、効果のある人は旅行時などに使用できる」と池田主任教授。医師による処方箋が必要になるが、seven dreamers laboratoriesのWebサイトで購入できる。取り扱う医師も増えているので、耳鼻咽喉科で相談してみるといいだろう。

シリコンゴムのチューブを鼻から挿入していびきを抑える
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「ナステント」 7チューブ入りで4200円。別途、耳鼻咽喉科での初診料、検査料(全額自己負担)が必要となる。

 そして、一部の患者には手術治療が必要な場合もある。「アデノイド」(咽頭扁桃)の肥大や扁桃肥大がみられる幼児のいびきでは手術による切除が行われるが、大人の場合は生活改善などに効果のない場合に行うのが一般的だ。そのほか鼻づまりの解消のために、レーザーや低周波メスなどで鼻粘膜を焼く「鼻粘膜焼灼術」(びねんまくしょうしゃくじゅつ)などが行われる。

 なお、軟口蓋(なんこうがい)などノドの気道が狭くなる部分をレーザーで焼く治療なども試みられているが、池田主任教授は否定的だ。「重症の患者では、気道の幅広い部分が狭くなっており、効果が得られない場合が多いだけでなく、合併症をもたらすこともあるので行うべきでない」と池田主任教授は話す。

 また、現在のところ、「薬物による有効ないびきの治療法はない」(池田主任教授)という。

 50代を過ぎれば約半数の男性がかくいびき。SASの兆候に注意を払いながら、肥満解消に努めることが、いびき改善の第一歩といえそうだ。

(次回は、ゴルフのやり過ぎなどが原因で起こる、ひじの障害対策についてお伝えします)

池田勝久(いけだ かつひさ)さん
順天堂大学医学部耳鼻咽喉科 主任教授
池田勝久(いけだ かつひさ)さん 1981年に東北大学医学部を卒業し、東北大学医学部附属病院耳鼻咽喉科に入局。1987年、アメリカ合衆国ミネソタ大学耳鼻咽喉科に留学。1993年、東北大学医学部附属病院講師。1999年、東北大学大学院医学系研究科助教授。2003年より現職。
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