また、尿閉は一般的に前立腺肥大がかなり進んだときに起こるが、普段の排尿症状はそれほど気にならなくても、「宴会などで酒を飲んだとき」「かぜ薬、咳止めなどの医薬品を服用したとき」などがきっかけとなって突然尿閉が起こり、救急車で病院に運ばれるケースも少なからずある。アルコールは前立腺を充血させるし、かぜ薬、咳止めには尿道を収縮させる作用があるからだ。
このような前立腺の急速な悪化に備えるため、早めに「自分の前立腺ってどんな感じ?」というチェックを入れておきたいもの。早期発見のために、高橋主任教授が勧めるのが「オシッコのタイムチェック」だ。
健康な男性なら、便器の前に立って準備してから排尿を終えるまでに30秒はかからない。50代を過ぎたらオシッコをするとき、ときどき腕時計などで時間を計ってみよう。30秒を超えてしまったら「ついにオレもその世代に…」と考えたい。これに「オシッコが近くなった気がする」「夜何回もオシッコのために起きる」「映画を観ている途中でオシッコに立つようになった」といった蓄尿症状が重なるようなら、泌尿器科医に相談しよう。
さらに1分以上かかるような場合は、排尿のスムーズさの指標として前立腺肥大症の診断にも使われる最大尿量率が10ml/秒以下であることが多い。ここまで悪化した場合は、「できるだけ早く泌尿器科で精密検査を受けて欲しい」(高橋主任教授)と話す。
ED治療薬と同じ成分が前立腺肥大症の治療薬に
前立腺肥大症の「診断と治療」について、簡単に解説しておこう。前立腺肥大が疑われるとき、病院では問診時に「国際前立腺症状スコア(IPSS)」という質問票が使われる。質問票への回答を点数化し、8点以上だと中等度以上の前立腺肥大症の疑いがあると考えられる。医師は、さまざまな検査で症状の有無を確認するほか、超音波エコー検査による前立腺の大きさのチェックが行われる。健康なら20ml未満の前立腺の大きさ(容積)が、30ml以上あると積極的な治療の対象になる。
質問票は製薬企業などのホームページ(参考ページ:「排尿トラブル改善・com」)でも公開されているので気になる人はチェックしてみるといいだろう。
治療には手術治療と薬物治療がある。前立腺肥大症は少しずつ症状が進行する病気だが、尿閉を起こすリスクが高まっている場合には、尿道から挿入した電気メスで前立腺の一部を切り取り、尿道を広げる手術(経尿道的前立腺切除術)などが行われる。手術治療を必要とする前の段階で、症状を改善し患者のQOL(生活の質)を改善するのが薬物治療である。最も広く使われているのが「交感神経α遮断薬(以下、αブロッカー)」だ。尿道の「平滑筋」をリラックスさせる効果によって、尿の通りを良くすることができる。
αブロッカーは、有効性が高く即効性もある薬剤だが、前立腺が大きくなるのを抑制できないので、症状が再び悪化することがある。そこで、新たなタイプの薬剤も登場している。一つは、前立腺の肥大に関わる男性ホルモンの影響を抑制するタイプの薬剤だ。最近使われるようになった「5α還元酵素阻害薬」は、男性ホルモンが前立腺に働く過程だけを選択的にブロックする薬剤で、飲み続けていると肥大した前立腺を小さくする効果がある。