日経グッデイ

誰にも言えない…オトコのお悩み相談室

軽視できない頑固な鼻詰まり、副鼻腔炎の恐れも

市販薬の使い過ぎによる症状の悪化に要注意

 荒川直樹=科学ライター

まだまだ男盛りの中高年に容赦なく襲いかかる体の悩み。医者に相談する勇気も出ずに、1人でもんもんと悩む人も多いことだろう。そんな人に言えない男のお悩みの数々を著名な医師に尋ね、その原因と対処法をコミカルで分かりやすく解き明かす。楽しく学んで、若かりし日の輝いていた自分を取り戻そう。

建設機器メーカーに勤務する32歳。20代の頃は「ジャニーズ系」と呼ばれたほど、容姿には自信がある。鏡を見れば「鼻筋が通ったいい男」なのだが、最近はこの鼻がオレの弱点だ。もともと季節ごとに鼻水が出やすい体質だったが、がんこな鼻詰まりに悩まされている。ひどくなると常に息苦しく、取引先との打ち合わせで、キリッと口を閉じていると「酸欠」で死にそうになる。市販の点鼻薬を使っているのだが、すぐに効果がなくなってしまった。夜の「いびき」もひどいらしく、彼女からは「お泊まりは嫌!宣言」を出される始末。睡眠不足のせいか、頭が重いことが多く仕事のミスも増えたような…。この鼻詰まりを何とかしたい。
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(イラスト:川崎タカオ)

 鼻の穴の奥には、鼻腔(びくう)という空間が広がっている。鼻腔は粘膜で覆われ、吸い込んだ空気から異物を取り除くとともに、適度な湿度と温度を加えて呼吸器に送り込む働きをしている。

 何らかの原因により、鼻腔の粘膜が腫れ、空気の通りが悪くなった状態が「鼻詰まり」。鼻がつまったとき、多くの人が頼りにするのが市販の点鼻薬だが、使い過ぎには要注意だ。順天堂大学医学部付属順天堂医院耳鼻咽喉科の池田勝久教授は、「市販の点鼻薬には、粘膜の血管を収縮させ、一時的に腫れを引かせる成分が含まれている。しかし、すぐに耐性ができて効果が得にくくなるほか、リバウンドによってより強い鼻詰まりをもたらすこともある」と話す。順天堂医院を受診した患者のなかには、3日間の使用でリバウンドによる鼻詰まりを起こした例もあるという。

 このため、鼻詰まりで悩むようになったら、まずは耳鼻咽喉科を受診して、鼻詰まりの原因を明らかにし、正しい治療を受けるのが大切だ。「鼻腔は、呼吸器、循環器とも密接に関係しており、鼻詰まりを放置していると呼吸器や循環器に重大な不調をもたらすこともある」(池田教授)というから、軽く見てはいけない。

頑固な鼻詰まりをもたらす主な病気
鼻炎アレルギー性鼻炎・季節性(花粉症などが原因)
・通年性(ハウスダストなどが原因)
非アレルギー性鼻炎・ウイルス、細菌、空気汚染、薬物、寒冷などが原因
副鼻腔炎慢性副鼻腔炎・蓄膿(ちくのう)症、好中球性副鼻腔炎とも呼ぶ(細菌感染あり)
好酸球性副鼻腔炎・ぜんそくから発症しやすい(細菌感染なし)

その鼻水、鼻詰まり本当にアレルギー?

 鼻水、鼻詰まりの原因となる病気といえば、まず思い浮かべるのは花粉症などのアレルギー性鼻炎だ。花粉症は季節性で、ハウスダストなどが原因の場合は通年性のアレルギー性鼻炎と呼ばれる。

 最近は、新しいタイプの抗ヒスタミン剤など、眠気などの副作用が少ない、優れた治療薬がある。鼻詰まりに対してはステロイド鼻噴霧薬などを上手に併用することで効果が得られている。それでもなかなか治らないという人は非アレルギー性鼻炎の可能性もあるという。

 これは鼻粘膜がウイルス、細菌、空気汚染、薬物、寒冷などによって刺激を受け、炎症を起こしたもので、喫煙習慣や妊娠、加齢が関係している場合もあるという。内科などで鼻炎の飲み薬を処方されていても、なかなか鼻水、鼻詰まりが解消されないという場合は、一度、耳鼻咽喉科の専門医を受診し、原因に合った治療を受けたほうがよい。

 なかには鼻腔の左右を隔てている鼻中隔(びちゅうかく)という壁が曲がって、空気の通りが悪くなっている鼻中隔弯曲症(わんきょくしょう)という病気が潜んでいる場合もある。池田教授は「一般の人では軽度の鼻中隔弯曲症で鼻詰まりがひどくなることは少ないが、副鼻腔炎(ふくびくうえん)など他の鼻の病気の原因となることもあるので、常に気圧の変化にさらされるパイロットなどは早めの手術を希望することもある」と話す。

頭痛や顔面の重苦しさをもたらす副鼻腔炎

 そして、強い鼻詰まりをもたらす病気の代表として知られるのが慢性副鼻腔炎蓄膿[ちくのう]症)だ。まさか自分が副鼻腔炎とは思わない人も多いが、国内の患者数は100万~200万人ともいわれる。その鼻詰まりは、副鼻腔炎の始まりかもしれない。

 では、副鼻腔炎とはどんな病気か。頬や、鼻筋から額にかけて手で触ったとき、硬い骨があるのを感じるが、その骨のなかにある空洞が副鼻腔(下の図参照)。そこに細菌が感染して発症する。副鼻腔のなかに膿(うみ)が溜まるため、嫌なにおいを感じる。慢性化すると、副鼻腔から鼻腔に通じる穴の周囲に大きなポリープ(鼻たけ)ができて鼻腔を塞ぎ、頑固な鼻詰まりをもたらす。重い副鼻腔炎になると、においをまったく感じなくなって食事を楽しめなくなったり、顔面に重苦しさを感じたり、関連痛としての頭痛が生じることもある。

鼻の骨のなかにある空洞が副鼻腔
頬や、鼻筋から額にかけて手で触ったとき、硬い骨があるのを感じるが、その骨のなかにある空洞が副鼻腔。前頭洞(ぜんとうどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)、篩骨洞(しこつどう)、上顎洞(じょうがくどう)から構成される。重い副鼻腔炎になると、においをまったく感じなくなって食事を楽しめなくなったり、顔面に重苦しさを感じたり、頭痛が生じることもある。

 鼻詰まりで困ったら、まずは副鼻腔炎がないかどうかを確認したい。池田教授は「診断は、内視鏡やCTスキャンで行える。軽度であればマクロライドという抗生物質を、通常の半量で2カ月間服用することで改善することも多い」と話す。症状が重い場合は、手術治療でポリープや膿を取り除くことになるが、最近では患者の負担の小さな内視鏡による手術が進歩している。

ぜんそくも起こす新たな慢性副鼻腔炎が増加中

 そのほか鼻詰まりの原因はさまざまだ。例えば、太りすぎ(肥満)の人は鼻の粘膜が肥厚しやすく、それが睡眠時無呼吸症候群をもたらす一因になる。そして、最近耳鼻咽喉科学の世界で注目されているのが、鼻と呼吸器の関連だ。

 池田教授は「鼻と気管支の病気は合併症を起こしやすい。鼻水、鼻詰まりの訴えで訪れた患者さんの呼吸が少し『ゼイゼイ』しているので、よく調べてみると軽度のぜんそくを発症していることがある」と話す。

 反対に、ぜんそくを患っている人が発症しやすいのが「好酸球性(こうさんきゅうせい)副鼻腔炎」で、近年は患者数が増えている。好酸球というのはリンパ球の一種だ。一般的な慢性副鼻腔炎は好中球性(こうちゅうきゅうせい)副鼻腔炎といい、病気の発症には細菌感染が関与しているが、好酸球性副鼻腔炎は細菌感染が見られない。

 鼻水も膿のようなものではなく、ニカワ(膠)のような透明で黄色い鼻水となる。ポリープ(鼻たけ)が多発するため、ひどい鼻詰まりをもたらし、嗅覚障害や風味の障害に発展することもある。ポリープは手術で取り除いても再発しやすい。治療法として有効なのは、鼻噴霧または経口ステロイドだ。国から難病にも指定され、患者数は2万人ともいわれている。

 「鼻詰まりは、ありふれた症状の一つではあるが、知らず知らずのうちに睡眠の質を低下させ、仕事や学業に影響を与えている可能性がある。最近では呼吸器を過敏にし、ぜんそくを誘発している可能性があることも分かっている。早め早めに適切な治療を受けることがとても重要です」(池田教授)。

池田勝久(いけだ かつひさ)さん
順天堂大学医学部耳鼻咽喉科 主任教授
池田勝久(いけだ かつひさ)さん 1981年に東北大学医学部を卒業し、東北大学医学部附属病院耳鼻咽喉科に入局。1987年、アメリカ合衆国ミネソタ大学耳鼻咽喉科に留学。1993年、東北大学医学部附属病院講師。1999年、東北大学大学院医学系研究科助教授。2003年より現職。