震えにより行動を犠牲にして体温を上げる
さて、この第2段階でもまだ体温上昇が不十分と見なすと、体はいよいよ最終段階の「震えによる熱産生」へと入る。第1段階である皮膚血管の収縮と、第2段階の褐色脂肪組織の燃焼は、自律神経の一つである交感神経によってコントロールされていたが、震えを起こすのは運動神経だ。まさに運動をするかのように、骨格筋をブルブルと震わせて、熱を作り出す。
風邪の引き始めはぞくぞくする程度だった寒気が、がたがた震える状態にまでひどくなり、同時に熱がぐんぐん上がってくる。寒いのに、熱っぽい。「とにかくつらい」という風邪のクライマックスに突入する。体内では、体温上昇とともに、免疫細胞による病原体との死闘が繰り広げられている。
震えは体温を上げる最後の手段だが、これは命を守る最終手段でもあると中村氏は言う。「震えは、運動神経と骨格筋を使って熱を作り出す行為です。これは別の言い方をすると、自分の行動を犠牲にしてでも、体温を上げようとしている状態。運動神経と骨格筋を震えに使っていますから、他の行動がとれない。手が震えてしまって、上手く字が書けないという経験は誰にでもあるでしょう。動物なら、天敵に狙われても逃げられない状態です。そんなリスクと引き換えに、震えによる熱産生を行っているのです」。
たかが風邪と思いがちだが、風邪を引いてがたがた震えが止まらないような状態は、私たちが思っている以上に体にとっては危機的な状況と言える。そして、そこで命を守る仕事をしているのが、体の震えなのだ。なお、このような震えの仕組みをすべて取り仕切っているのは、脳にある体温調節の司令塔である。この働きについては次回で紹介しよう。
京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット准教授

