聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

背中の辺りがぞくぞくして、「あ、風邪かな」と思っていたら、みるみる熱が上がり、体もガタガタ震えてきた…。風邪やインフルエンザにかかって、こんな経験をしたことのある人も多いだろう。風邪に寒気や発熱はつきものだが、この現象、なんだか不思議だと思わないだろうか。
本来、体がふるえるのは、寒いから。それなのに風邪やインフルエンザのときは、発熱して体温が高くなっているのに体が震える。“熱い”と“震える”が同居しているのだ。これはどういうことなのか。
「筋肉を震わせることで熱を作り、体温を上げているのです。そもそも風邪やインフルエンザにかかって熱が出るのは、体内に侵入してきた病原体を増殖させないようにする生体の防御反応。体温が平熱に近い37度くらいだと病原体が増殖しやすいのですが、それよりも2度ほど上がると増殖速度が低下します。また、病原体を攻撃する免疫細胞の中には、体温が上がることでより活発に働くようになるものもあります」。そう話すのは、京都大学生命科学系キャリアパス形成ユニット准教授の中村和弘氏だ。
中村氏によると、体温を上げる仕組み(熱産生)には大きく3段階あり、震えによる熱産生は“最終手段”なのだという。たとえば風邪を引いたとき、第1に起こる反応は「熱を逃がさない」こと。体の中で熱を運んでいるのは血液なので、まずは皮膚のすぐ下の血管を収縮させて、血流を低下させる。いわば、体をエコモードに切り替えて、熱が放散するのを防ぐわけだ。
症状 | 悪寒 | 微熱 | 高熱 |
・寒気を感じる ・顔色が悪くなる | ・熱っぽい ・明らかに寒いと感じる | ・ガタガタ震える ・高熱でとにかくつらい | |
体温 | 37度前後 | 37~38度程度 | 38度以上 |
体内で起こっていること | 皮膚血管を収縮させ、血流を低下させて、体温の低下を防ぐ | 褐色脂肪を燃焼させて、体温を上げる | 骨格筋をブルブルと震わせて、さらに体温を上げる |
こうなると皮膚の血流が少なくなるため、顔が青白くなり、寒気を感じるようになる。風邪の引き初めの「なんだか背中の辺りが寒い」という段階だ。「普段は寒いとは感じないような温度でも、寒いと感じるようになります。なぜそうなるのかメカニズムはまだわかっていませんが、寒いと感じさせることで『体を温めよう』という行動を促し、体温を上げようとしているのだと考えられます」(中村氏)。
この第1の方法でも十分に体温を上げられないとなると、体は次なる手に打って出る。体内にある脂肪を燃やして熱を作ろうとするのだ。脂肪といっても、肥満の原因になる脂肪(白色脂肪組織)ではなく、熱を作り出す働きのある「褐色脂肪組織」がその対象となる。「子供の頃は褐色脂肪組織が多いので、冬でも薄着で平気だったり、風邪を引くとすぐに高熱が出たりします。ただ、この褐色脂肪組織は年齢とともに減少し、熱を作る能力も低下します。年を取ると風邪を引いても子供の頃のように高熱にならないのはそのためです」と中村氏は話す。
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- 震えにより行動を犠牲にして体温を上げる