聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。
この女性の絵は、多くの方が一度は目にしたことがあるだろう。若い女性のななめ後姿と、歳老いた女性の横顔が入れ子になっているこの作者不詳の絵には「妻と義母」というタイトルが付いている。
絵や図形のなかに、異なる見え方が隠されているこの種の絵は、「だまし絵」と呼ばれる。人によって見え方が違ったり、見続けているうちにふと見え方が切り替わったりする不思議さを楽しむ、一緒のトリックアートだ。
同じものを見ているのに見え方が違うのは、考えてみると不思議な現象だ。いったいどんな仕組みで起きるのだろう。
「心理学的には多義図形と呼びます。複数の見え方のうち、一方を脳が選ぶのです」
こう話し始めたのは、日本女子大学人間社会学部教授の竹内龍人さん。だまし絵現象を通じて、人間の知覚のメカニズムを研究している。
ほほう、脳が選択するのですか。
「片方の見え方が意識に上がっているときは、もう一方の見え方が消える。2つの見え方を同時に見ることはできません。脳がスイッチを切り替えることで、同じ絵なのに、違うものに見えるのです」と竹内さんは言う。
複数の見え方を切り替える、脳のメカニズムがある
見え方の個人差はなぜ生じるのか。一般には、自分が興味を持っている対象ほど見えやすいと考えられているそうだ。
さらに、「脳機能の視点からは、『二つの見え方が切り替わりやすいかどうか』の個人差が注目されています」と竹内さんは話す。
こちらの動画は、日本のグラフィックデザイナーが作成したもの。ダンサーのシルエットがクルクル回転している(ように見える)映像だ。
あなたの目には、ダンサーがどちら向きに回っているように映るだろう?
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