「シルエットしか描かれていないので、右回り、左回りのどちらにも見えます。人によって、回転方向が頻繁に切り替わって見える人もいれば、ほとんど切り替わらない人もいます」と竹内さん。この「切り替わりの頻度」が、脳機能の「抑制的なメカニズム」と関連があると考えられている。
「脳の中に、切り替わるのを抑制する仕組みがあり、その抑制力に個人差があるのです」(竹内さん)
抑制力の違いは、性格や気質と関係があるのか? 興味深いポイントだが、そこは現在研究途上のテーマで、確実なことはまだ言えないそうだ。ただ、「抑制力が強い人ほど気が散りにくく、ものごとに集中して取り組む傾向が強いという説があります」と竹内さん。いずれは、こんなテストで性格診断ができるようになるのかもしれない。
ちなみにインターネットの動画サイトには、このシルエットに体表面の造形などを描き込み、両方向の回転が見えやすいよう改変した動画もアップされている。どうしても一方向しか見えないという人は、一度、そういう画像を見てみると、切り替わる瞬間の驚きを経験できるだろう。(カナダの研究機関「Biomotion Lab」の動画はこちら。ページ下へスクロールして下さい)
脳は二次元の情報を三次元に復元している
「そもそもこのシルエット像は、実際に回転しているわけではないことに注意してください」と、竹内さんは話を続ける。
この動画は、あくまでもディスプレー上の黒い模様が連続的に変形しているだけ。それが、あたかも回転している立体的な像のように見えるのは、脳が「立体感」という感覚を作り出しているからだ。
この動画に限らず、私たちが目にするものの情報は全て、眼球の奥にある網膜を介して脳に送られる。もとは三次元だった対象物の姿が、網膜に投影された時点で、情報は二次元になる。
「脳は、その情報を三次元に復元する作業を行っているのです」(竹内さん)
ただ、二次元に投影された段階で、情報量は格段に減っており、完全な復元は望めない。この黒いシルエットの像でいうなら、女性の姿であることは輪郭から推測できるが、見えている面が正面なのか背面なのかは、情報がないため、どちらとも解釈可能だ。
そこで、どちらにも取れるあいまいな部分を、脳が勝手に決める。情報の欠落を、脳が「たぶんこうだろう」と埋めてしまうのだ。そのときに、シルエットを正面とみなすか背面とみなすかで、同じ動きが逆の回転に見えるのである。
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