日経グッデイ

おとなのカラダゼミナール

見た目で健康かどうか、わかるの?

舌、爪、顔に隠されている病気のサイン【前編】

 佐田節子=ライター

聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

 学生時代の友人に久しぶりに会ったら、顔色がいまひとつで、白髪もちらほら。「ちょっと老けたな。仕事が大変なのか…」と心配になったことはないだろうか。あるいは自分自身、寝不足でもないのに「あれ、寝てないの? 大丈夫?」などと心配され、外からはそんなふうに見えるのかとがっくりしたことがあるという人もいるかもしれない。人の印象はかなりの部分、“パッと見”で決まる。これは健康状態においても、同じことが言えるのだろうか?

 「もちろん、言えます。医学的にも、見た目はとても重要。その人の顔色や肌、髪の毛、爪の状態、さらには表情、体つきなど、外見から得られる健康情報は非常に多い。普段の診察でも、『視診』といって医師は患者さんの顔色や姿かたちを見て、健康状態を把握する助けにしますが、特に漢方ではこれが重要。患者さんの状態を子細に観察することは『望診』と呼ばれ、重要な診断法の一つになっています」と話すのは、漢方に詳しい日本薬科大学教授の丁宗鐵(てい むねてつ)氏だ。

 そもそも、漢方は血液検査や画像検査などの客観的な指標がない時代から、人間の体をつぶさに観察することで発展してきた経験医学。望診にはその経験と歴史の積み重ねが詰まっている。つまり、“見た目の法則“の宝庫なのだ。

漢方では見た目で健康状態を素早く見定める

 漢方では、患者が診察室に入って来たときから、すでに診察が始まっている。どんな顔色や表情をしているか、姿勢や歩き方はどうか、声のトーンは高いか低いか、体臭や口臭はあるか、はたまたどんな服装をしているか…。医師は「今日はどうしましたか?」などと話しかけながら、それらを瞬時のうちにさり気なくチェックしている。また、患者に舌を出してもらい、その色や形、大きさなどを詳しく観察することもある。これも漢方ならではの診断法で、「舌診」と呼ばれる。

 「それらの観察を通して、患者さんの体質や体力、健康状態を見定め、どんな病気が隠れているか、今後、どんな病気になりそうかを判断するわけです。この漢方の望診テクニックは、みなさんの普段の健康管理にも大いに役立ちます。鏡の前で舌の状態を見たり、顔色や爪などを観察したりして、健康状態をぜひチェックしてみてください」と丁氏。

 そこで舌や爪、肌、見た目年齢などからどんなことがわかるのか、丁氏に具体的な観察法を教えてもらった。

歯型やひび割れのある舌は要注意

 鏡の前で、舌をべーっと出してみよう。チェックポイントは舌の色、形、大きさ、舌に付着する白っぽいこけのような「舌苔」(ぜったい)の有無、湿り気、動き、色など。たとえば健康な人の舌は、淡いピンク色で、口の中にすんなり納まる程よい大きさ。舌の表面には白っぽい舌苔が全体にうっすらとつき、適度に湿っている。動きも滑らかだ(写真1)。

写真1◎ 正常な舌(提供:丁氏)
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薄いピンク色で、適度に湿り、白い舌苔にうっすらと覆われている。

 一方、“難ありの舌”にはどんなものがあるか。たとえば、舌の側面に歯型がくっきりついた「歯痕舌」(しこんぜつ、写真2)は、ビールの飲みすぎなどで起こることが多い。体内にたまった余分な水分が体に悪さをする「水毒」の状態。歯型がつくのは、舌自体がむくんで歯の圧迫を受けるからだ。「放っておくと、いずれ腎臓や肝臓の機能に問題が起こってくる」と丁氏は注意する。

写真2◎ 歯痕舌(提供:丁氏)
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体内の水分の巡りが悪くなり、舌自体がむくみ、歯型がついている。心臓や腎臓の機能低下も疑われる。

 また、舌にひび割れがある「裂紋舌」(れつもんぜつ、写真3)の場合は、体が水分不足で消耗している可能性がある。「免疫機能が低下したときに見られることが多い。漢方での経験の蓄積から、アレルギーや膠原病(こうげんびょう)との関係も疑われますので、気を付けてください」と丁氏。

写真3◎ 裂紋舌(提供:丁氏)
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日照りの後のひび割れのように亀裂が入っている。水分が不足し、体が消耗している。膠原病との関係も疑われる。

 他にも、舌の色が紫色や暗赤色だったり、舌の裏側の静脈が太く拡張していたりするなら、血液の流れが滞っているサインだ。

爪に出る横線は体の悲鳴

 爪は皮膚の一部。体調が悪いときは肌の調子が悪くなるように、爪にも健康状態が反映される。「爪は約3カ月で生え替わる。つまり、そこには3カ月分の健康情報が凝縮されています」と丁氏。その“情報”の一つが、爪の表面に少しへこんだ形で現れる横線だ(図1)。左右すべての爪に同じように出現する。実は、これはその部分の爪が作られたとき、体がとても過酷な状態にあったことのサインなのだそうだ。たとえば、仕事がハードで徹夜が続いた、インフルエンザにかかって何日も寝込んだ、女性ならひどい月経痛に苦しめられた、など。「本人はこのくらい大丈夫と思っていても、爪に横線が出ているようなら、明らかに赤信号。体が悲鳴を上げていることに気付いてください」と丁氏は助言する。

図1◎ 爪にできた横線に要注意
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爪の表面に少しへこんだ形で現れる横線は、その部分が作られたとき、体がとても過酷な状態にあったことを示すサイン。一方、縦線は加齢とともに現れるので、中高年以上なら心配しなくてよい。

 なお、爪には縦線が現れることもあるが、これは爪の「作りムラ」のようなもので、加齢や体力の低下が主な原因。20、30代で縦線がたくさんできるなら要注意だが、それ以外の場合はあまり心配しなくていいそうだ。

 また、爪の生え際に、白く弧を描く「爪半月」は見えているだろうか。「爪半月が見えていると健康、見えないと不健康」などといわれるが、そんなことはないと丁氏は言う。「爪半月が大きいほど血液循環が良いといえるが、全部の爪に無くても問題はない。せめて親指に見えていれば大丈夫です」。

 爪の形もチェックしたい。たとえば、爪が指先を包み込むように内側に曲がり、指先全体が太鼓のバチのように丸く膨らんでいたら、「ばち状爪(指)」かもしれない(図2)。肺がんや心臓病、肝硬変などの病気があるときになりやすい。逆に、爪が反り返っているなら「スプーン爪」の可能性がある。鉄欠乏性貧血などで起こりやすい。「ただし、爪が薄かったり弱かったりしても、スプーン爪のようになる。この場合は心配いりません」(丁氏)。

図2◎ ばち状爪(指)とスプーン爪も病気のサイン
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「ばち状爪(指)」では、側面から見た爪の角度が180度を超える。肺や心臓などの病気で起こりやすい。「スプーン爪」は鉄欠乏性貧血の人によく見られる。正式には「匙形爪甲(ひけいそうこう)」という。一般に「スプーンネイル」「さじ状爪」などとも呼ばれる。

 次回(後編)では、皮膚の色や見た目の印象から健康状態を探る漢方の診察法を紹介します。

丁宗鐵(てい むねてつ)さん
日本薬科大学 教授
丁宗鐵(てい むねてつ)さん 1947年、東京都生まれ。横浜市立大学医学部大学院修了。医学博士。米国スローン・ケタリング癌研究所客員研究員、北里研究所東洋医学総合研究所研究部門長、東京大学大学院医学系研究科生体防御機能学講座客員助教授、東京女子医科大学特任教授などを経て、百済診療所(東京都中央区)を開設。日本薬科大学教授も務める。『その生き方だとがんになる』(新潮文庫)など著書多数。
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