日経グッデイ

おとなのカラダゼミナール

かさぶた…傷の治りに欠かせないのに、かゆくてはがしたくなるのはなぜ?

実はなくても困らない?

 伊藤和弘=フリーランスライター

聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

かさぶたは傷を乾燥から守り、かさぶたの下で傷は湿潤環境を保っている。(©Vassiliy Prikhodko-123RF)

 転んでヒザなどから血が出ると、やがて「かさぶた」ができる。最近ご無沙汰していても、子どもの頃は多くの人にとってかさぶたは身近な存在だったと思う。今回はそのかさぶたについて考えてみたい。

 かさぶたの構成成分は血液に含まれる赤血球や血小板、血液を固めるフィブリンというたんぱく質だ。傷口から流れ出た血液が固まることで、傷の表面をカバーする。

 見た目は汚くても、かさぶたが傷を治すのに役立っていることに疑問の余地はないだろう。かさぶたができることで血が止まり、外から雑菌が入ることを防いでくれる。しかし、実はもっと重要な役割があるのだ。

 「傷が乾燥していては、皮膚の再生に時間がかかる。かさぶたは傷を乾燥から守り、かさぶたの下で傷は湿潤環境を保っているわけです」と、日本医科大学形成外科主任教授の小川令さんは説明する。

かゆくて、はがしたくなるのはどうして?

 不思議なのは、傷が治ってくるとかゆくなり、ついかさぶたを引っ掻いてしまうこと。乱暴にはがすと傷が大きくなり、出血してしまうこともある。もともと傷を守るためにできたはずのかさぶたなのに、なぜかゆくなって、傷が治るのをときに邪魔してしまうのだろう?

 「傷ができると、その周囲にヒスタミンという物質が増え、さまざまな細胞のレセプター(受容体)にくっつくことによって、細胞が傷を治すために働きます。この過程でヒスタミンが神経に作用してかゆみを感じさせるわけですが、それは結果的に出てしまう副産物に過ぎない。傷を治すために、かゆみが必要なわけではありません」と小川さん。

 では、かゆみという感覚は、そもそも何なのだろうか?

 「かゆみ、イコール、弱い痛みと考えてもいいでしょう。痛みとかゆみは、ほぼ同じ神経が担っており、弱い痛みを結果的にかゆみと感じるのです」(小川さん)

 要するに、かゆみはヒスタミンの作用によって結果的に出てくる感覚で、傷が治るために必要なわけではない。ヒスタミンとしても傷を治す過程でかゆみを出してしまうだけで、積極的にかゆみを生み出しているのではないということだ。

かゆくなったら「塗り薬で保湿」か「ふやかして少し削る」

 しかし、そのどうでもいいはずのかゆみが問題だ。せっかく治りかけているのに、つい、新たに出血するようなはがし方をしてしまいがちだ。これって、やっぱりマズイですよね、先生?

 「そうですね。通常の傷であれば、皮膚が再生するまでに1週間から10日くらいかかる。その前にかさぶたを乱暴にはがすと、傷口が乾燥して回復が遅れます。せっかく再生した皮膚まではがれて、傷跡が残ってしまうことも少なくありません」と小川さんは注意を促す。

 当たり前ではあるが、治りきっていない1週間以内の傷は、くれぐれも乱暴に扱ってはいけない。「傷が乾燥するとかさぶたが厚くなり、皮膚を刺激してかゆくなるので、塗り薬などで保湿するといいでしょう」(小川さん)

 ただし、絶対にはがしてはダメ、と神経質になることもない。「必要以上にかさぶたが厚くなるのも良くない。かゆみが強いなど、はがしたくなったときはお湯に浸し、柔らかくしてから少しずつ削るといいでしょう」と小川さんはアドバイスする。

実はかさぶたを作らないほうがいい?

 最初に触れた通り、かさぶたは傷を治すのに役立っていることは間違いない。一方で、どうしても必要なものでもない…という中途半端な存在だ。

 小川さんは「むしろ、かさぶたを作らないようにしたほうが痛みも少なく、きれいに治るんです」と指摘する。

 「かさぶたは傷を乾燥から守るためにできるわけですが、できれば傷の表面もかさぶたで乾燥させずに、湿潤環境を保つ創傷被覆材(バンソウコウ)を使うのがベスト。最初から使うほうが治りが早いですが、かさぶたをはがした後に貼ってもいいでしょう」(小川さん)。この治療法は湿潤療法と呼ばれる(参照記事:「皮膚の傷跡が残る場合と消える場合、何が違う?」)。

 かさぶたは傷を乾燥から守り、雑菌が入るのをカバーするために“やむを得ず”できるもの。厚いかさぶたは皮膚の再生を邪魔するマイナス面もある。それよりも、皮膚の再生を邪魔しない湿潤療法用のバンソウコウを使えば、かさぶたを作らないだけでなく、治りも早いという。

 ただし、傷口が乾かなければ何でもいい、というわけではない。湿潤療法は一歩間違えると細菌が大繁殖する危険もある。余分な浸出液を吸収し、菌の繁殖も防ぐように工夫された専用のバンソウコウを使おう。

まずは、流水で傷口をしっかり洗う

 同じく、かさぶたができただけで安心してはいけない。傷口が汚れていた場合など、かさぶたの下で菌が繁殖することもある。

 「熱を持っている、周囲が赤く腫れている、といったときは、かさぶたの下で菌が繁殖している可能性が高い。軽く考えず、すぐに病院に行ってください」と小川さん。

 怖い感染を防ぐため、まずは流水で傷口をしっかり洗うことをお忘れなく!

小川令(おがわ れい)さん
日本医科大学形成外科 主任教授
小川令(おがわ れい)さん 1974年生まれ。99年、日本医科大学医学部卒業。会津中央病院形成外科部長、米ハーバード大学研究員などを経て、2009年に日本医科大学形成外科准教授に就任。15年より現職。日本医科大学付属病院形成外科・美容外科部長。創傷治癒センター理事。東京大学医学部形成外科非常勤講師。著書に『瘢痕・ケロイドはここまで治せる』(克誠堂出版)など。