聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

転んでヒザなどから血が出ると、やがて「かさぶた」ができる。最近ご無沙汰していても、子どもの頃は多くの人にとってかさぶたは身近な存在だったと思う。今回はそのかさぶたについて考えてみたい。
かさぶたの構成成分は血液に含まれる赤血球や血小板、血液を固めるフィブリンというたんぱく質だ。傷口から流れ出た血液が固まることで、傷の表面をカバーする。
見た目は汚くても、かさぶたが傷を治すのに役立っていることに疑問の余地はないだろう。かさぶたができることで血が止まり、外から雑菌が入ることを防いでくれる。しかし、実はもっと重要な役割があるのだ。
「傷が乾燥していては、皮膚の再生に時間がかかる。かさぶたは傷を乾燥から守り、かさぶたの下で傷は湿潤環境を保っているわけです」と、日本医科大学形成外科主任教授の小川令さんは説明する。
かゆくて、はがしたくなるのはどうして?
不思議なのは、傷が治ってくるとかゆくなり、ついかさぶたを引っ掻いてしまうこと。乱暴にはがすと傷が大きくなり、出血してしまうこともある。もともと傷を守るためにできたはずのかさぶたなのに、なぜかゆくなって、傷が治るのをときに邪魔してしまうのだろう?
「傷ができると、その周囲にヒスタミンという物質が増え、さまざまな細胞のレセプター(受容体)にくっつくことによって、細胞が傷を治すために働きます。この過程でヒスタミンが神経に作用してかゆみを感じさせるわけですが、それは結果的に出てしまう副産物に過ぎない。傷を治すために、かゆみが必要なわけではありません」と小川さん。
では、かゆみという感覚は、そもそも何なのだろうか?
「かゆみ、イコール、弱い痛みと考えてもいいでしょう。痛みとかゆみは、ほぼ同じ神経が担っており、弱い痛みを結果的にかゆみと感じるのです」(小川さん)
要するに、かゆみはヒスタミンの作用によって結果的に出てくる感覚で、傷が治るために必要なわけではない。ヒスタミンとしても傷を治す過程でかゆみを出してしまうだけで、積極的にかゆみを生み出しているのではないということだ。
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- かゆくなったら「塗り薬で保湿」