最先端の治療法を使えば、傷はどこまで直せるのだろうか。現在、注目されているのは「再生医療」と「局所陰圧閉鎖療法」だ。
再生医療で使われるのは、増殖する幹細胞、細胞が増殖する足場、増殖をうながす成長因子の3要素。特に創傷治療の臨床現場では、コラーゲンなどを素材として開発された「人工真皮」と、「成長因子製剤」が使われることが多いという。かつて、腫瘍を取った後のくぼみや、骨が露出するような深い傷は自然な修復が追いつかず、大がかりな移植手術をするしかなかった。
しかし、「このようなとても深い傷も、人工真皮を入れると、これを足場にして肉芽組織ができてきます」と市岡教授。成長因子製剤を併用すれば、さらに修復が早くなるという。なお、人工真皮は時間が経つと体内に吸収される。
一方の「局所陰圧閉鎖療法」は2010年から保険が適用された最新の治療法。掃除機のように傷口を物理的に吸引するというものだ。傷口を小さくする、細菌や老廃物を取り除く、余分な浸出液を吸い取る、血流を良くして細胞を活性化させる、といった多くの効果が期待できる。
市岡教授は「これら最先端の創傷治療法を組み合わせることで、糖尿病の合併症など、かつては手足を切断するしかなかった傷も治せるようになってきました」と笑顔を見せる。
傷の治療といったレベルを超えて、米国では切断した指を再生する治療が登場していると聞く。このまま再生医療が順調に進歩していけば、はるか未来には「事故で失った手足も再生できる」―なんて時代も来るかもしれない。
埼玉医科大学病院 院長補佐 形成外科教授
