聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

生き物が機械と決定的に違うのは、外部からの衝撃でどこかが壊れたとき、放っておいても自然に治ること。ちぎれた手足がトカゲの尻尾のように生えてくることはないが、ちょっとやそっとのケガなら自然に治ってしまう。考えてみればスゴイことだ。
ケガややけどをしたとき、多くの人が気にするのは傷跡の問題だろう。同じ傷なのに、跡が残るものと、きれいに消えるものがあるのはどうしてなのか?
「傷の治り方には2種類あるんですよ」と、埼玉医科大学病院院長補佐で形成外科教授の市岡滋氏は話し始めた。
跡が残るのは「真皮」深くまで達した傷
「皮膚は外側から表皮、真皮、皮下組織の3層構造になっていますが、傷がどこまで達したかによって治り方が変わります。例えば日焼けのように、やけどでも表皮しかダメージを受けない場合はきれいに元通りに治り、これを“再生”といいます。ところが真皮の半ば以上まで達した深い傷は、再生できずに跡が残ってしまう。この治り方が“修復”。切創(切り傷)でも熱傷(やけど)でも同じことです」
転んでヒザを擦りむいたくらいではめったに跡は残らないが、同じ擦り傷でもバイクの事故などでできた大きな傷は跡が残る。これも真皮深くまで傷が達したため。要するに、傷の種類やできた原因ではなく、あくまで深さが問題になるわけだ。
正常皮膚の再生が可能なのは、真皮の中に達した深い傷でも、「毛穴」が残っているレベルまで。毛穴の中には表皮の細胞が入り込んでいるので、傷ができた真皮のなかに毛穴が残っていれば、表皮の細胞が真皮の上に出てきて正常皮膚を増殖できる。しかし毛穴が失われるレベルの深い傷になると、真皮の上に表皮細胞がない状態になってしまうために、正常皮膚の増殖ができない状態になってしまう。つまり、傷ついても真皮と表皮が接している状態が残されていれば、傷跡はきれいに治るわけだ。
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- 4つのプロセスを経て傷は「修復」される