日ごろからおいしく味わって食べることが、究極の対策
ところで植田さんは、脳卒中などが原因で摂食機能に障害を抱えた人の診療で、「食べる機能」の不思議さをしばしば体験するという。
「医学的な診断では『機能障害のため自力で食べるのは無理』と判定されるような人でも、しばしば好物だけは食べられるのです」(植田さん)
介護をしている家族などに聞くと、「何も食べられません、トロ以外は」などという答えが返ってくることも、よくあるそうだ。
「要は、『食べたい』『おいしい』という気持ちがあれば、きちんと唾液が出て、すんなり飲み込める。摂食機能に問題がある人でさえ、そうなのです」(植田さん)
うーむ。では逆に、健康なのに「食事がのどを通らない」のは?
「『おいしく食べる』というところから、あまりにも遠ざかってしまった姿といえるかもしれませんね」(植田さん)
植田さんは、自戒を込めてこんな話をしてくれた。
「私自身、忙しい診療の合間に『何か食べておかなきゃ』と思ってパンをかじったりすると、味もろくに感じないし、飲み込むのにも苦労します。そんなときは、食べることを雑に扱ってはいけないと反省させられます」
つまり、食を大切にして、じっくりと味わうことが、「食事がのどを通らない」現象への究極の対策ということだろうか。
「そう思います。最近話題の、おじさん俳優が一人メシを味わうドラマがありますが、あんなふうに食べるのが理想ですね」
ほーなるほどー。忙しい毎日の中で、毎食あそこまでやるのは難しいでしょうけれど、できるところから心がけていきましょう。
日本大学歯学部摂食機能療法学講座 教授

