月200km以上走る人はトラブルを起こしやすい
月200kmということは、毎日約7km走っている計算になる。一般のビジネスパーソンにはリアリティのない数字だと思うが、まめに大会に出ている市民ランナーにとってはそうでもないらしい。実際、奥井さんの調査でも半数以上がそれだけ走っていたという。つい、頑張りすぎてしまう人が少なくないのだ。
この調査では同時に「医療機関の受診日数」も調べたが、200km以上走った人たちは明らかに受診日数が多く、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)や不整脈など循環器系の異常が認められた人も4名いたという。
「中高年の市民ランナーには大会中に突然死する人が多い。テストステロン値が低いと、循環器系疾患による死亡率が高まることが分かっています。ケガをする人が増えるのも、テストステロン値が低くなることと無関係とは思えません」(奥井さん)
血中の遊離テストステロン値が8.5pg/mL未満になると、LOH症候群と診断される。奥井さんの調査によると、200km以上走っていた人たちの遊離テストステロン値は平均3.4pg/mLで、明らかにLOH症候群ということになる。マラソン大会に出ている場合ではない!
男性ホルモンが減ってしまうメカニズムは?
では、なぜ適度に走るとテストステロン値が増え、走り過ぎると逆に減ってしまうのか? まだはっきりと証明されたわけではないが、奥井さんは「テストステロンが筋肉で消費されるからではないか」と推測している。
「運動で筋肉が刺激されると大量のテストステロンが分泌され、筋肉に運ばれます。筋肉細胞の男性ホルモン受容体にテストステロンがくっつくと、細胞分裂を促進して筋肉を増やす。この体の働きによって筋肉で使われたテストステロンは消えてなくなる、と考えれば走り過ぎで減ることが納得できます」(奥井さん)
適度な運動によってテストステロンの分泌が高まるが、消費が多すぎると供給が追いつかなくなって減ってしまう。筋トレのオーバーワークの現象にも通じるものがあり、分かりやすい仮説と思える。
なお、筋肉が増えるとテストステロンの分泌量も高くなる。トータルの筋肉量を増やすには、大きな筋肉が多い下半身を鍛える方が効率的。つまり、ジョギングや早歩き(ウォーキング)はテストステロンを増やす効果も大きい運動なのだ。
先の調査を見ると、運動によってテストステロンが増えていくのは月120km程度までだった。これを根拠として、「ジョギングや早歩きをする場合、1ヵ月120km程度の運動量がベスト」と奥井さんはアドバイスする。くれぐれもムキにならず、“ほどほどの運動”を習慣にして、男らしい心身をキープしよう!
よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニック 院長
