日経グッデイ

おとなのカラダゼミナール

悪玉菌が多いと脳卒中に! 腸内フローラと血管の意外な関係

どちらにも良い生活習慣で健康改善の効率アップ

 伊藤和弘=フリーランスライター

聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

腸と血管は持ちつ持たれつの関係。腸が消化吸収した栄養素は血管によって全身に運ばれ、腸自身も血管から栄養をもらっている。(©Juan GArtner-123RF)

 最近、腸内細菌への注目がチョー高まっている。

 人間の腸の中には約1000種類、100兆個以上の細菌がいるといわれる。人間の細胞は全部で37兆個というから、その数倍だ。こいつらは単なる居候ではない。下痢や便秘など、単にお腹の調子に関わるのみならず、全身の健康にも大きく影響していることが明らかになってきたのだ。

 腸内細菌には善玉菌と悪玉菌、その中間の日和見(ひよりみ)菌がいて、これらが混在する全体の構成を「腸内フローラ」(腸内細菌叢)と呼ぶ。それは人によって大きく違い、肥満や糖尿病にも関係していることが分かってきた(*1)。つまり、糖尿病の人に多い菌や、肥満の人に多い菌がいるわけだ。たまたま、肥満の人の便をやせた人の腸に移植したら、その人も肥満になったという報告もある。この人は、16カ月で15㎏増えたという(*2)。

腸の働きが良くなれば血管も良くなる

 さらに、「腸内フローラは動脈硬化とも深い関係があります」と指摘するのは、循環器系の専門家としてテレビ出演も多く、“血管先生”の異名を持つ池谷医院(東京都あきる野市)院長の池谷敏郎さんだ。

 「腸と血管は持ちつ持たれつの関係。腸が消化吸収した栄養素は血管によって全身に運ばれ、腸自身も血管から栄養をもらっている。腸内環境が悪くなれば栄養の吸収が阻害されるし、血行が良くなれば腸の働きも良くなります」と池谷さんは続ける。

 腸内フローラに悪玉菌が多い人は、食物に含まれるコリンという栄養素が腸内細菌に代謝されてできる「TMAO」という物質が多くなる。約4000人を3年間追跡調査した結果、血液中のTMAOが多い人ほど、心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクが高いことが確認された(グラフ)。つまり、動脈硬化が進んでいたわけだ!

腸内フローラが乱れている人は心筋梗塞や脳卒中を起こしやすい
約4000人を血液中のTMAOの量を基に4グループに分けて3年間追跡調査した結果、血液中のTMAOが多いグループほど、心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクが高かった。(N Engl J Med. 2013 Apr 25;368(17):1575-84)
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 腸内フローラと血管が関係しているとなれば、腸内フローラを整えるためには血管のことも考えなくてはいけない。発酵食品や乳酸菌飲料を摂取してせっせと腸を整えても、動脈硬化を進めるタバコを吸っていては効果半減だろう。血行が悪くなり、結果的に腸の働きも悪くなってしまう。

 腸内環境が良くなれば血行も良くなり、血行が良くなれば腸の働きも良くなる。「腸と血管、どちらにもいい生活を心がけると、とても効率が良くなるわけです」と池谷さんはアドバイスする。

 それはどんな生活なのか、具体的に教えてもらった。

*1 Nature. 2012 Sep 13;489(7415):242-9
*2 Open Forum Infect Dis. 2015 Feb 4;2(1):ofv004

腸と血管、両方にいい生活とは?

(1)水溶性の食物繊維をとる

 食物繊維には不溶性と水溶性があり、腸と血管にとって特に重要なのが水溶性だ。大麦、オクラ、山芋、納豆、海藻、アボカドなどに多く含まれている。

 腸内の善玉菌は水溶性の食物繊維を使って、酢酸やプロビオン酸といった「短鎖脂肪酸」を作り出す。短鎖脂肪酸は腸内を酸性に保つことで悪玉菌の増殖を抑え、ぜん動運動を活発にする。また、水溶性の食物繊維はGLP-1というホルモンの分泌を促し、血糖値の上昇を抑える作用もある。

(2)魚に含まれるEPA・DHAをとる

 魚の油に含まれているEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)といった脂肪酸は、体内のあらゆる部位の炎症を鎮める作用が強い。「動脈硬化は血管の炎症」(池谷さん)なので、動脈硬化の予防や改善を期待できるわけだ。さらに、腸の炎症を抑えることで腸内環境も良くなるという。

 また、EPAは細胞膜の原料にもなる。赤血球の細胞膜にEPAが増えると柔らかく(流れやすく)なり、血小板の細胞膜に増えると血液が固まりにくくなり、白血球の細胞膜に増えると炎症やアレルギー反応を起こしにくくなる。「最近の子どもにアトピー性皮膚炎などのアレルギーが多いのは、魚の摂取量が年々減っていることも関係しているのだと思います」と池谷さんは話す。

 魚の油をしっかりとるには、「ホイル焼きやサバの缶詰がいい」(池谷さん)。ツナ缶も悪くないが、サラダ油が入っていることが多いので注意しよう。サラダ油に含まれるリノール酸は体内でアラキドン酸という脂肪酸に変わる。アラキドン酸はEPAと同じく赤血球や白血球の細胞膜になる脂肪酸で、EPAの働きの邪魔をする。

(3)ラクトトリペプチドをとる

 腸内フローラを整えるには、チーズ、キムチ、味噌といった発酵食品がいいことは広く知られている。発酵食品に含まれる乳酸菌が腸内を酸性にし、悪玉菌の増殖を抑え、善玉菌を増やしてくれるのだ。コレステロールとくっつき、体外に排出してくれる働きもある。

 発酵食品の中でもブルーチーズ、ゴーダチーズ、米麹などに多いラクトトリペプチド(LTP)は、とても血管にいい栄養素だ。血圧を下げるとともに、血管内皮細胞からNO(一酸化窒素)の分泌を増やし、血管を拡張する作用がある。

 池谷さんのお勧め料理は「ゴーダチーズとタマネギ入り味噌汁」。味噌とチーズは発酵食品なので腸にいいし、チーズと味噌を別々にとるよりも同時にとるほうが減塩になる。「味噌汁に入れると豆腐みたいで意外に合うんですよ」と池谷さん。タマネギに含まれるケルセチンという成分も、血管を拡張させ、血圧を下げる作用が強いという。

(4)運動する

 運動は腸と血管、両方にいい。体を動かすことで腸のぜん動運動も活発になるし、血行も良くなる。単に心拍数が増えるというだけではない。運動をすると、筋肉細胞からブラジキニンという成分が分泌される。その結果、血液中のブドウ糖が細胞に吸収されやすくなって血糖値が下がり、血管内皮細胞から分泌されるNOを増やして血管を若返らせてくれる。

 池谷さんは腸と血管、ふたつの“クダ”に効く“クダクダ体操”を発案している。

 まず、仰向けに寝てリラックス。ゆっくり息を吐きながら両手で両ひざを抱え込み、そのまま30秒間キープ。再び手足を広げ、30秒間左右に寝返りを打つように体をねじる。以上を1セットとして、3セット行う――という簡単なものだ。ちなみに丸めていた手足を伸ばすときに血管内皮細胞からNOが出て、体をねじることで腸が刺激されるという。

腸と血管に効く“クダクダ体操”
(1)仰向けに寝た状態から、ゆっくりと息を吐きながら両膝を抱えて丸くなる。力まずに呼吸をしながら、30秒間キープ。
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(2)手足を広げ、大の字に寝てリラックス。その状態から30秒間、左右に寝返りを打つようにゴロンゴロンと転がる。(1)(2)を1セットとして、あと2回繰り返す。
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 腸の調子が良くなれば血管も若返り、血管が若返れば腸の調子も良くなる。どちらにもいい生活を意識すれば、その相乗効果ははかりしれないだろう。

池谷敏郎(いけたに としろう)さん
池谷医院 院長
池谷敏郎(いけたに としろう)さん 1962年生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年より現職。東京医科大学循環器内科客員講師。日本内科学会認定総合内科専門医。日本循環器学会循環器専門医。近著に『ダイエットの新習慣』(朝日出版社)、『老けない血管になる腸内フローラの育て方』(青春新書プレイブックス)など。