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おとなのカラダゼミナール

何となく感じる“気配”の正体って何?

サメやナマズが持つ“気配センサー”が人間にも?

 佐田節子=ライター

人間の気配センサーは内耳と体毛?

 内耳には、カタツムリの形をした「蝸牛(かぎゅう)」という器官があり、聴覚を司っている。この中には“毛”の生えた細胞、つまり有毛細胞があり、外から入ってきた音を振動として捉え、電気信号に変えて神経に伝えている。そう、ここにもロレンチニ瓶と同様の有毛細胞があり、盛んに電気活動が行われているのだ。

 「人体の中で一番電圧が高い組織は、この内耳。脳や心臓よりもはるかに高い電圧が常時生じています。私たちは、この内耳がロレンチニ瓶の名残りではないかと考えています」と滝口さんは話す。

 ここで、冒頭の「気配」の話に戻ろう。つまり、この“毛”もあって、電圧も高い内耳こそが、人間においては準静電界を感知する器官ではないかと、滝口さんらは考えているわけだ。「世の中には、流星の音が聞こえたり、星が流れる気配が分かったりする人がいて、流星観察の場で重宝されています。ある調査では、大学生の約2割が聞こえたり、感じられたりするそうです。こうした人たちが、もし内耳で電界の変化を検知しているとしたら、音が聞こえることと、電界の変化を検知して気配を感じられることは、同様の現象だといえるのかもしれません」(滝口さん)

 また、内耳以外に“体毛”も準静電界を感じやすいという。特に、細かい産毛は電気刺激に対して敏感だ。「総毛立つ」とか、「鳥肌が立つ」などという言葉があるが、気配を察知する力は一種、皮膚感覚に近いのかもしれない。滝口さんは、「産毛の多い子供や女性は、気配を感じやすい傾向がある」と話す。

犬や猫も人の近づく気配に敏感

 ところで、ペットを飼っている人なら、犬や猫などの気配察知能力に驚かされるのではないだろうか。「うちのワンコ(あるいはニャンコ)は、自分が家に帰り着くちょっと前から、玄関で待っているようだ」といった話を耳にする。犬や猫も、飼い主の準静電界をいち早く感じ取っているのか。なかには、何メートルも離れたところにいる飼い主の気配を察知して、尻尾を振って待っていることもあるという。しかし、そんな離れた場所から、どうやって気配が分かるのだろうか。

 「歩行時には、体にまとっている準静電界も一緒に動きます。また、片足を上げるたびに、地面との距離が離れることで、人の電位が増幅されます。つまり、じっとしているときよりも動いているときの方が、人が作る準静電界の変化が大きいのです。私たちの実験では、アスファルトの路面を歩いているときには、20~30メートル先にまで、その電位の変化が伝わることが確かめられています」と滝口さん。

人の足踏みで準静電界が生じることを実験で証明
[画像のクリックで拡大表示]
雨上がりの濡れた芝生の上を足踏みした際に生じる準静電界を計測した。足踏みに応じて電界の強さが変化している。なお、通常の静電気はこのような条件下では発生しないという。(提供:滝口さん)

 なるほど、だから犬や猫は飼い主が家にたどり着くかなり前から、その気配を察知できるのかもしれない。しかも、滝口さんによると「歩き方には人それぞれ、固有のパターンがある」という。ペットの犬や猫は、それを認識し、飼い主であると分かったうえで、玄関で待っている可能性があるわけだ。なんとも、いじらしいではないか!

 気配というと、これまではちょっとオカルト的で非科学的だというイメージを持たれがちだったが、少しずつ科学的な解明が進みつつある。滝口さんらは準静電界を利用した通信や医療器具などの開発にも取り組んでいる。“気配のモト”が、最先端の科学になる日もそう遠くはないのかもしれない。

滝口清昭(たきぐち きよあき)さん
東京大学生産技術研究所機械・生体系部門特任准教授
滝口清昭(たきぐち きよあき)さん 1990年、ソニー株式会社入社。同社GPS及び応用製品群の開発統括責任者、同社情報技術研究所、及び技術開発本部にて多重極子構造を用いた準静電界通信、次世代デバイスの基礎研究プロジェクト責任者などを務める。2007年、東京農工大学大学院工学府機械システム工学専攻博士後期課程修了(博士[工学])。東京農工大学大学院工学府客員准教授などを経て、2009年から現職。準静電界に関する研究・教育に従事。

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