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おとなのカラダゼミナール

男性ホルモンが減ると、うつ病になりやすいってホント?

下半身だけじゃない、男性ホルモンの重要な働き

 伊藤和弘=フリーランスライター

聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

 ここ数年、男性ホルモンに対する関心が高まっている。男性ホルモンと聞くと“下半身”の話を連想する方が多いかもしれないが、実はそれだけではない。全身の筋肉を増やし、体脂肪を減らす作用もある。男性ホルモンが減るとメタボリックシンドロームになるリスクが高くなり、寿命が短くなることも分かっている(*1)。

男性ホルモンが作用する体の部位
(辻村さんの資料を基に編集部で作成)
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猿山で男性ホルモンが高いのはボス猿

 加えて、男性ホルモンの「精神面」への影響も近年の研究で明らかにされてきている。

 男性ホルモンはリーダーシップや積極性と深く関係している。「猿山で行った調査によると、いちばん男性ホルモンが高いのはボス猿でした。ボスの座から失脚すると、男性ホルモンも少なくなるんです」と順天堂大学医学部附属浦安病院(千葉県浦安市)泌尿器科先任准教授の辻村晃さんは話す。

 そう聞くと、男性ホルモンが多い人は荒々しく、攻撃的になりそうな気がしないだろうか? 某人気アニメのガキ大将キャラクターのように、すぐに腕力に訴え、「お前のものはオレのもの」とか言いそうだ。ところが、実際はそんなことはないらしい。

 「むしろ、公正さを求める気持ちが強くなるんです」と辻村さん。

*1 Arch Intern Med. 2006 Aug 14-28;166(15):1660-5

男性ホルモンが多い人はウソをつかない!?

 平均年齢24歳の男性91人を2グループに分け、一方にテストステロン(主要な男性ホルモン)を、もう一方にプラセボ(偽薬)を服用してもらった。個室で0から5の目があるサイコロを振ってもらい、出た目を自己申告させる実験をした。出た目が大きいほど、たくさんの賞金をもらえることになっている。

 誰も見ていないのだから、当然「(実際より)大きな目」を申告する人も多くなるだろう。最大の「5」が出る確率は6分の1、すなわち約17%しかないはずだが、プラセボのグループでは62.2%もいた。一方、テストステロンのグループで「5」が出たと言ったのは34.8%で、半分近い割合に抑えられたという(*2、グラフ)。

 この実験の結果から見ると、男性ホルモンが多い人は卑怯なことをせず、“倫理的な”行動を取るようになったわけだ。

男性ホルモンを与えるとウソをつかなくなる
平均年齢24歳の男性91人を2グループに分け、一方にテストステロンを、もう一方にプラセボ(偽薬)を服用してもらった。個室で0から5の目があるサイコロを振ってもらい、出た目を自己申告させた。出た目が大きいほど、たくさんの賞金をもらえる。最大の「5」が出る確率は約17%しかないはずだが、プラセボのグループでは62.2%もいた。一方、テストステロンのグループは34.8%で、半分近い割合に抑えられた(*2)。
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 男性ホルモンが多い人は出世しやすい傾向もあるという。「ウソをつかず他人に公正に接し、無用な対立を避けるほうが結果的に出世につながるということかもしれません」と辻村さん。考えてみれば、他人を蹴落として自分の利益ばかり追求していては人望が得られないだろう。

 攻撃的にはならなくても、男性ホルモンが多い人は精力的で元気が良くなる。外に出て、積極的に他人とかかわろうという意欲を起こさせる。また、リスクを恐れない冒険心も強くなるという。「テストステロンは社会性のホルモンなんです」と辻村さんは指摘する。

*2 PLos One. 2012;7(10):e46774

「80%にうつ症状が見られた」

男性ホルモンが少ないと、うつ病になりやすい。(©ostill/123RF.com)

 これに対して、「家にひきこもって人と会わない生活をしている人は、男性ホルモンの分泌が少なくなることが知られています」と辻村さん。その結果、人と会う気になりにくく、ますます出かけるのがおっくうになるだろう。

 テストステロンの数値が極端に低くなった状態を男性更年期障害とかLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ぶが、その「診療の手引き」には主な症状として「抑うつ」が挙げられている。2015年の米国内分泌学会の第97回年次会議(ENDO 2015)でも、「男性ホルモンとうつ」の関係が報告された。テストステロンが標準よりも低い20~77歳の男性200人のうち、実に56%にうつ症状が見られ、25%は抗うつ薬を使っていた(*3)。

 日本でも男性更年期外来の受診患者のうち47.8%がうつ病だったという報告がある。「テストステロンが低いと、うつ病のリスクが高くなるのは間違いありません。私の男性更年期外来に来た患者では175人のうち140人、80.0%にうつ症状が見られました」と辻村さん。うつ症状が見られる人の中にはうつ病までいかないレベルの人も含まれるが、それにしてもすごい数字だ!

 テストステロンが低くなると、なぜうつ病になりやすくなるのか、正確なメカニズムは分かっていない。もともとテストステロンは「外に出て人と会おう」という意欲を高める社会性のホルモン。減ると行動するのがおっくうになり、人とかかわりたくなくなるのも納得できる。

 一説には脳の扁桃体(へんとうたい)が関係しているという。扁桃体とは感情の処理や記憶を担う部位で、普段思い出したくない恐怖の記憶がため込まれている部分とされる。テストステロンはこれにフタをする働きがある。テストステロンが少なくなるとフタがゆるみ、抑えられていた恐怖の記憶がよみがえるため、不安感や恐怖感が強くなるというのだ。

 逆に、「うつ病の患者にテストステロンを投与すると改善する人が多い、という研究もあります」と辻村さん。最近、やる気がしない、人と会いたくなくなった、という人は男性ホルモンが減っているのかもしれない。

*3 J Sex Med. 2015 Aug;12(8):1753-60

認知症が改善したという報告も

 最近は男性ホルモンと認知機能の関係も注目されている。「テストステロンの投与によって、認知症が改善したという報告は国内にも海外にもあります」と辻村さん。

 国内では東京大学大学院医学系研究科加齢医学講座の秋下雅弘教授らが行った研究が知られている。平均年齢81歳の認知症の男性24人を2グループに分け、一方にだけ1日40mgのテストステロンを飲ませた。3ヵ月後と6ヵ月後に調べると、テストステロンのグループだけ認知機能が改善していたという(*4)。

 このように、テストステロン補充療法は画期的な成果が出ているが、安全性が完全に確認されているわけではない。心臓病のリスクが高まるといった報告もある。

 実はテストステロンの分泌量は、ちょっとしたことで大きく変わる。勝負に勝つと上がり、負けると下がる。また、運動で筋肉に刺激を与えると分泌が高まることも知られている(ただし、マラソンのようなハードなスポーツをすると逆に下がる)。「睡眠、食事、運動も大切ですが、人と会うことも効果がある。テストステロンは社会性のホルモンなので、人と会うだけでも分泌が増えるんです」と辻村さんはアドバイスする。

 逆にテストステロンを下げるのはストレス。規則正しい生活を心がけるとともに、オフタイムは積極的に友人と会い、上手にストレスを解消しよう。

 テストステロン=男性ホルモンが増えれば気持ちも明るくなり、やる気も出る。毎日がもっと楽しくなるはずだ!

*4 J Am Geriatr Soc. 2010 Jul;58(7):1419-21
辻村晃(つじむら あきら)さん
順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科 先任准教授
辻村晃(つじむら あきら)さん 1963年生まれ。兵庫医科大学卒業。米ニューヨーク大学に留学後、大阪大学医学部泌尿器科学准教授、同附属病院教授などを経て、2014年から現職。日本性機能学会専門医。日本メンズヘルス医学会評議員。メンズヘルスクリニック東京(東京都千代田区)の「男性妊活外来」「男性更年期専門外来」担当医も務める。
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