「80%にうつ症状が見られた」

これに対して、「家にひきこもって人と会わない生活をしている人は、男性ホルモンの分泌が少なくなることが知られています」と辻村さん。その結果、人と会う気になりにくく、ますます出かけるのがおっくうになるだろう。
テストステロンの数値が極端に低くなった状態を男性更年期障害とかLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ぶが、その「診療の手引き」には主な症状として「抑うつ」が挙げられている。2015年の米国内分泌学会の第97回年次会議(ENDO 2015)でも、「男性ホルモンとうつ」の関係が報告された。テストステロンが標準よりも低い20~77歳の男性200人のうち、実に56%にうつ症状が見られ、25%は抗うつ薬を使っていた(*3)。
日本でも男性更年期外来の受診患者のうち47.8%がうつ病だったという報告がある。「テストステロンが低いと、うつ病のリスクが高くなるのは間違いありません。私の男性更年期外来に来た患者では175人のうち140人、80.0%にうつ症状が見られました」と辻村さん。うつ症状が見られる人の中にはうつ病までいかないレベルの人も含まれるが、それにしてもすごい数字だ!
テストステロンが低くなると、なぜうつ病になりやすくなるのか、正確なメカニズムは分かっていない。もともとテストステロンは「外に出て人と会おう」という意欲を高める社会性のホルモン。減ると行動するのがおっくうになり、人とかかわりたくなくなるのも納得できる。
一説には脳の扁桃体(へんとうたい)が関係しているという。扁桃体とは感情の処理や記憶を担う部位で、普段思い出したくない恐怖の記憶がため込まれている部分とされる。テストステロンはこれにフタをする働きがある。テストステロンが少なくなるとフタがゆるみ、抑えられていた恐怖の記憶がよみがえるため、不安感や恐怖感が強くなるというのだ。
逆に、「うつ病の患者にテストステロンを投与すると改善する人が多い、という研究もあります」と辻村さん。最近、やる気がしない、人と会いたくなくなった、という人は男性ホルモンが減っているのかもしれない。
- 次ページ
- 認知症が改善したという報告も
