十二指腸から出るホルモンが胃をくねらせる
お腹がグーと鳴って空腹感を覚えても、ちょっと我慢していると平気になる。そして、しばらくするとまたグーと鳴って、「ああ、お腹が空いた!」と感じる。でも、また我慢していると、空腹感はどこかに消えて…。“グー”と空腹感は、いわば波状攻撃でやって来る。これはどういうことなのか。
「個人差はありますが、空腹期収縮は90~120分間隔で繰り返し起こることが分かっています。このような消化管の運動を調節しているのが、十二指腸から分泌される『モチリン』という名前のホルモンです」(坂井さん)
モチリンとはなんともかわいい響きだが、ちゃんと由来がある。モチリンのモチは「運動」、リンは「刺激する」という意味。文字通り、胃腸の運動を刺激するホルモンというわけだ。
モチリンが空腹時に分泌されると、胃はキューッと身をよじるようにして空腹期収縮を起こす。このことを犬を使った実験で初めて詳しく研究したのが、群馬大学医学部教授の伊藤漸(すすむ)さんだった。坂井さんはかつて伊藤さんのもとで助手として研究していたという。
「モチリンが増えると空腹期収縮が起こって、グーとお腹が鳴り、空腹感を覚える。しかし、しばらくすると血中のモチリンが減るため、空腹感が消えて行く。そして、また90~120分ほどすると、モチリンの分泌量が増えて、“グー”と空腹感が一緒にやって来る。モチリンの血中濃度と胃の収縮は、見事に連動しています」と坂井さん。
それにしても、なぜ90~120分間隔なのだろうか。坂井さんはこう続ける。
「我々もそのメカニズムを知りたくて研究しているところですが、まだ謎は解けていません。ただ、90分周期というのは、レム睡眠やある種のホルモンの分泌など、生体ではよく見られるリズム。生体にとっては何か重要な意味とそれを支えるメカニズムがあるのかもしれません」
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- お腹が鳴っても食事をすぐ取らないのが得策