聞きたかったけど、聞けなかった…。知ってるようで、知らなかった…。日常的な生活シーンにある「カラダの反応・仕組み」に関する謎について、真面目にかつ楽しく解説する連載コラム。酒席のうんちくネタに使うもよし、子どもからの素朴な質問に備えるもよし。人生の極上の“からだ知恵録”をお届けしよう。

「スポーツ心臓」という言葉を聞いたことがあるだろうか? なんでも日常的にハードな運動をしているスポーツ選手は普通の人よりも心臓が大きく、安静時の心拍数も少なくなるらしい。
医学的には、どのように定義されているのだろう?
「スポーツ心臓というのはあくまで俗称。正式な定義はないんですよ」と話すのは、心臓血管研究所所長の山下武志さんだ。
「心臓が大きい、心臓の壁が厚い、安静時心拍数が少ないなど、ハイレベルな競技選手に見られる特徴的な心臓の変化。それが病気ではない場合、便宜的にスポーツ心臓と呼ばれているわけです」
心拍数のギャップが大きいほど効果的
どうしてそのような変化をするかというと、激しい運動に適応するためだ。
持久力を要する運動を続けるには、全身の筋肉に酸素を含んだ血液をたくさん送る必要がある。考えられる方法は、まず心臓を大きくして、1回の収縮で送り出す血液量を増やすこと。もうひとつは、心拍数を早くして、一定の時間内にたくさん収縮を繰り返すことだろう。
しかし、心拍数を早くするのは限界がある。それなら、心臓を大きくしたうえで、普段は少ない心拍数でも生きられるようにしておけばいい。1分間の安静時心拍数が70の人にとって200は約3倍だが、安静時心拍数が50なら200は4倍。同じ心拍数でも、安静時とのギャップが大きいほど、そして心臓が大きいほど、運動時に送り出す血液量を増やしやすいということになる。
「実際、一流のスポーツ選手は安静時心拍数が50を切る人が珍しくない。特に持久力を必要とするマラソン選手や水泳選手の中には、40を切る人もいます」と山下さん。
一方、重量挙げのような瞬発力が必要な競技の場合、心臓の壁が厚くなることが多いという。呼吸を止めて爆発的な力を出す瞬間、血圧がグワッと上がる。それに耐えられるようにするためだ。ちなみに、心臓そのものが大きくなる「心拡大」に対して、心臓の壁が厚くなることを「心肥大」と呼ぶ。
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- スポーツ心臓になるのは一部の選手だけ
