日経グッデイ

ビジネスパーソンに贈る 眠りの超スキル

すっきり目覚め、作業効率アップ! 「自己覚醒法」を実践する

目覚まし時計抜きで自然と起床…1週間で8割の人が可能に

 佐田節子=ライター

仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

「自己覚醒法」を習得すると、自分が決めた時刻に起きられるようになる。(©Katarzyna BiaAasiewicz-123RF)

 あなたは朝自然に目覚める方だろうか、それとも目覚まし時計のけたたましい音に無理やり起こされることが多いだろうか。どちらの目覚めが快適かというと、もちろん前者。いきなり目覚まし時計で起こされると、しばらくは頭がボーっとして半分寝ているような状態が続く。できることなら、起きたい時刻に自然に目覚めたい…。そう思っている人にぜひトライしてほしいのが、「自己覚醒法」だ。

 

 日本学術振興会特別研究員(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所外来研究員)の池田大樹研究員は次のように話す。

 「あらかじめ決めた時刻に、目覚まし時計などの外的手段に頼らず自発的に目覚めることを『自己覚醒』と言います。意外かもしれませんが、例えば米国では20歳以上の約半数が、この自己覚醒を習慣にしているという報告があります(Moorcroft WH et al: Sleep 1997; 20:40-45)。日本でも労働者を対象にした調査では、20代が7%、30代が18%、40代が27%、50代が37%と、年齢が上がるにつれて多くなることが分かっています」

短い睡眠時間でも日中の作業効率が向上

 自己覚醒の具体的な方法は後述するが、そのメリットは多い。目覚まし時計で強制的に起こされるより起床後の気分がいいだけでなく、日中の居眠りも少ないことが分かっている(Matsuura N et al: Psychiatry Clin Neurosci 2002; 56 : 223-224)。さらに池田研究員らの実験では、同じ睡眠不足の状態でも、自己覚醒をした場合はそうでない場合に比べ、覚醒度や作業能率が高いことも明らかになった。

 実験に参加したのは、男性日勤労働者15 人(平均年齢41歳)。日ごろは7時間程度の睡眠を取っているが、実験では4日続けて5時間に短縮。そして起床直後と日中に、覚醒度をチェックする課題に取り組んでもらった。被験者は日ごろから規則正しい生活を送っていたため、8割の人が4日間で自己覚醒できるようになったという。その結果、自己覚醒で起床した日は、目覚まし時計で強制的に起こされた日より、起床直後も日中も課題の成績が明らかによかった(下のグラフ)。つまり、同じ寝不足の状態でも、覚醒度や作業能率が高かったわけだ。

自己覚醒により朝の各制度と日中の作業効率が向上
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健康な男性日勤労働者15人(平均年齢41歳)が、4日連続で睡眠時間を5時間に短縮。自己覚醒時と目覚まし時計などによる強制的覚醒時で、単純課題(数字が表示されたらできるだけ早くボタンを押す)の成績を比較した。結果は、強制的覚醒時より自己覚醒時の方が起床直後の課題、日中の課題ともに反応速度が上回っていた。それだけ覚醒度と作業効率が高いと言える。なお、朝の課題は自宅で、日中の課題は実験室で行われた。 (出典:J Sleep Res, (2014)23, 673-680)

 目覚めた後は「睡眠慣性」といって、しばらくは眠気を引きずる。この睡眠慣性は覚醒直前の眠りが深いほど悪化するという。自己覚醒の場合は、眠りが比較的浅くなったところで目が覚めるため、睡眠慣性が低減し、快適に目覚められる。つまり、それだけ覚醒度が高いわけだ。朝だけでなく、日中の覚醒度や作業効率まで改善する理由ははっきりしないが、朝の状態がよいと日中の状態にもよい影響を及ぼす可能性があるという。

 「寝不足のときは仕事の効率が落ちるし、最悪の場合、重大な事故につながったりすることもある。自己覚醒には、睡眠不足時の過度な眠気を低減したり、作業効率の低下を抑えたりする効果が期待できるので、うまく活用するといいでしょう。もちろん、一番いいのは寝不足にならないようにすることですが…」(池田研究員)

体は目覚める前に起きるための準備をしている

 それにしても、どうしてあらかじめ決めた時刻に自然と目が覚めるのだろうか。なんと、体の中では目が覚める前から、“起きる準備”が始まっているという。「人の体は、目覚める1時間ほど前から覚醒に関わる副腎皮質刺激ホルモンの分泌が増えてきます。起きる時刻を意識しておくと、そうでないときよりも分泌量が多くなることが明らかになっています。また、覚醒直前には脳の前頭前野という場所の活動が高まることも報告されています。昼寝の実験では、覚醒の3分ほど前から心拍数が増えてくることも分かっています。そうやって体が徐々に覚醒の準備をした結果、自然に目が覚めるわけです」と池田研究員。

 また、私たちの体には約24時間周期の体内時計が備わっているが、これとは別の“時計”も脳に存在しているという。これは時間経過を認知する「インターバルタイマー」と呼ばれるもの。池田研究員らの実験では、何時に起きようと意識すると、睡眠中の時間判断が正確になることが分かっている。「おそらくインターバルタイマーが正確になることにより、起きたい時刻付近で覚醒の準備が生じ、予定した時刻での自己覚醒が可能になると考えられます」(池田研究員)。

8割の人は1週間で自己覚醒法を習得

 では、自己覚醒は誰にでもできるようになるのだろうか。目覚まし時計派にはちょっとハードルが高いような気もするが…。

 「自己覚醒の習慣がない大学生11人に自宅で1週間、訓練をしてもらったことがあります。目標の時刻の前後30分以内に起きられたら、成功とみなしました。すると1日目から自己覚醒ができた人は64%でしたが、7日目には82%に増えていました。また、目標起床時刻と実際の起床時刻の差も、1日目は16.9分でしたが、7日目には13.1分になり、精度が上がっていました。どうしてもできなかった人がいるのは事実ですが、8割方の人は1週間程度でできるようになるようです」(池田研究員)

 やり方は簡単だ。夜寝るときに、「明日は何時に起きよう」と思うだけでいい。「絶対に起きるぞ」とか「起きられなかったらどうしよう…」などと思うと、逆にストレスになるので、あまり深刻に考えないのがコツだ。また「もしも」に備え、慣れるまでは目覚まし時計を“保険”で使えば、安心だ。起きようと思う時刻より少し遅い時刻にセットしておき、鳴る前に目が覚めたら、成功とみなす。

 「うまくいったら、『よくできた』『これで今日は頭もスッキリで仕事がはかどる』などと、自分を褒めてあげてください。そのような“報酬”でモチベーションを上げると、自己覚醒がうまくできるようになるという報告もあるのです。また、規則的な毎日を送ることも、自己覚醒を習慣化させる近道です」と池田研究員はアドバイスしてくれた。

 快適に目覚めるための超スキル、自己覚醒法。早速、今晩からトライしてみてはどうだろうか。

池田大樹(いけだ ひろき)さん
日本学術振興会特別研究員、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所外来研究員
池田大樹(いけだ ひろき)さん 広島大学大学院総合科学研究科総合科学専攻博士課程後期修了。博士(学術)。日本学術振興会特別研究員、労働安全衛生総合研究所研修生などを経て、現職。自己覚醒に関する研究、睡眠と情動記憶に関する研究などに従事。2015年10月から労働安全衛生総合研究所 過労死等調査研究センター研究員。
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