日経グッデイ

ビジネスパーソンに贈る 眠りの超スキル

睡眠時間は、体に負担をかけずにどこまで短くできる?

ホルモンの分泌サイクルを知って眠りを最適化しよう

 伊藤和弘=フリーランスライター

仕事やプライベートの時間をやりくりするために、真っ先に削ってしまうのが「睡眠」ではないだろうか。また、年齢とともに、眠りが浅くなったり、目覚めが悪くなったりする人も多いに違いない。もう眠りで悩まないための、ぐっすり睡眠術をお届けしよう。

 多忙なビジネスパーソンは毎日とにかく時間がない。仕方なく、つい削ってしまうのが睡眠時間だ。とはいえ、実際に睡眠時間を削るのはツラいし、睡眠不足が続くと健康面の心配も出てくる。

とにかく時間がないビジネスパーソン…。なるべく短い睡眠時間で効率的に体を休めるには?(©bowie15-123RF)

 適切な睡眠時間は6.5~7.5時間とされるが、はたして睡眠時間はどこまで削れるのか? 体に負担の少ない方法はあるのか? 短時間の睡眠を効率的にとるノウハウに詳しい、スリープクリニックの遠藤拓郎理事長に聞いた。

メラトニンが分泌される時間帯に眠る

 「睡眠時間を短くするには、短時間でも効率的に疲れを取れるように、睡眠を取る時間帯を最適にする必要があります。睡眠中は多くのホルモンが分泌されますが、特に成長ホルモンとメラトニンが分泌される時間帯に眠り、コルチゾールの分泌がピークに達する時刻に起床することが重要です」と遠藤理事長は話し始めた。

 成長ホルモンは眠りに入ってから3時間以内、最も深く眠っているときに分泌される。その名の通り体の発育を促すホルモンで、子どもは分泌量が多い。大人にも必要で、壊れた細胞を修復する働きがある。睡眠不足が続くと肌が荒れてくるのは、成長ホルモンの分泌が減るためだ。

 コルチゾールは別名ストレスホルモンと呼ばれ、ストレスがかかると分泌される。特に深夜3時を過ぎると分泌が増え、朝に向けて徐々に体温を上げていく。その結果、自然に目が覚めていくわけだ。

コルチゾールの分泌サイクル
深夜3時を過ぎると分泌が増え、朝に向けて徐々に体温を上げていくように作用する。
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 メラトニンは夜になると分泌されるホルモンで、眠気をもたらす作用がある。夜の9時頃から出始めて11時くらいに眠くなる分泌量に達し、朝の5時頃から減っていくことで目が覚める。起きた瞬間にはまだメラトニンが残っているため眠気があるが、「早朝に太陽の光を浴びるとメラトニンの分泌が止まり、すっきり目が覚めていきます」と遠藤理事長。

メラトニンの分泌サイクル
眠気をもたらす作用があるメラトニンは、夜の9時頃から出始めて11時くらいに眠くなる分泌量に達し、朝の5時頃から減っていく。体温の変化とは逆の変化をする。
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 また、人間の体内時計は25時間周期になっているが、早朝に太陽の光を浴びることでリセットされる。したがって、昼過ぎまで寝ている人はどんどん体内時計が遅れていき、夜になかなか寝付けない体質になってしまう。

 同じ6時間眠るのでも、昼間に眠るのと夜に眠るのでは、体を休める効果が全然違う。それは“睡眠の質”が違ってくるからだ。成長ホルモンは就寝時間に関係なく分泌されるが、コルチゾールは明け方、メラトニンは深夜に分泌が増える。「深い眠りになるホルモンの分泌時間から考えると、0時から6時に眠るのがベストです」と遠藤理事長は指摘する。

 1980年代に米国で行われた約110万人を対象にした大規模な疫学調査から、「最も体にいい睡眠時間」が分かっている。6年後の死亡率を見ると、いちばん低いのは「6.5~7.5時間」眠っていた人たちだった(Arch Gen Psychiatry. 2002 Feb;59(2):131-6)。つまり、0時から6時をカバーする形で6時間半から7時間半眠れば理想的ということになる。

睡眠時間を削るのは4時間半までがギリギリ

 では、いよいよ本題。睡眠時間はどこまで削れるのだろう?

 遠藤理事長みずからも長年実践しているのは“4時間半睡眠”だ。平日の5日間は午前1時に寝て5時半に起きる。土日は少し不足分を補っておく。土日のどちらかで6時間、もう一方で7時間半眠るのだ。週末も起床時間は変えず、就寝時間を早めるのがコツ。遠藤理事長によると、「体に負担をかけずに睡眠時間を削るのはこれが限界」という。60歳未満であれば、4.5時間以上眠っていれば、6年間の死亡率はほとんど上がらないことを示す研究データがあるからだ(Arch Gen Psychiatry. 1979 Jan;36(1):103-16)。

 平均的な睡眠時間を7時間として、毎日2時間半削れば5日で12時間半が浮く。1日の労働時間を8時間とすれば、1週間でほぼ1日半増える計算に。忙しいビジネスパーソンにはありがたい!

 睡眠は夢を見るレム睡眠と深く眠るノンレム睡眠が交互に表れ、90分で1サイクルになっている。よく「90分の倍数で起きるとラク」と言われるのはそのためだ。6時間なら4セット、4時間半なら3セットということになる。

早起きのし過ぎも良くない

 しかし、これはあくまで「睡眠の質がいい人だけができる方法」と遠藤理事長は注意する。なかなか寝付けない、途中で目が覚めるといった自覚症状がある人には危険だ。睡眠計はスマホのアプリにもあるので、チャレンジする前に自分の「睡眠の質」(睡眠中の運動量などで判定される)を確認しておこう。

 「睡眠が不規則で質が悪い人は、まず0時から6時をまたいで規則正しく7時間眠ることを最初の目標に。それが定着したら睡眠時間を6時間に減らし、少しずつ体を慣らしていきましょう」と遠藤理事長はアドバイスする。

 4時間半睡眠を実践する場合も、むやみに早起きするのは良くない。太陽が昇る前に起きると体内時計が起床時にリセットされない。毎日同じ時刻に起きるのがつらくなっていくわけだ。東京の場合、5時半なら春分の日から秋分の日までの半年は太陽が出ている。その間、「毎日規則正しく起床していれば体内時計が安定し、太陽の出ていない冬でも自然に目が覚めるようになる」(遠藤理事長)という。

就寝前には体温を上げておく

 4時間半でも6時間でも、短時間睡眠によって昼間に強い睡魔に襲われないようにするためには、毎日同じ時刻に起きて、睡眠のリズムを安定させることが大切だ。布団に入ったらすぐに眠れる体にしておこう。

 それには、まず目に入る光をコントロールする。メラトニンの分泌が始まる夜の9時を過ぎたら、パソコンやスマホの画面はなるべく見ないようにしよう。ディスプレイから出る「ブルーライト」と呼ばれる光がメラトニンの分泌を抑え、眠気を消してしまう。

 また、睡眠中は体温が下がり、その落差が大きいほど眠くなる。「夕食に熱いものや辛いものを食べたり、夕食前の運動も体温を上げてくれる。最も効果的なのは就寝前の入浴です」と遠藤理事長。

 日中に眠気が強いときは無理せずに仮眠を取ろう。ただ目をつむって安静にしているのに比べて、眠ってしまったほうがその後の眠気や疲労感が少なくなることが確認されている。ただし、仮眠は15分以内に。それ以上眠ると睡眠が深くなり、夜眠れなくなってしまう。事前に熱いコーヒーを飲んでおくといいだろう。熱い飲み物で体温が上がり、カフェインの作用によって短時間で目が覚める。

 どうしても眠い場合、「15分の仮眠を2回、3回とっても構わない」と遠藤理事長。深い睡眠にさえ入らなければ、夜の睡眠への影響は抑えられるという。

遠藤拓郎(えんどう たくろう)さん
スリープクリニック 理事長
遠藤拓郎(えんどう たくろう)さん 1963年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。2005年、スリープクリニック調布院長。その後、スリープクリニック銀座、スリープクリニック青山も開院。日本睡眠学会評議員。女子栄養大学客員教授。ほかの著書に『朝5時半起きの習慣で、人生はうまくいく!』(フォレスト出版)、『合格を勝ち取る睡眠術』(PHP新書)など。
疲れをとるなら帰りの電車で寝るのをやめなさい