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お酒をよく飲む人は風邪をひきにくい?

風邪と飲酒【前編】風邪と飲酒の関係を調べた3つの論文の内容とは

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

寒く、乾燥した季節になると増える「風邪」。最も身近な病気とも言える風邪だが、お酒との関係はどうなっているのだろうか。一般にお酒は風邪にいいというイメージがある。酒飲みなら「風邪気味だからアルコール消毒しよう」などと言う人もいるが、実際はどうなのだろうか。呼吸器疾患のエキスパートとしてテレビでもおなじみの池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんに、風邪と飲酒の関係について聞いた。

 この時期になると欠かせないもの。それは風邪(かぜ)を予防するためのマスクである。冬将軍の到来に伴い、日本列島を覆う乾燥した極寒の空気のせいもあって、この時期は風邪っぴきが多いといったら…。

寒い時期に増える「風邪」。一般に「お酒は風邪にいい」というイメージがあるが、実際はどうなのだろうか。(c)Shao-Chun Wang-123RF

 年明けは年末年始で暴飲暴食をし、長い休みで不規則な生活をしているからか、特に風邪をひいている人がたくさんいるような気がしてならない。

 しかし、不思議なことに私の周囲の酒飲みたちを見渡すと、あれだけ酒を飲んで、不規則な生活をしておきながらも風邪と無縁の方が意外と多いのである。

 かく言う私もその一人で、この数年風邪をひいて長く寝込んだことがない。風邪をひくことがあまりない上に、「あ、風邪かな?」と思うことがあっても、急激に悪化することがなく、体調がやや不良程度でとどまっている。

 もしかして、酒が効いている、つまり「お酒を飲んでいると風邪をひきにくい」んじゃなかろうか…?

 アルコールには血流を促し、カラダを温める効果があることも知られているし、全く関係がないわけではなさそうに思う。そういえば昔から日本では風邪のひき始めに卵酒、ヨーロッパでは香辛料やはちみつを入れたホットワインを飲む習慣もある。

 また飲み仲間の間では、「風邪っぽい? そんなもん、体内をアルコール消毒しちゃえば治るよ~」というのが通常運転。

 さすがに、「いや、まさか」とは思うが、この寒く・乾燥した時期に、ウイルスなんてものともせず飲んでいる酒豪たちの様子を見ていると、酒と風邪が無関係とは言い切れないような気がしてくる。

 一方で、先日の記事でも述べた通り、2018年には「飲酒は少量でもリスクがある」という論文が医学雑誌『Lancet』で発表されるなど(詳しくはこちらの記事を参照)、「お酒は飲まない方がいい」という流れをヒシヒシと感じる今日このごろである。

 そんな逆風の中、めでたく新年を迎えた今こそ、お酒のいい効果もお伝えしたいところである(残念ながらそうならないかもしれないが…)。

 そこで今回は、風邪・インフルエンザ・肺炎対策などの呼吸器疾患のスペシャリストであり、池袋大谷クリニック院長の大谷義夫さんの元を訪ね、風邪と飲酒の関係について直撃した。

 大谷さんは風邪対策の専門家であると同時に、医師になってから30年以上ほとんど病気をしたことがないという「体調管理のスペシャリスト」でもある。2019年12月には『絶対に休めない医師がやっている最強の体調管理』(日経BP)も発行している。そこで、風邪とお酒の関係から、風邪を防ぐためのテクニックまでを2回に分けて紹介していこう。

そもそも風邪って? 原因はウイルス? 細菌?

 飲酒との関係について触れる前に、まずは、「風邪」とはそもそもはどういう状態を指すのか、基本的なところから大谷さんに聞いていこう。

 「風邪とは、急性上気道感染症の1つで、風邪症候群(common cold)と呼ばれています。専門的な定義では、『さまざまなウイルスを原因として鼻汁や鼻閉(鼻づまり)などの上気道炎症状をきたし、自然軽快する症候群』と言います」と大谷さんは話し始めた。

 「上気道とは呼吸器のうち鼻から喉(のど)まで、つまり気管、気管支にまで発展しない部分のこと。そこに現れる喉の痛み、咳、鼻水、鼻づまりなどが上気道炎症状と言われます」(大谷さん)

風邪は上気道の炎症

 恥ずかしながら、風邪に専門的な定義があったなんて初めて知った。大谷さんはさらに「風邪ではこうした症状が通常3~7日、長くても2週間程度で治ります」と続けた。

 確かに風邪をひいても治ることを前提として考えているので、「単なる風邪」くらいの認識でしかない。だが「炎症が上気道を通り越し、気管支に広がると気管支炎に、肺に到達すると肺炎になることもある」と大谷さんは注意を促す。どうやら「たかが風邪」と、甘く見てはいけないようだ。

 大谷さんは、「風邪の原因はほとんどがウイルスで全体の8~9割、残りの1~2割が細菌」なのだと説明してくれた。風邪をひいたときに、よく「念のため抗生物質を」などと言われることがあるが、「抗生物質は細菌を殺すための薬で、風邪で抗生物質を処方されるのは『念のため』以外のものではありません。今は、風邪で不要な抗生物質は出さないのが常識」(大谷さん)なのだという。

 「風邪と言えば抗生物質」と思っていた…。ここでしっかりと知識をアップデートしなくては! 抗生物質に関しては正直、モヤモヤっとしていたので、大谷さんの説明でスッキリできた。

 では、風邪には、具体的にどんなウイルスが関係しているのだろうか?

 「実は、風邪の原因となるウイルスは200種類以上あると言われています。最もメジャーなのは春と秋に猛威をふるうライノウイルスで、風邪の30~40%がこのウイルスが関係していると言われています。『鼻風邪ウイルス』という異名があるように、鼻づまりや喉の炎症を引き起こします。冬に流行しやすいのはコロナウイルスで、鼻、喉の他、発熱を伴うこともあります。風邪の約1割はコロナウイルスによるものと言われます」(大谷さん)。このほか、RSウイルスやアデノウイルスなども風邪の原因となるウイルスだという。

 200種類以上!! こんなにあるとは思わなかった。これは想像を遥かに超えている。

 また、「風邪とは分類が異なりますが、上気道感染症を生じる最も怖いウイルスが、皆さんご存じのインフルエンザウイルスです。冬に勢いを増す、今の時期、最も注意すべきウイルスです。インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型があります。A型とB型は大流行して重症化することが問題になります。一方で、C型は軽症で風邪と区別がつきませんので、問題となりません」(大谷さん)

 「インフルエンザの感染後は免疫が低下して、肺炎を発症することも少なくありません。特に高齢者は肺炎合併率が高いのですが、高齢者に限らず、どの世代でも油断できません」と大谷さん。

 インフルエンザともなれば、マスクなどで自衛するのももちろんだが、まずはワクチンで予防するのが第1であろう。「人にうつさないためにもワクチンで予防することが大切です。ワクチンを打っても感染することがありますが、病状が軽減します」(大谷さん)

イギリスの研究で、飲酒量が多くなるほど発症率が低いという結果が

 さて、風邪の定義、原因が分かったところで、そろそろ一番知りたい風邪と酒の関係について、さらに深掘りしていこう。

 最も身近な病気とも言える風邪だが、果たして風邪と飲酒の関係を調べた研究などあるのだろうか。「お酒を飲むと風邪をひきにくくなる」などという都合のいい論文があるといいのだが…。

 「論文を調べるのが面白くてたまらない」という筋金入りの“エビデンス・マニア”の大谷さんに尋ねると、こんな返事が返ってきた。

 「実は飲酒と風邪について研究した論文がヨーロッパと日本と合わせて3つあります」(大谷さん)。満面の笑みを浮かべる大谷さんを見て、「これは期待大」と確信した。

 最初の論文は、1990年代前半にイギリスで発表されたものだという。

 1993年にイギリスのコーエンらは390人の健常者に対し、ライノウイルスやコロナウイルスを鼻腔に投与し、その後の風邪の発症や経過を調査した(Am J Public Health. 1993;83:1277-83.)。そこで、喫煙や飲酒、社会心理的ストレスなどの影響を調べている。

 「その結果、投与したウイルスの種類を問わず、ストレス度が大きい人は発症率が高い、喫煙者は発症率が高い、そして非喫煙者は1日当たりの飲酒量が多い人ほど発症率が低いという結果が得られました」(大谷さん)

 下のグラフにあるように、非喫煙者では、飲酒量が多くなるほど発症率が低くなっていることが分かる。ここでの飲酒量「1ドリンク」は、ワイングラス1杯に相当するものだ。飲酒量ゼロの人の風邪発症率はおよそ45%なのに対し、飲酒量が1日当たり「1.1~2ドリンク」で発症率は約30%、飲酒量「2ドリンク以上」で発症率は約15%となっている。

飲酒量と風邪発症率の関係(イギリスの研究)
390人の健常者を対象に風邪のウイルスを鼻腔に投与し、その後の風邪の症状の発症や経過を調査した結果。非喫煙者はアルコールの摂取量が多くなるほど風邪発症率が低くなった。(Am J Public Health. 1993;83:1277-83.)

 おお!! 初っ端(しょっぱな)からうれしい報告である。

スペインの研究からはワインの効果が示唆される結果に

 次に、大谷さんが紹介してくれたスペインの研究は、スペイン国内の5つの大学の教員4272人を対象に10年間追跡したコホート研究で、風邪の発症と、日常生活におけるアルコール飲料の種類、飲酒頻度、飲酒量との関係を調べようとしたものだ(Am J Epidemiol. 2002:155;853-8.)。

 「調査によると、教職員4272人は、1人当たり年に1.4回風邪をひきました。非喫煙者を対象に、『お酒を飲まない人』と比べると、『ワイン(赤白両方含む)を週に14杯以上飲む人』の発症リスクは約60%でした」(大谷さん)

 下のグラフは、非喫煙者を対象とした、ワインの飲酒量(週当たりの飲酒量:グラス換算)と風邪の罹患リスクの関係を示したものだ。ここでは飲酒量が増えるほどリスクが減少していることが分かる。

ワインの飲酒量と風邪発症リスクの関係(スペインの研究:非喫煙者)
スペインの大学の教職員4272人を10年間追跡したコホート研究の結果。ワイン(赤白両方含む)の摂取量(杯)が多い人ほど、風邪の発症リスクは低くなった。なお、この研究では、喫煙・非喫煙を含めた全体で見ても、ワインの飲酒量が増えるほどリスクが減ることが確認されている。(Am J Epidemiol. 2002:155;853-8.)

 スペインの研究でも、お酒をよく飲む人のほうが風邪をひきにくいという結果になったわけだが、これはワインについてのもの。ビールやスピリッツなどについては、同様の傾向は確認できていない。

 この研究では、ワインの中でも、特に赤ワインの効果が高いという結果が出ている。「お酒の種類の比較をした結果では、ワインの中でも赤ワインが最もリスクが低くなっています。飲酒量を補正した結果では、ワイン全体のリスクが56%なのに対して、赤ワインでは39%になっています(いずれも週14杯以上:喫煙者・非喫煙者含む全体)。この結果から、この論文では『赤ワインに多く含まれるポリフェノールの抗酸化作用により、ウイルスの増殖が抑制されているのでは』と考察しています」(大谷さん)

 なるほど、スペインの研究では、お酒の中でもワイン(中でも赤ワイン)の効果が示唆される結果となっているわけだ。

日本の研究では、飲む頻度が多いほど風邪をひきにくい結果に

 3つ目の研究は、日本の東北大学のコホート研究「仙台卸商研究」である。899人の中年の勤労者を対象に、過去1年間の風邪罹患の有無と、生活習慣を調査し、生活習慣と風邪罹患の関係を調査した研究だ(BMC Public Health. 2012;12:987.)。

 対象者の55.4%が過去1年間に1回以上の風邪を経験していた。そして、飲酒頻度が高くなるほど、風邪罹患リスクは減少していた。

 「一番風邪をひきにくかったのは『毎日お酒を飲む人』で、次いで『週4~6回』、そして『週3回以下』という結果が得られました。飲む頻度が多いほど、風邪をひきにくい、つまり『お酒を飲む回数が多いと風邪の予防に役立つ可能性がある』という結果になったのです」(大谷さん)

飲酒頻度と風邪罹患リスクの関係(日本の研究)
899人の中年の勤労者を対象に、生活習慣と風邪罹患の関係を調査した結果。一番風邪をひきにくかった人は、毎日お酒を飲む人だった。(BMC Public Health. 2012;12:987.)

 日本の研究からも、飲酒は風邪の予防に役立つ可能性があるという結果が得られていた! そして、お酒を頻繁に飲む人ほど風邪をひきにくい、つまり重要なのは「お酒を飲む頻度」ということだ。スペインの研究でも、ワイン限定とはいえ同様の傾向が確認できている。

なぜ飲酒は風邪の予防に役立つのか?

 では、飲酒が風邪のリスク軽減につながっているのは、どういったメカニズムによるものなのだろうか。

 「スペインの研究では、赤ワインに含まれるポリフェノールが関係しているのではと考察していましたが、東北大学の研究で被験者たちが飲んでいたのはビールや焼酎がメインです。こうしたことを踏まえ、この研究では『アルコールによる身体の一部での体温の上昇』が影響しているのではないかと推測しています」(大谷さん)

 「代表的な風邪の原因ウイルスであるライノウイルスは37℃以上では増殖しづらくなることが知られています。アルコールの血管拡張作用などによってライノウイルスの主たる感染場所である鼻の温度が上がり、増殖が妨げられているのではないかと考えられます」と大谷さんは話す。

 そういえば、自分も含め、周囲の酒豪たちは真冬でもほぼ薄着のような気がするが、それはやっぱりアルコールによる血管拡張効果が影響しているのかも?

 このほか、お酒を飲むことによるストレス軽減効果も関係しているのではないかと大谷さんは話す。

 「イギリスの研究結果で、ストレス度が高い人ほど風邪をひきやすいという結果が出ています。お酒を飲むことでストレスが軽減したこともまた、風邪の発症リスクが低くなることにつながったと考えられます」(大谷さん)

         ◇      ◇       ◇

 これら3つの論文のデータから、アルコールの摂取が風邪の予防に役立つ可能性があるのは確かなようだ。新年早々、お酒の「ポジティブ」な効果をご報告できてうれしい限りである。酒と風邪の“いい関係”が分かったところで、次回は、具体的な対策を紹介していこう。

 先にクギを刺しておくが、いくら風邪の予防になるからといって、飲み過ぎはNGである。では、どういった飲み方がいいのか、気になるところだろう。そこで次回は、大谷さんのお勧めするお酒の飲み方から、酒と一緒に併せてとりたい食べ物、そして大谷さんが実践している日々の風邪予防対策までをご紹介する。併せて読めば今年は風邪知らず!

(図版:増田真一)

大谷義夫(おおたに よしお)さん
池袋大谷クリニック 院長
大谷義夫さん 1963年生まれ。群馬大学医学部卒業。東京医科歯科大学呼吸器内科医局長、同大学呼吸器内科兼任睡眠制御学講座准教授、米ミシガン大学留学などを経て、2009年より現職。日本呼吸器学会専門医・指導医。日本アレルギー学会専門医・指導医。近著に『65歳からの誤嚥性肺炎のケアと予防 9割の人は持病では死なない!』(法研)、『長生きしたければのどを鍛えなさい』(SB新書)、『医師が教える「1日3分音読」で若くなる!』(さくら舎)など。

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