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飲酒による骨への悪影響をビタミンEが防ぐ!

飲酒と骨粗しょう症【後編】適量飲酒、そしてビタミンE、D、Kを意識的にとる

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

 「転んで、骨折して、そのまま寝たきり…」という恐怖のコースは誰しも避けたいもの。そこで気になるのが骨粗しょう症だ。実は、骨粗しょう症による骨折リスクは飲酒と関わりがある。また、お酒で顔が赤くなる人は骨折リスクが高いという。
 では何か打つ手はあるのだろうか――。「飲酒と骨粗しょう症」の後編となる今回は、骨折リスクを下げるために、飲酒面や日々の食事などで気をつけるべきことを、慶應義塾大学医学部の宮本健史さんに聞いていく。

 「寝たきり」につながるリスク要因として、近年大きな問題となっている「骨折」。そしてシニアの骨折と深く関わっているのが「骨粗しょう症」だ。前回は、慶應義塾大学医学部 整形外科学 先進運動器疾患治療学寄付講座 運動器科学研究室 室長の宮本健史さんに、飲酒と骨粗しょう症の関係について聞いた。

お酒を飲むと顔が赤くなる人は大腿骨近位部骨折のリスクが高いという。何か対策はないのだろうか。(c)decade3d-123RF

 宮本さんたちの研究により、ALDH2(アセトアルデヒド脱水素酵素)の活性が低い人、いわゆるお酒を飲むと顔が赤くなる人(全くお酒が飲めない下戸の人も含む)は、骨粗しょう症による大腿骨近位部骨折のリスクが高くなることが明らかになっている。お酒に強い人に比べて、骨折リスクは2.5倍にもなるというから恐ろしい(詳しくは前編を参照)。

 この研究は普段ほとんどあるいは全くお酒を飲まない人を対象にしたもので、お酒で顔が赤くなる人は、お酒を飲まなくてもリスクが高いのだという。さらに、お酒を飲めばそのリスクはさらに上がる。また、お酒に強く、顔が赤くならない人でも、大量飲酒の習慣がある人はやはりリスクが高まるという。

 ショック…。お酒を飲む飲まないにかかわらず、リスクが高いというのでは救いがない。取材前から多少覚悟していたが、実際に話を聞くと予想以上に影響が大きい。

 そんな気落ちする私に宮本さんは、「リスクを下げる手立てはあります」と話してくれた。後編となる今回は、骨粗しょう症のリスクを抑える具体的な対策を宮本さんに聞いていこう。

お酒を飲めば影響は避けられず! 適量飲酒を心がけよう

 最初に、酒量について確認しておかねばなるまい。先生、骨粗しょう症のリスクを下げるには、やはりアルコールの総量を減らすのはマストなんでしょうね(涙)。

 「はい、前回も説明したように、元凶はアセトアルデヒドにあります。野菜などの摂取による微量摂取でも影響があるわけですから、お酒を飲めばアセトアルデヒドがより多く生じ、その影響を受けることになります。当然、酒量を抑えたほうがリスクを下げることができます」(宮本さん)

 「まずは、適量飲酒(純アルコール換算で1日20g:1単位)に抑えることです。お酒の飲み過ぎは、骨粗しょう症に限らず、健康面でさまざまな悪影響を及ぼすことはご存じだと思います。そうした観点からも、飲むなら適量を意識することを第一に考えてください」(宮本さん)

 本連載で繰り返し紹介してきたように、純アルコール換算で20gとは、日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、ワインならグラス2杯程度だ。実際のところ、飲める人(顔が赤くならない人)なら、飲み始めるとなかなか1合で終わりというわけにはいかないことが多いが、そんなときも3合未満に収めていただきたい、と宮本さん。もちろん、顔が赤くなる人なら、よりお酒を抑えたほうがいいのは言うまでもない。

 また、アルコールには利尿作用があることも広く知られている。これも悪い影響があるという。尿と一緒にカルシウムを体外へ排出してしまうのだ。そういった面からも、酒量は抑えたほうがよさそうだ。宮本さん曰く、アルコールの他、コーヒー、紅茶など利尿作用のある飲み物は同じ作用があるという。

ビタミンEの抗酸化作用が骨芽細胞の機能不全に効く!

 「アルコールの摂取量を減らす」ことを地味に実践するのを基本にしつつ、他に骨粗しょう症リスクを下げるためにできることはないのだろうか。

 そう尋ねると、宮本さんは「実は、同じ論文(*1)で、対策についても載せていまして…」とおもむろに話し始めた。

*1 宮本さんたちは、「お酒で赤くなる人は骨粗しょう症による大腿骨骨折を起こしやすい」ことを報告する論文を2017年3月に発表している(Sci Rep. 2017 Mar 27;7(1):428. doi: 10.1038/s41598-017-00503-2.)。詳しくは前編を参照。

 「それはビタミンEです。私たちの研究の中で、アセトアルデヒドにより機能不全を起こした骨芽細胞にビタミンEを添加することで、骨芽細胞の機能不全を回避できることが試験管内の培養により示されました」(宮本さん)

 「下の写真の赤い色は骨芽細胞がカルシウムを沈着させていることを示します。アセトアルデヒドを添加すると赤い色が減ってしまいますが(写真中段)、ここにビタミンEを添加すると再び赤い色が戻ってきます(写真下段)。つまり、骨芽細胞の機能不全がビタミンEによって回避されたわけです。これは、試験管培養での結果ではありますが、実際の人間の体内においても効果が期待できると考えられます」(宮本さん)

骨芽細胞の機能障害はビタミンEにより回避できる
写真中の赤い色が、骨芽細胞がカルシウムを沈着させていることを示す。アセトアルデヒドを添加するとこの赤い色が減るが、さらにビタミンE(Trolox C)を添加すると再び増えることが確認された。(写真提供:慶應義塾大学医学部)

 一筋の光が見えてきた(涙)。ビタミンEの摂取なら、そう難しくなさそう!

 しかし、なぜビタミンEが骨粗しょう症にいいのだろうか? 宮本さんはこう説明してくれた。

 「前回説明したように、体内にアセトアルデヒドがあると、活性酸素(酸化ストレス)が蓄積することがわかっており、これが骨芽細胞に影響すると考えられます。一方、ビタミンEには、強い抗酸化作用があります。この抗酸化効果によって、酸化ストレスから生じた骨芽細胞の機能不全に効果を示したと考えられます」(宮本さん)

 活性酸素は体の組織や細胞を傷つけ、老化やさまざまな疾患との関連も指摘されている。その活性酸素を消去し、体を守ってくれるのが抗酸化物質だ。

 そしてビタミンEは「若返りのビタミン」などと言われることもある脂溶性のビタミン。ビタミンEを多く含む食品には、アーモンド、松の実、ひまわりの種をはじめとするナッツ類、ツナ、ニジマス、うなぎなどの魚がある。このほか、植物油や野菜にも含まれている。(※ビタミンEの摂取についてはこちらの記事を参照)

 宮本さんは、ビタミンEを含む食材を意識的にとってほしいと話す。ビタミンEは多くの食材に含まれているので、日常の食事でカバーするのは難しくなさそうだ。なお、宮本さんによると、「サプリでもかまわない」とのことだが、サプリはあくまで食事で足りない分を補う“補助的なもの”として考えたほうがいいと話す。

骨の約5割はたんぱく質! たんぱく質もきちんととる

 このほか、骨の健康維持のためにとっておきたいものというと、何と言っても骨の材料となるカルシウムだろう。体内で作ることができないため必須だ。牛乳やチーズなどの乳製品、干しエビや小魚、納豆や豆腐などの大豆製品を積極的にとりたい。私も骨折が怖いのでこれらを積極的にとるようにしている。

 腸管からのカルシウムの吸収を高め、骨の形成を促進する働きがあるビタミンDも欠かせない。大腿骨骨折を起こした人はビタミンDが不足していた人が多いという報告も出ていると宮本さんは話す。

 ビタミンDは日光を浴びることで体内で生成されることも知られている。「ビタミンDが不足している人は、日焼けを避けたり、日焼け止めを使ったり、そもそも外に出ないという人も少なくない」と宮本さん。恥ずかしながら、私は、シミ予防のため、日差しを避けてばかりの生活をしていたが、骨のためには外光を浴びることも大切だ。そして、食事からもビタミンDの摂取を心がけたい。ビタミンDを多く含む食品はサケ、サンマ、イサキなどの魚のほか、干しシイタケやキクラゲなどが挙げられる。

 また、カルシウムの骨への沈着を助け、骨を丈夫にする働きがあるビタミンKも意識的にとりたい。ビタミンKは納豆やほうれん草や小松菜などに豊富に含まれている。

 「こうしたビタミン、ミネラルに加えて、きちんととりたいのがたんぱく質」と宮本さんは続ける。

 「意外と知られていませんが、重量ベースで言うと骨の約半分がたんぱく質です。魚はもちろん肉も食べるように心がけましょう」(宮本さん)。確かに自分の周囲を見ても、朝から肉を食べるような「肉食高齢者」はパワフルで、足腰もしっかりしている人が多い。「カルシウムさえとっていれば大丈夫」ということではないのだ。

 宮本さんはこのほか、糖質のとり過ぎにも注意してほしいと話す。「過度な糖質の摂取も要注意です。糖質のとり過ぎは『カラダのコゲ』と呼ばれる糖化を引き起こします。糖化によって作られるAGEs(糖化最終生成物)は、骨をもろくして柔軟性を失わせ、骨折のリスクを高めます」(宮本さん)

 うーむ、やはり糖質のとり過ぎはいいことがないようだ。酒量を減らし、たんぱく質やビタミン、ミネラルをバランスよく摂取する、そして糖質をほどほどに。ごく当たり前のことだが、やはりこれに勝るものはない。

 生活面ではこのほか、適度な運動も実践してほしいと宮本さんは話す。

 「適度な運動も骨の健康維持に欠かせません。1つ前のバス停で降りて歩く、エレベーターより階段を使うなど、日常生活で継続して行える運動を実践してください。日の高いうちに運動を行えば日光浴もできて一石二鳥です」(宮本さん)

 意識さえすれば、この程度の運動であれば無理なく行うことができそうだ。また、運動により足腰の筋肉を維持できれば、転倒リスクを下げることにもつながる。

「骨粗しょう症は病気」という認識を!

 これらの健康習慣を心がける一方で、宮本さんは「『骨粗しょう症は病気』という認識を持ってほしい」と話す。

 「骨粗しょう症と言うと、多くの方が加齢によって起こる白髪や皺(しわ)と同じ程度に考えていますが、それは大きな間違いです。前述した食事や運動は、骨の健康を維持するために実践していただきたい対策ではありますが、骨密度が下がって骨粗しょう症と診断された人が、これらの対策だけで骨密度が増えるわけではありません。骨粗しょう症と診断されたら病気なので治療が必要なのです」(宮本さん)

 自分の今の状態を把握するため、宮本さんは、定期的に病院で骨密度の測定をすることを強く勧める。これにより、正確な骨密度を知ることができる。「特に家族の中に大腿骨近位部骨折の経験がある人は意識して検査を受けていただきたい」と宮本さん。(※検査法についてはこちらの記事を参照)

         ◇        ◇        ◇

 最後に宮本さんは、「前回も少し触れましたが、遺伝的要素は大腿骨近位部骨折の大きな要因の一つです。顔や体型は骨格からなるもの。親子なら似た骨格になります。家族で大腿骨近位部骨折を起こした方がいる場合はより注意が必要です」と話してくれた。このほか、「骨粗しょう症のリスクが高い、閉経後の女性、前立腺がん治療中の方、高齢の男性なども注意していただきたい」と宮本さん。

 そして今回のテーマである「お酒で顔が赤くなる人」が遺伝的に骨折リスクが高いことについても、「遺伝子は変えられませんが、ビタミンEによりリスクを下げることはできます。家庭でできる対策ですので、ビタミンEを含む食事を意識的にとることを実践していただきたい」と宮本さんは話す。

 大腿骨近位部骨折は、男女ともに年齢を重ねるほどリスクが高くなる。お酒を飲んで顔が赤くなる人、下戸の人はもちろんのこと、酒豪であっても「お酒を飲んでも顔が赤くならないから大丈夫」と高をくくることなく、適量を守り、バランスのよい食生活を実践してほしい。そして骨密度の検査も定期的に受けて、骨折と無縁の生活を送っていただきたい。

(図版:増田真一)

宮本 健史(みやもと たけし)さん
慶應義塾大学医学部 整形外科学 先進運動器疾患治療学寄付講座 運動器科学研究室 室長
宮本 健史さん 1994年熊本大学医学部卒業、2001年同大学大学院博士課程修了。2004年慶應義塾大学医学部助手(整形外科/発生・分化生物学)、2006年同大学医学部講師などを経て、2013年4月より現職。専門は、整形外科、骨代謝、骨粗しょう症。2005年、整形災害外科学研究助成財団 マルホ奨励賞、2007年、長寿科学振興財団 理事長賞、日本整形外科学会 学会奨励賞、2012年、日本骨代謝学会 学術賞、2018年、日本リウマチ学会 学会賞を受賞。
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