進行すると「痛みがなくなる」… そのときはもう悪化している?
やはり、「慢性膵炎も痛みはある」ということか。佐野さんによると、「多くの人が代償期に感じる強い痛みをきっかけに受診する」という。しかし、症状があってもすんなり診断に行きつくとは限らないのが、慢性膵炎の厄介なところだ。
「慢性膵炎の代償期では、血液検査を行っても数値の変化が少ないため、気がつかないことも多いと言われています。専門施設や総合病院で画像診断も行わないと診断が難しいのです。そのため、うっかり見過ごしてしまい、気づいたときには病状が進行していることも少なくありません」(佐野さん)
知人はまさに、気づいたときには病状が進行していて、結果として命を落としてしまった一人だ。当初、強い痛みがあったが、「酒を飲めば治る」と日々の痛みを酔いでまぎらわせていた。「痛みがなくなった」と喜んでいたのもつかの間、末期の膵がんで、別れを惜しむ間もなく、あの世へと旅立ってしまった。
「痛みが引かないときは、セカンドオピニオンを受けましょう」と佐野さん。佐野さんは、「痛みのある代償期であれば、生活習慣を改めれば改善する余地があります」と話す。上腹部の痛みは、「膵臓からのサイン」と思い、早めの受診をしたほうがよさそうだ。
脂肪便、糖尿病、体重減少… 怖い症状が表れる
では、慢性膵炎が進行すると、どんな症状が表れるのだろうか?
「一言で言うと、膵臓はボロボロです。膵臓の細胞が線維化してカチカチになっていきます。非代償期の後期になると、膵臓の機能はほぼ廃絶してしまいます。ここまでいくと、もう完治はしませんし、機能を取り戻すこともできません。さらには、膵臓の役割の1つである、内分泌機能も阻害されます。それによって、血糖値を下げるインスリンなどのホルモンを分泌できなくなり、糖尿病を発症します。また、消化液を分泌する外分泌機能も落ちることから消化吸収が悪化。下痢や、便に脂肪が混ざる脂肪便となり、次第にやせていきます」(佐野さん)
ここまででも十分に背筋が凍りそうだが、慢性膵炎の怖さは、常に膵がんのリスクを抱えているということだ。
「慢性膵炎にかかった人は、かかっていない人に比べ、膵がんを発症するリスクが12倍もあるとされています。膵がんが進行すると、膵臓を摘出しなければならない場合もあります。膵臓を摘出しても生きていくことはできますが、再発も多く、膵がんと診断されてから5年後に生存している確率(5年生存率)は10%しかありません」(佐野さん)
膵臓の病気のリスクをセルフチェック
では実際、どんな人が慢性膵炎に罹患しやすいのだろう?
「慢性膵炎は、30代から70代と、幅広い年齢層の男性に多く見られる疾患です。男性の罹患率は、女性の2倍というデータもあります。お酒を飲む機会が、男性のほうが多いからだと考えられます。慢性膵炎は、長期間にわたって毎日コンスタントにお酒を飲んでいる人が発症するリスクが高いと言われています。日々の積み重ねと、アルコール摂取の総量が関係しています。慢性膵炎については、さまざまな要因が挙げられますが、原因の80%がアルコールと考えていいでしょう」(佐野さん)
80%となれば、予防するにはやはり「酒量を控える」しかないだろう。
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