「アルコールは少量でも体に悪い」――。これまで適量までの飲酒であれば健康にいいと言われてきたが、最近それを覆す論文が発表されていることは前回紹介した。アルコールのリスクが以前にも増してクローズアップされるようになってきた今、できるだけ体を害さないようにするにはどんな飲み方をすればいいのか。前回に引き続き、飲酒と健康についての研究を手がける筑波大学の吉本尚准教授に話を聞いた。

「酒は薬か毒か」――。
体のあちこちが気になりだすお年ごろの左党にとって、酒は毒になるのか、薬になるのかは常に気になる問題である。まあ、「毒」と認定されても飲んでしまうのが左党の悲しい性(さが)なのだが…。
これまで多くの左党たちは「酒を全く飲まないよりも、少量飲んだほうがカラダにいい」とされる「Jカーブ効果」を心から信じて酒を飲んできた(実際は「少量」じゃないかもしれないけど)。もちろん筆者もである。
しかし、2018年8月には、世界的権威のあるイギリスの医学雑誌Lancet(ランセット)に、「アルコールは心疾患(心筋梗塞など)といった特定の疾患のリスクは下げるものの、健康への悪影響を最小化するなら飲酒量はゼロがいい」という内容の論文が発表された(Lancet. 2018;392:1015-35.)。
これについては前編で詳しく紹介しているが、英語で「zero」と書かれた一文を見て、それはもうショックを受けた。できるならウソであってほしい。しかし何度となく論文を見ても、そこには「zero」(*1)、つまり、健康を害さないアルコール摂取量はゼロだと書いてあるのに変わりはなかった…。
同年4月には同じLancet誌に、イギリスのケンブリッジ大学の研究者らによる研究で、「アルコールの摂取量が週に100gを超えると死亡リスクが高くなる」という報告も出ている(Lancet. 2018;391(10129):1513-1523.)。週に100gなんて左党にとったら朝飯前の量。弊誌でこれまで繰り返し書いてきた、国内における適量の目安「1日当たり20g(=週140g)」より、1週当たり40gも少ないのだ。
もちろん特定の論文で全てが決するわけではないが、「ゼロが望ましい」「適量は今よりもっと少ないほうがいい」と立て続けに発表されると、何だかアルコールが全般的に悪者にされているかのようである(号泣)。事実、昨今、世界的にアルコールの害が、これまでにも増して強く指摘されるようになっている。こうした中で私たちはどうすればいいのだろうか。
そこで今回は、前編に引き続き、筑波大学地域総合診療医学の准教授で、北茨城市民病院附属家庭医療センターに「飲酒量低減外来」を開設し、診療も行っている吉本尚さんに、少量飲酒のリスクが指摘されている現在における、お酒の飲み方について話を伺った。今、専門家は、酒飲みに対してどのようなアドバイスをしているのだろうか。
今より減らす、できるなら飲まないほうがいい
先生、「全く酒を飲まないほうが健康にいい」なんて、左党にとっては厳しい論文が出ていますが、実際に先生は、飲酒量低減外来にいらっしゃる患者にどうお伝えしているのでしょうか?
「私が外来で診る時は『今飲んでいる量よりも減らしたほうがいい。できるなら飲まないほうがいいですよ』とお伝えしています」(吉本さん)
予測できていたとはいえ、「飲まないほうがいい」と伝えているのか…。最新研究の結果からすれば仕方ないとはいえショックである。
と言いつつ、吉本さんはこうフォローしてくれた。
「とは言え、人はNOリスクでは生きられませんよね。お酒が好きな人、つまりお酒を楽しむことが人生の楽しみになっている人が無理に断酒することはありません。理想はゼロかもしれませんが、今飲んでいる人は、今より飲酒量を減らせばリスクは確実に減りますから、『できる範囲で減らしましょう』と話しています」(吉本さん)
「現在、日本が定めている適量(1日当たり20g)は、様々な研究報告から見ても、1つの目標値として設定するのは有用と考えています。まずはこの適量を目指しましょう。もちろん、飲めない人が無理に飲む必要はありません」(吉本さん)