宴会の定番「飲み放題」の落とし穴
さらに、吉本さんは、「短時間で」大量に飲むのは避けてください、と話す。最近耳にするようになってきた「ビンジ飲酒(Binge Drinking)」である。ビンジ飲酒とは、短時間に多くのお酒を飲むことで(*2)、その極端な例がいわゆる「イッキ飲み」ということだ。
吉本さんたちの研究グループは、国内の大学生2177人を対象にビンジ飲酒の調査を行っている(Tohoku J Exp Med. 2017;242:157-63.)。そこで、驚くべき結果が出た。

「ビンジ飲酒をしていた人は、そうでない人に比べ、ケガを起こすリスクが25.6倍も高かったという結果が出ました。短い時間の間に、ガンガン飲むのは危険なんです」(吉本さん)
最近では、イッキ飲みのリスクが知られるようになっているとはいえ、短時間でガンガン飲む人は少なからずいる。特に、そういう人たちを助長するようなシステムとして、私たちにおなじみの「飲み放題」がある。
飲み会の幹事になると、余計な心配をしたくないこともあり、支払いがシンプルになる飲み放題を選んでしまうケースは少なくないだろう。しかし、飲み放題となると、左党の性として「元を取ってやろう」とつい、いつもより飲み過ぎてしまう。「ラストオーダーでーす!」と言われると、まだ手元に酒が残っているのに意地汚く、「同じものもう1杯!」と叫んでいる自分がいる…。
吉本さんは、飲み放題について興味深い調査をしている(Tohoku J Exp Med. 2018;245(4):263-7.)。関東の31大学35学部の大学生・大学院生(20歳以上)で、飲み放題を利用した511人を対象に、飲み放題の利用と飲酒量を調査したところ、驚く結果が!
「飲み放題では、通常の飲酒(飲み放題ではない)に比べ、飲酒量は男子学生では1.8倍、女子学生では1.7倍も増えていました。さらに、男子学生の39.8%、女子学生の30.3%は、1回の飲み会で純アルコールにして60g以上摂取するという危険な飲酒をしていることが分かりました」(吉本さん)
ああ、やはり飲み放題は飲み過ぎてしまうのだ。

「世界保健機関(WHO)では、一定料金での無制限飲酒、日本で言うところの『飲み放題』のサービス提供の禁止・制限を提言しています。ところが、日本ではいまだに飲み会の通例となっています。海外の研究者に飲み放題の話をするとみんな驚きますよ」と吉本さんは話す。やっぱり日本は世界的に見て、酒に思い切り寛容な国なのだ。
「海外では、ビンジ飲酒によってケガや、ケンカから死亡に至ることも、かなり問題視されています。経済的損失の原因としては、慢性的な飲酒とビンジ飲酒などの急性の飲酒で半々だったという報告もあります。先日も、私のところにビンジ飲酒が原因で、急性肝炎になって運ばれてきた方がいらっしゃいました。もっともその方はアルコール依存症が寛解していた方でしたが、ちょっとしたきっかけで1日に日本酒を20合、つまり400gのアルコールを摂取していたんですが…」(吉本さん)
20合も飲めば、それは病院に運ばれても仕方ないだろう…。それは極端な例とはいえ、お酒を短時間で一気に飲むことは避けたほうがいいことはよく分かった。

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- 「自分で割って飲むお酒」は注意が必要?
