「基本的に飲酒量はゼロがいい」という驚きの結論
いよいよ本題に突入、左党にとっては“爆弾”、あるいは悲報ともいえる論文である。先生、昨年8月にLancetに掲載になった論文(Lancet. 2018;392:1015-35.)には、「基本的に飲酒量はゼロがいい」と言い切っているとか。これはどういうことなのでしょうか。
「この論文は、1990~2016年にかけて195の国と地域におけるアルコールの消費量とアルコールに起因する死亡などの関係について分析したものです。この論文では最終的に、健康への悪影響を最小化するアルコールの消費レベルは『ゼロ』であるとしています。つまり、『全く飲まないことが健康に最もよい』と結論づけているのです」(吉本さん)
吉本さんによると、かなりインパクトがある論文として研究者の間で話題になったそうだ。「かつての研究のグラフではJカーブを描いていましたが、今回の研究結果を見ると緩やかにLカーブになっているんです。下のグラフにあるように、飲酒量1(アルコール換算で10g)くらいまでは疾患リスクの上昇はあるものの緩やかで、それより多くなると明確に上昇傾向を示しています。つまり、『飲むなら少量がいいよ、でもできたら飲まないほうがいいよ』ということですね」(吉本さん)

なぜ、ゼロの方がいいのか? 心疾患などについては適量の飲酒がリスクを減らすのですよね? 納得いかずに吉本さんに食い下がると、
「ご指摘のように、この論文でも虚血性心疾患(心筋梗塞など)については以前と変わらず、『少量飲酒で発症リスクが下がる』という結果が出ており、Jカーブが確認されています。しかし、飲酒量が増えればがん、結核など他の疾患のリスクは少量飲酒においても高まっていくので、心疾患などの予防効果が相殺されるのです」と吉本さんは説明してくれた。
以前の記事でも「少量飲酒においては、飲酒によってリスクが上がる疾患より、心疾患などリスクが下がる疾患の影響が大きいためJカーブになる」と説明したが、最新研究ではより多くのデータからこの両者のバランスが再検証され、Jカーブから緩やかなLカーブになったということか。
「もちろん、1つの論文で結論を出すのは危険です。色々なデータを見て判断する必要があります」と吉本さんは前置きしつつも、「この論文の登場で、多くの医師・研究者が『少量飲酒が体にいいとは言えなくなってきた』と感じるようになっていると思います。特に、これまで研究者の中で『全く飲まない人の死亡リスクがこんな高いわけないよね?』と疑問に思われていた部分がクリアになったのは大きいでしょう。また、飲む人より、飲まない人の方が、がんの発症リスクが低いという点についても裏付けの1つになったと考えています」(吉本さん)
「この結果を見ると、『健康にいいから』と大手を振って飲むことはできなくなりますね」(吉本さん)
……。満面の笑顔でそんなこと言われても(涙)。
なお、吉本さんは、「少量の飲酒が心疾患などのリスクを減らすことはアメリカ心臓協会(American Heart Association)も認めていながら、それでも飲まない人に飲酒を推奨しているわけではありません」と話す。「健康日本21においても『飲酒習慣のない人に対してこの量の飲酒を推奨するものではない』と明記されています」(吉本さん)