開発に5年、試験醸造は350回以上
ビールを我慢していた酒好きから「待ってました!」と声がかかりそうな今回のビールですが、開発するに当たり何かきっかけはあったのですか?
「今から5年前、私の育児休業中に聞いた友人の『ビール大好きなんだけど、体形も気になってきたし、最初の一杯で我慢しておこう』という何気ない一言がきっかけでした。もしかして、こういう方が多いのかなと思い、会社に提案したところ、社員の中にも同様のことを言う人がいて驚きました」(廣政さん)

糖質を気にすることなく、ビールを気兼ねなく、おいしく飲んでほしい。また、ビールは好きだけど、健康維持のためにハイボールに切り替えているという方のために、糖質ゼロのおいしいビールを作りたい。
そんな思いを持って、2015年の春から開発をスタートした。試験醸造は実に350回以上。廣政さんによると、「ビールの一般的な商品の試験醸造は数十回程度」だというので、いかに糖質ゼロのビールを作るのが難しいかが分かる。
しかし、糖質ゼロの第三のビールはたくさんあるのに、なぜ糖質ゼロのビールを作るのは難儀なのだろう?
「酒税法において、ビールは麦芽の使用比率が50%以上と決まっています。麦芽を多く使うことでビール本来のおいしさが生まれるのですが、同時に麦芽に含まれる糖質も多くなります。ビール中の糖質は旨味でもあり、おいしさの一要素でもあるため、これまではその糖質をゼロにしてしまうのは難しいといわれてきました。一方、麦芽使用比率が少ない発泡酒や第三のビールの場合、糖質をゼロにしても麦芽以外の副原料で味作りができるのです」(廣政さん)
なるほど。糖質ゼロのビールを作るのが難しかったのは、麦芽の使用比率と使用できる材料に制約があるためだったのか。では糖質ゼロのビールを実現するにあたり、どんな部分に注力したのだろうか?
「糖質をゼロにすることにおいて、特に注力した点は2つあります。まず1つ目は、ビールの主原料となる麦芽の選定です。ビール作りにおける麦芽の役割は、麦芽に含まれる酵素の力で、高分子のでんぷんを、低分子の糖に変えることです(このプロセスを『糖化』という)」(廣政さん)
この糖が酵母のエサとなり、アルコールが生成されるのだが、実は糖化の段階で大小さまざまな大きさの糖が存在しているのだという。
「小さな糖は酵母が残らず食べてくれますが、大きな糖はビール中に残ってしまいます。今回の開発にあたり、酵母が食べ残してしまうような大きな糖をどうすればなくせるかを考え、『酵母が食べ残すことがない小さい糖』に分解してくれる麦芽と最適な糖化条件を選定しました」(廣政さん)
この麦芽の選定にかかった時間は3年半。さまざまなタイプの麦芽を取り寄せ、分析、仮説、検証を繰り返しながら決定したという。
そして2つ目に注力したのは、アルコール発酵を行う酵母である。
「糖質ゼロを達成するには、麦芽の酵素によって通常よりも小さく分解された糖を、酵母が食べきることが条件となります。自社ビール酵母の中から、通常のビールに比べて厳しい管理をされた、糖をせっせと食べてくれる元気な酵母を厳選しました。発酵期間は通常のビールと同様ですが、データ分析を行いながら、酵母が糖を食べきる温度を調整しています」(廣政さん)