3つ目の実験では、糖質(マッシュポテト)を摂取する1時間前に、水と前出のお酒を摂取した場合に、血糖値がどう変化するかを検証している(下の実験3)。この結果、水以外のアルコールは全て血糖値の上昇が水より低いという結果になった。

* AUC(血糖上昇曲線下面積、単位はmmol/L・min)は時間経過にともなう血糖値増加量の面積のことで、血糖値上昇を比較するための指標。
山田さんはこの結果について、「これらの実験結果には説明がつかない部分もいくつかありますが、少なくとも、パンなどの糖質が多い食品とアルコールを一緒に飲むと、食べ物単体で食べるよりも血糖値の上昇が抑制されました。つまり、食事と一緒にお酒を飲むと血糖値の上昇は抑えられる、と言えます」と話す。
おお! これは左党にとって、何ともうれしい実験結果ではないか! 糖質を単体で摂取するよりも、アルコールと一緒にとったほうが、血糖値が上がりにくいという結果は、食後高血糖を気にする左党にとってはビッグニュースである。
アルコールはどうして血糖値の上昇を抑えるのか
アルコールが血糖値を下げる仕組みについては、現時点では詳しいメカニズムは分かっていないとのことだが、以下のような要因が考えられると山田さんは話す。
「あくまで私の仮説ですが、アルコール分解のプロセスで多く使われるNAD(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)という補酵素が関係しているのではないかと考えられます」(山田さん)
「NADが少なくなると肝臓における『糖新生』が抑制されます。糖新生の抑制が食事だけでは十分でないという人であっても、アルコールをとったときにはNADが少なくなるため、糖新生を十分に抑えられるのではないかと考えられます(※糖新生は、血糖値が下がらないように新たに糖を作り出すシステム。実は肝臓は24時間、常に糖新生を行っていて、食後だけ糖新生の速度が落ちるようになっている。この速度低下のためのホルモンがインスリンであるが、インスリン作用が悪い人では糖新生速度の低下が不十分で、食後高血糖になりやすい)」(山田さん)
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現時点でメカニズムは解明されてはいないものの、山田さんの「アルコールが血糖値の上昇を抑えることは確か」という一言が左党には何よりありがたい。これで大手を振ってお酒が飲めるというものだ。
「血糖値にとってアルコールは敵ではない」と分かって一安心したところで、前編はここまで。後編では、食後血糖値を上げないための具体的な飲み方、お酒の選び方を山田さんに聞いていこう。
(図版:増田真一)
食・楽・健康協会代表理事 北里大学北里研究所病院糖尿病センター長
