酒をついつい飲み過ぎた、つまみの食べ合わせが良くなかった、そして、体調が悪かった…。左党に限らず、酒の身の上話で、誰しもが一度や二度は経験するのが「嘔吐(おうと)」だろう。そう、吐き戻してしまうことだ。酒を飲む上では、なんだか「失態をしでかした」感のある事態ではあるが、実は嘔吐は人間の生命を維持するための、優れた生体反応でもあったのだ!
左党にとって、最も避けたいことの1つ。それは「嘔吐(おうと)」であろう。
せっかくおいしい酒を飲んでも、戻してしまっては台無し。だいいち、嘔吐しても、気分が悪いのはすぐに治らない。そんなことは過去に一度や二度、少なからず経験し、痛感しているのだが、それでもごくたまに嘔吐するまで飲んでしまうのが左党の悲しい性。もちろん、酒が弱い人もいるだろうし、その日に限って体調が悪かったとの原因だってあろう。
左党でなくとも、少なからずの人が経験しているであろう嘔吐は、そもそもなせ起こるのだろうか? 嘔吐の生理機序に詳しい川崎医療福祉大学・医療技術学部の古川直裕教授に話を伺った。
「嘔吐をするまでには、いくつかのプロセスがあります。まず気分が悪い(悪心・おしん)と感じると同時に、唾液が多く分泌するなどの『自律神経反射』が起こります。続いて、小腸から胃への逆蠕動が起こり、一旦、小腸にある吐しゃ物を胃の中に溜めこみます。次に、呼吸が停止し、『レッチング』と呼ばれる吸息筋、呼息筋が同時に強く収縮する動きで強い腹圧をかけます。この時、上部食道括約筋(食道の口側の部分)と声門を締め、同時に吐しゃ物が腸に戻らないように幽門(ゆうもん・十二指腸につながる胃の下部)を閉じます。最後に上部食道括約筋を緩め、腹圧を使って、胃の吐しゃ物を一気に口から吐き出させるというのが、嘔吐するまでの一連の流れです」(古川教授)
嘔吐は生命維持のために欠かせない仕組み
そもそも嘔吐という生理行動は、古川教授によると「人間に備わる生理機序の中で、生命を維持するための最も重要な仕組みの1つ」なのだという。たしかに、体に良くないものを食べたら吐き出すというのは、生命を守るために必要な偉大な防御反応だともいえる。
しかし、嘔吐の研究は動物実験に頼らざるを得ないために、ヒトの生理学としてはまだ解明されていないことも多いそうだ。古川教授によると、嘔吐の原因は、(1)腹部内臓刺激 (2)血液を介するもの (3) 前庭感覚刺激 (4)臭覚、味覚、視覚性入力によるもの (5) 精神性入力によるもの (6)中枢神経の刺激によるもの、と6つのタイプに分類される。このうち酒が原因による嘔吐は、(2)に該当するという(2ページ目に、嘔吐を起こす要因について詳しく表にまとめた)。