長年、職場の飲み会などを経験していると、1度や2度は「酒を飲むと人格が豹変する人」に会ったことがあるのではないだろうか。いわゆる「酒乱」だ。宴会が盛り上がって楽しくなるくらいならいいが、度を越すと大きな問題になる。読者の中には「私はもしかしたら酒乱?」と密かに心配している人もいるだろう。そもそも酒乱とは? そして酒乱になる人とならない人は何が違うのだろうか。前後編に分けて、詳しく解説していこう。
雪降る夜、究極の酒乱に投げ飛ばされた!

「あの人、飲むと豹変するんだよね…」
あなたの周りにこんなふうに言われている方はいないだろうか? 酒を飲んでテンションが上がったり、冗舌になるのなら「ただの酔っ払い」。しかし中には酒が入ると、人格が変わったかのごとく、豹変する人がいる。そして暴言すれすれのアブない発言を連発したり、酒の席だからかろうじて許されるようなセクハラまがいの発言をしたりすることもある。いわゆる「酒乱」と呼ばれるやつである。昨晩、大胆発言を繰り返していたのに、翌日は全く覚えていない、などという人も珍しくない。
こうした人が飲み会に参加すると、宴会が盛り上がって楽しくなることもあるが、その一方で度を越すと大きな問題になる。ひどくなると、暴力を振るったり、暴言を吐きまくる人もいる。飲酒した後に、暴力沙汰となり、警察のお世話になった、などというケースは今でも後を絶たない。
今から10余年前、私は究極の酒乱ともいうべき人を目の当たりにしたことがある。彼は酒を飲まなければ、ごくフツーの男性で、どちらかというと目立たないタイプ。しかし酒を飲むと一転、誰にも止められない大魔神と化すのだ。
彼と一緒に仕事で東北を訪れたときのこと。いつにも増して早いピッチで飲んでいた彼は、店でも傍若無人の振る舞いで、私は「これはまずいな。早めに切り上げたほうがよさそう」と感じ、彼がトイレに入っている間に会計を済ませた。ところが、それにぶち切れた彼は、表に出た途端、私の首根っこをつかみ、ばぴゅーんと投げ飛ばしたのである。雪が積もっていたからいいものの、もしアスファルトだったら…、擦り傷くらいでは済まなかっただろう。
翌朝、その話を彼にすると、「全く記憶にない」という。彼は平謝りしていた。その後、すっかり疎遠になってしまったが、彼は今、どうしているのだろう? 強烈な酒乱ぶりは封印したのだろうか(遠い目)。
私の例はかなり極端な例かもしれないが、読者のみなさんも職場の飲み会などを長年経験していれば、性格が豹変して、問題発言を連発するような「酒乱」の人に会った経験は、多かれ少なかれあるのではないだろうか。
私はもしかしたら酒乱かも…
だが、そもそも酒乱とは何をもってそう呼ぶのだろうか? 左党の中には「もしや自分も酒乱なのでは?」と不安を抱いている方もいるだろう。かくいう私も、問題行動などは起こしていない(と思う)が、朝起きたらメガネが割れていた、覚えのないアザがカラダにできていた、飲酒時の記憶がスッポリ抜けていた、などという経験は過去に幾度かあった。もしかしたら、私も酒乱なのだろうか? 非常に不安である。
そこで今回は、神経内科医で『酒乱になる人、ならない人』(新潮新書)の著者である帝京科学大学 医療科学部 医学教育センター教授の眞先敏弘さんに話を伺った。
