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左党の一分

減酒をサポートしてくれるという新薬、その効果は?

新薬を服用したグループは多量飲酒日、飲酒量ともに減少

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

 厚生労働省のセリンクロの承認条件は「本剤の安全性及び有効性を十分に理解し、アルコール依存症治療を適切に実施することができる医師によってのみ本剤が処方されるよう、適切な措置を講じること」とある。

 具体的には、「久里浜医療センターで年に2回行っている『アルコール依存症臨床医等研修』を受講した医師、またはそれに準ずる研修を受けた医師のみ処方できます。処方できる医師は限定されているのが現状です」(樋口さん)という。

現時点では、身近な病院で処方してもらえるわけではない

 先生、「処方できる医師が限定」とは、具体的にどういうことなのでしょうか?

 「現時点では身近な病院で処方できる薬にはなっていないということです。セリンクロの一番のターゲットになるのは軽度のアルコール依存症の人と考えられます。しかし現状では、重度の依存症の患者しか診ない医師しか使えないような状況になっています。今後、状況は変わっていくと思いますが、私としては将来的に内科をはじめとする一般的なクリニックで処方できるようになればと思っています」(樋口さん)

 なるほど。新薬登場とはいえ、まだまだ身近な存在とはいえないようだ。私の周りにも、依存症未満だがお酒の飲み方を変えたいと思っている人は多い。すぐには難しいかもしれないが、将来、セリンクロのような薬を、近所にある行きつけの病院などで処方してもらえるようになることを期待したいところだ。

 なお、こうした治療をサポートする薬の存在は、アルコール依存症治療において重要なのだと樋口さんは話す。「前回触れたように、依存症の治療でのドロップアウトは大きな問題です。しかし、こうした薬があると、薬の処方のために病院に来るというきっかけができるわけです。ドロップアウトを防ぐためにも薬の存在は大きいと考えています」(樋口さん)

セリンクロの使用は、心理社会的治療の併用が条件

 また、セリンクロの使用には、心理社会的治療の併用が必須になる(*4)。「つまり、単に薬を処方するだけでなく、医師の“言葉による治療”、いわゆるカウンセリングも必要だということです。アルコール依存症治療の主体は心理社会的治療にあります」(樋口さん)

 前回詳しく紹介した久里浜医療センターの減酒外来でも、カウンセリングを必ず行う。減酒外来では、6カ月を1つのスパンと考え、医師と患者で情報を共有し、当初決めた酒量を守れているかどうか、記録したものをチェックしていく。話し合い、モニタリングをしながら、最終的に患者自身に減酒を続けるか、断酒にするかを決めてもらう。「薬はあくまでも補助。依存症治療においては、言葉による治療が1番、薬は2番です。患者自身のやる気を引き出し、結果が出たら褒めるといった医師との会話を通じた治療が重要なのです」(樋口さん)

 なるほど、樋口さんの話を聞いていると、アルコール問題を抱える人にとって、カウンセリングを併用することが治療を成功させる重要な要素であることがよく分かる。これはアルコール問題に限ったことではないが、ごく身近な人には甘えが生じてしまい、いいアドバイスをしてもらっても聞き流してしまいがちである。それ故に第三者であるアルコール問題についての専門的な知識を持つ医師のカウンセリングが有効となるのだ。

 また、私の知人で、過去にアルコール依存症で入院した経験があり、今は自分の力で酒量をコントロールできている人は、「医師によるカウンセリングはもちろん、定期的に病院に通って血液検査をはじめとする検査をし、自分の状態を可視化することも大切」だと話していた。

 状態が良くなり、医師から褒めてもらえれば患者のモチベーションもアップするし、ドロップアウトすることも少なくなるだろう。お金も時間もかかるが、単独で減酒を試みるより、減酒外来を受診し、医師と二人三脚で治療するほうが改善する確率は高そうだ。

         ◇        ◇        ◇

 アルコール問題は軽いうちなら笑い事で済む。しかし、ブラックアウトや暴言、暴力が日常的になると、仕事をはじめとする全ての人間関係に何らかの支障が出ることは否めない。さらにアルコール依存症ともなると命に関わる大問題となる。一度しかない人生を無駄にしないためにも、「減酒」という選択肢があることを覚えておきたい。そして、その減酒をサポートしてくれる有効なツールであるセリンクロも、今後、身近な病院で処方できるような環境が整うことを期待したい。

*4  セリンクロの使用上の注意において「アルコール依存症治療の主体は心理社会的治療であることから、服薬遵守及び飲酒量の低減を目的とした心理社会的治療と併用すること」と明記されている。
樋口 進(ひぐち すすむ)さん
独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター院長
樋口 進さん 1979年東北大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室に入局、1982年国立療養所久里浜病院(現・国立病院機構久里浜医療センター)勤務。1987年同精神科医長。1988年米国立衛生研究所(NIH)留学。1997年国立療養所久里浜病院臨床研究部長。副院長を経て、2012年から現職。日本アルコール関連問題学会理事長、WHOアルコール関連問題研究・研修協力センター長、WHO専門家諮問委員(薬物依存・アルコール問題担当)、国際アルコール医学生物学会(ISBRA)前理事長。
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