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左党の一分

酒のトラブルや健康が不安な人に、病院で「減酒」という新たな選択肢

“断酒が前提”だったアルコール依存症治療にも大きな変化が

 葉石かおり=エッセイスト・酒ジャーナリスト

アルコール依存症107万人のうち、治療を受けている人は5万人

 まずは、アルコール依存症治療の最近の事情について話を聞いた。冒頭でも少し触れたが、依存症の疑いがある人が病院に行くと「断酒」を求められるという印象がある。アルコール依存症の治療と「減酒」は似ているようで、相反するように思うのだが、どのようにサポートしてくれるのだろうか。

 樋口さんによると、やはり昔は、アルコール依存症の治療というと「断酒」という選択肢だけだったのだそうだ。しかし、それが“ある問題”を生じさせていたのだという。

 「以前は、アルコール依存症の治療というと『断酒一辺倒』でした。もちろん依存症の治療目標は『完全に絶ち続けることが最も安全かつ最良』なのは間違いありませんが、断酒が前提という治療だと、治療を途中で断念(ドロップアウト)する人が後を絶たなかったのです。そして、断酒前提の治療が、(依存症治療を)受診する敷居を高くしていたのです」と樋口さんは話す。

 「治療を必要としている人と実際に治療を受けた人の差を『治療ギャップ』と呼びますが、アルコール依存症においてはこの治療ギャップが非常に大きいのです。現在国内ではアルコール依存症が107万人いると推計されていますが(厚生労働省の2013年の推計)、実際に治療を受けている患者は約5万人と非常に少ないのです。この傾向は日本だけでなく世界的に見られます」(樋口さん)

 確かに、アルコール依存症は、本人が依存症であることを認めないケースも多いと聞くし、治療に行けば“断酒が前提”になるといえば、「二度と酒が飲めなくなる」と二の足を踏んでしまう人も多いのはよく分かる。それでも、治療を受けている人が5%に満たないとは驚きである。

 「この治療ギャップを埋める必要があります。しかし、前述のように、断酒一辺倒ではドロップアウトする人が出ても仕方なかったというのが現実でした。これを変えていかなくてはいけないということは昔から言われてきましたが、なかなか進みませんでした。また、久里浜医療センターなどで診ている患者の方は依存症の中でも重度の方が多いのですが、その一方で同じ依存症でも軽度の方がたくさんいます。ところが軽度の依存症の方は、依存症の治療のために病院に来ていないのです。こうした現実を変えていかなくてはなりません」と樋口さんは話す。

 「その対策の1つに『減酒』というアプローチがあると考えたわけです。『減酒でもいいんですよ』という柔軟な対応が必要だと。2017年に久里浜医療センターで『減酒外来』を始めたのにはこうした背景がありました」(樋口さん)(*2)

 実際、海外においては、欧州を中心に飲酒量低減を治療目標として認めている国も多いのだという。「ヨーロッパの場合、30カ国中26カ国が飲酒量低減を治療オプションとして認めています」(樋口さん)

 なるほど、このように依存症の治療として減酒が認められるようになったのは、世界的な潮流なわけだ。日本でも樋口さんを中心にまとめられた2018年の依存症の診断治療ガイドライン(*3)では減酒という選択肢も推奨事項に追加されている。

*2 なお、久里浜医療センターは、25年前に「プレアルコホリック外来」を開設しており、アルコールに関する問題はあるものの、酒量を自分でコントロールすることが可能な人(連続飲酒と離脱症状がない人)を対象に治療を行ってきた。ここでは、半年間、断酒に挑戦し、その後、本人に断酒か節酒にするかを決めてもらっていた。
*3 「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン」(2018年)では、重度のアルコール依存症の人だけでなく、軽度の依存症の人にも焦点を当てた内容に改訂。「アルコール依存症の治療目標は、原則的に断酒の達成とその継続である」としつつも、「飲酒量低減を目標として、うまくいかなければ断酒に切り替える方法もある」「軽度の依存症で明確な合併症を有しないケースでは、飲酒量低減も目標になりうる」として、減酒という選択肢が推奨事項に盛り込まれている。
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