これまでは、主に不足しがちな栄養素について解説してきたが、今回はとりすぎに注意したいミネラルについて解説する。食品添加物として広く使われているリンや、東日本大震災の際に注目されたヨウ素についてだ。
リンは骨を形成したり、エネルギー代謝の仲介役として働く

リンはミネラルの一種だ。英語ではphosphorusというが、これはギリシア語のphos(光)+phorus(運び屋)が語源だといわれている。リンはよく燃える性質を持つため、マッチにも利用されてきた。
「人魂(ひとだま)は、人体から抜け出したリンが自然発火したものだといわれますが、実際には不明です」(女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘氏)
リンはカルシウムに次いで、私たちの体内に多く含まれているミネラルで、体重の約1%を占める。リンはカルシウムと結合して骨を形成したり、エネルギー代謝を仲介したりする重要なミネラルだ。
「リンは細胞に含まれる成分の1つなので、広く一般の食品に含まれています。これまで不足することはなかったため、日本では長い間、必要量が決められていませんでした。現在でも、研究が不十分なため、推定平均必要量と推奨量は設定せず、目安量と耐容上限量だけが設定されています」(上西氏)。
目安量 | 耐容上限量 | |
男性 | 1000 | 3000 |
女性 | 800 | 3000 |
魚 | ウナギの蒲焼き | 1串(100g) | 300 |
キンメダイ | 1切れ(60g) | 294 | |
ワカサギ | 5尾(正味80g) | 280 | |
マカジキ | 1切れ(100g) | 270 | |
イワシ | 2尾(正味110g) | 253 | |
カツオ(春獲り) | 刺し身5切れ(80g) | 224 | |
マグロ(赤身) | 刺し身6切れ(80g) | 216 | |
シシャモ | 3尾(50g) | 215 | |
アジ | 1尾(正味80g) | 184 | |
肉 | 豚レバー | 1回量(80g) | 272 |
鶏レバー | 焼きとり2本(60g) | 180 | |
鶏ささみ | 2本(80g) | 176 | |
ロースハム | 3枚(50g) | 170 | |
その他 | 玄米ごはん | 1膳(150g) | 195 |
牛乳 | コップ1杯(180g) | 167 |
加工食品をよく食べる人は、リンをとりすぎているかも!?
「リンをとりすぎると、副甲状腺機能の亢進(こうしん:異常に活発になること)や腎機能の低下が起こります。また、リンはカルシウムの吸収を阻害するので、骨粗鬆症のリスクを高めます」(上西氏)。
2013年の国民健康・栄養調査によると、リンの平均摂取量は、成人男性1069mg、成人女性913mgとなっている。目安量と耐容上限量の間におさまっているので、一見、問題ないように感じられる。しかし、ここには落とし穴がある。
「実は、リンは加工食品に食品添加物として広く使用されています。しかし、国民健康・栄養調査では、加工食品に添加されているリンの量は加算されていません。ですから、実際のリンの摂取量はこれより多いと予想されます」(上西氏)
食品添加物としてのリンは、加工食分の成分表に、ポリリン酸、ピロリン酸、メタリン酸などと表示されている。「結着剤として肉や魚の練り製品、ハム、ソーセージなどに用いられたり、品質改良材として麺類や漬物などに利用されています」(上西氏)。
リンのとりすぎを防ぐためには、加工食品をとりすぎないことだ。これに尽きる。
不足よりもとりすぎが問題になるミネラルはまだある。それは、日本人はまず不足することがないといわれるアレだ。
- 次ページ
- とりすぎると甲状腺が肥大