知っておきたいヨウ素と甲状腺がんの関係
不足よりもとりすぎが問題になるもう一つのミネラル、それはヨウ素だ。ヨウ素は成人の体内に10〜20mg程度含まれるが、そのほとんどが甲状腺に存在する。
「食事でとったヨウ素は胃と腸で吸収され、血液から甲状腺に送り込まれ、甲状腺ホルモンをつくる材料になります。とりすぎると甲状腺が肥大し、甲状腺腫になります」(上西氏)
ヨウ素は主に昆布に含まれている。
「ヨウ素は世界的には不足しやすいミネラルですが、日本人は昆布などの海藻や魚介類を食べているので、不足することはまずありません。昆布自体を食べていなくても、知らず知らずにだしやエキスでとっています」(上西氏)
東日本大震災の原子炉事故の際、昆布を大量に食べたり、ヨウ素のアルコール溶剤であるヨードチンキを飲むと、放射性物質による内部被曝を予防することができるという情報が広まった。
「原子炉事故で大気中に放出された放射性ヨウ素は、体内に取り込まれると甲状腺に蓄積され、甲状腺がんになるリスクを高めます。しかし、ヨウ素の蓄積量には上限があるため、食べ物由来のヨウ素が一定量蓄積されていれば、放射性ヨウ素は蓄積されません。こういった理由から、昆布やヨードチンキがいいといわれたのでしょう」(上西氏)。
しかし、昆布の場合、ヨウ素剤を服用した場合のように短時間で大量のヨウ素を取り込むことは難しく、また、摂取する昆布の種類や加工状態によって、ヨウ素の含有量は一定でなはない。
つまり、実際に被曝した時、あるいは被曝の可能性がある場合の対策として、昆布を大量にとることは、正しい対応とはいえない。普段から適量を摂取するほうが望ましいといえるだろう。
昆布の栄養機能研究会「東日本大震災における原子力災害と昆布摂取による予防に関する見解」
女子栄養大学栄養生理学研究室教授

徳島大学大学院栄養学研究科修士課程修了後、雪印乳業生物科学研究所を経て、1991年より同大学に勤務。
専門は栄養生理学、特にヒトを対象としたカルシウムの吸収・利用に関する研究など。
『日本人の食事摂取基準2015年版』策定ワーキンググループメンバーを勤める。