かつて一世を風靡した“にがりダイエット”。にがりは豆腐を作る際に凝固剤として利用されることはご存じの方も多いだろう。この、にがりの主成分は塩化マグネシウムだ。今回はマグネシウムについて解説しよう。
にがりの主成分マグネシウムは医薬品では下剤

今から10数年前、あるテレビ番組がにがりにダイエット効果があることを取り上げたことを発端に、にがりが大ブームになった。
にがりは海水から塩を作るときにできる副産物だ。簡単にいうと、海水を濃縮してそこから塩(塩化ナトリウムの結晶)を取り出した後の液体を、さらに濃縮したものだ。苦味が強いため漢字では「苦汁」と表現される。
にがりの主成分は塩化マグネシウムだが、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウムなども含む。海水にはミネラルが豊富だ。つまり、にがりは海水から塩分だけを取り除いたミネラルのサプリメントのようなものだといえる。
だから、にがりをとると、マグネシウムをはじめとするミネラルの摂取には役立つ。しかし、「マグネシウムは医薬品では下剤として使用されているもの。にがりやマグネシウムのサプリメントを多量に摂取すると、下痢を起こす可能性があります」(女子栄養大学栄養生理学研究室教授の上西一弘氏)。
市販の下剤には、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化マグネシウムを使用したものがある。こういったマグネシウム製剤は、腸内の水分を増やし、便を柔らかくする作用がある。
また、にがりブームの際、にがりの過剰摂取により心肺停止を起こすケースがみられた。これは、マグネシウムには筋肉を弛緩させて血圧を下げる作用があるためだ。
「マグネシウムは尿や汗と一緒に体外に排泄されやすい栄養素です。通常の食品からとる範囲では取り過ぎの心配はありません。しかし、にがりやマグネシウムのサプリメント、マグネシウム製剤の便秘薬をとる場合、過剰摂取には注意が必要です。とくに、腎臓に障害のある人の場合、血液中にマグネシウムが蓄積しやすくなり、高マグネシウム血症を引き起こすことがあります」(上西氏)。
にがりに明らかなダイエット効果はない
にがりブームの際、にがりは「糖の吸収を遅らせる」「脂肪の吸収をブロックする」「糖質の代謝を促進する」「エネルギー代謝を促進する」といった働きがあるとされるなど、ダイエット効果を論証するような様々な情報が出回った。これらの情報に影響されて、にがりダイエットに走った人も多かった。
そんな中、過剰摂取による健康被害が出たこともあり、2004年7月に独立行政法人国立健康・栄養研究所は、誤解されている健康情報の事例として、「にがりと痩身効果の関連性については、確実な根拠はない。過剰摂取に十分に注意する必要がある」という異例のコメントを発表した。
こういった動きもあり、にがりブームは下火になっていった。
「にがりでやせたという人は、にがりの効果で便秘が改善され、一時的に体重が減ったのではないでしょうか。これは、やせたとはいいません。また、下痢で栄養が吸収されずに体重が減った可能性もあります。これは健康的なやせ方ではありません」(上西氏)。
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