水中で顔は前ではなく底に向ける
続いては、水中での姿勢の作り方だ。米国留学で最新の水泳理論を学んだ高橋監督は、「水に浮いている時の姿勢は、水面に対して平行になることが理想です」という。これを「フラット姿勢」と呼ぶが、この姿勢を作るにはコツがいる。
「まずは手を頭の上に伸ばした状態で、水に浮いてみてください」と高橋監督。恐る恐る浮いてみると、どうしても足が沈み気味になってしまった。「特に筋肉質の男性は足が沈みやすいんですが、稲川さんはまだましなほうですよ」とフォローを入れてくださる高橋監督。
前述したように、水中では空気をためた肺が“浮袋”となって体が浮く(その浮力の中心点を「浮心」と呼ぶ)。しかし、人間の重心はおへその2~3センチ下にある「丹田」のあたりにある。このため、胸のほうは浮くが、おへそから下は沈む状態になってしまう。
しかし、この状態で泳ぐと、水の抵抗を受けやすいため、進みにくいうえに疲れやすい。さらに、息継ぎもしにくいので、長い距離を泳ぎ続けられない。水泳の初心者に多く見られるという。
こうした問題をどう解決すればいいのか。
「では、顔の眉間を下に向けて、丹田に力を入れてみて下さい」と高橋監督。
意外なアドバイスを聞いて、思わず「ん?」と顔をしかめてしまった。「そう、今、しわができた眉間を下に向けるんです」と高橋監督が指を当てて教えてくれた。ここを下に向けるということは、つまりプールの底に顔を向けるわけだ。
「丹田に力を」というのも難しい表現だが、「まずはおへその斜め下あたりを両手の指で押して、それを押し返すようにお腹に力を入れてください」と高橋監督。これは「腹圧を入れる」と表現されることもある。
何となくイメージできたので、水中で早速試してみた。言われてみると、これまで水中では前方を見て泳いでいたことに気付いた。最初はかなり違和感があるが、あたかも水中で足もとを覗きこむように、顔をグイッと下に向ける。続けて、お腹に力を入れる。「やや猫背気味にすると腹圧を入れやすいですよ」とさらにワンポイント・アドバイスが入る。
確かにだいぶ足が浮いてきたが、まだちょっと沈んでいる。「上達を早めるには、感覚をつかむことが大切ですので、股の間にプルブイを挟んでみましょう」と高橋監督。プルブイとは、ビート板と同じ水に浮く素材でできた、弁当箱サイズの補助器具だ。これを併用しながら、前述のコツ「眉間を下に向ける」「丹田に力を入れる」の2つを意識するだけで、美しいフラット姿勢を作ることができた。プルブイは公共プールにも備えられていることが多いので、大いに活用してほしい。
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