社会人になって以降、プールなど滅多に行かない中年記者。しかし、ぎくしゃくした泳ぎを小学生の息子にばかにされ、一念発起。大学最強水泳部の監督の指導を仰ぐことに。心許ないクロールしかできないわが身も省みず、流ちょうな4泳法メドレーを1年で完成させることが目標だ。監督が掲げる米国仕込みの“フラットスイム”は、中年記者のなまった体にも果たして有効なのか。「もう一度、水泳を習い直したい」「改めてスイミングを始めてみたい」と思っている読者向けに、目標達成までの長く険しい道程をお届けする。
「パパの泳ぎってなんかぎこちないね」
ここ30年ほど、プールへ行くのは真夏のランニングで火照った体を冷やしたいときに限られていた。しかし今夏、家族で行ったプールで、水泳を習い始めた小学生の息子にかけられた思わぬ一言にギクッ。周りを見渡せば、流ちょうなフォームで気持ち良さそうに泳ぐベテランスイマーもちらほら。既に40代後半という体が思うように動かなくなりつつある年になってしまったが、父親の威信を取り戻すために水泳を習ってみようか、と一念発起することになった。
誰に教わろうかと、水泳のコーチングに関するウェブサイトをつらつらと見ていて、目に止まったのは中央大学水泳部監督の高橋雄介さん。高橋さんは自動車メーカーに就職したものの、得意分野の水泳で人生を賭けたいと決意。ダン・ギャンブリンという超一流コーチを訪ねて、1986年に米アラバマ大学に留学した。英語をゼロから学び、同大学の水泳部ではビート板運びからの“叩き上げ”で、コーチの座を獲得したという。
「挑戦心にあふれるこの先生なら、自分の無茶なお願いも聞き入れてくれるかもしれない…」
子どもの一言がきっかけで「フラットスイム」に挑戦
高橋さんは5年間の留学を経て、アラバマ大のコーチから受けた「今のままじゃ、日本は世界に追いつけないよ」という言葉がきっかけとなり、母校である中央大学のコーチに就任。初年度に8割の選手が自己ベストタイムを更新したことで、存在を大きくアピールした。その後2004年までの間に、全日本学生選手権での11連覇を達成し、指導者としての地位を不動に。2000年のシドニー五輪では、平泳ぎの田中雅美さんをはじめとする中央大学の3選手を含む女子メドレーリレーにおいて、銅メダルを獲得している。
実績がすごすぎて、「自分ごときが教えていただくのも…」とためらったが、今では一般個人向けの指導もしており、泳げない人を泳げるようにする第一人者でもある。詳しくは今後の連載でお伝えするが、高橋監督は泳ぐ姿勢をなるべく水平に保つ、米国仕込みの新しい水泳法「フラットスイム」を全国のスイミングクラブに伝える仕事もされている。
「やはりこの先生にお願いしてみよう」と、気持ちは固まった。
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- 初回レッスンで“要補習”とダメ出し