「さぁ、100mメドレーいってみましょう!」と高橋監督の熱い声援がプールに響く。できればバタフライをもう少し自主練習してから臨みたかったが、諸般の事情により、残されたチャンスはこの日だけだった。100mメドレーはバタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、クロールの順に泳ぐ。高橋監督の指導を受ける前には25m泳げなかった、バタフライと背泳ぎからいきなり始まるわけだ…。
背泳ぎでペースを上げるも、平泳ぎであおり足に
「まぁ、なるようになれだ!」と意を決してスタート。『イチ・ニー』『イチ・ニー』と心のなかでつぶやきながらバタフライで進みだす。しかし、100m最後まで持つだろうかという不安がどうしても頭をよぎり、先ほどのようには集中できない。「ん、なんか脚が沈んできたかな…。そういえば、『ニー』のタイミングからストロークが遅れてしまっているぞ」。この状況でよく気づいたな…と自分をほめつつ、手足のタイミングが合うように泳ぎを修正する。そうしているうちに25mに到達した。
次は背泳ぎだ。前日に行った自主練習では、あまり細かいテクニックまではこなしきれていなかったので、注意するポイントを3つに絞っていた。視線は真上に、腕が真上を向いたタイミングで「パッ」「ハー」「ウン」の呼吸、ストロークは水際をかく、の3点だ。この割り切りが功を奏したのか、ペースが上がり、途中で水を飲み込むことなく、快調に25mに到達した。
続いて平泳ぎ。自分の中では、ここが一番きつかった。もともとキックが下手でペースが遅いうえに、美しく見せるためのストレッチングタイムを長めにとるため、なかなか進まない。平泳ぎで15mほど進んだあたりで息苦しさを感じ、「もう、立っちゃおうか…」と頭がもうろうとしてきた。「でも、もう一度100m泳ぐのは、もっときついだろうな…」。その葛藤に揺れ動いているうちに、何とか25m泳げてしまった。
最後は2ビートのクロールで美しく?ゴール
「ここまでくれば、何とかなるかも」。最後は比較的得意なクロールだ。玄人感満載のテクニックとして過去記事「ストロークとキックの動きをバッチリ同期」で紹介した2ビートキックのクロールで進む。ラストスパートでペースを上げたくなる気持ちをグッと抑えて、エレガントな泳ぎを意識する。ふと気がつくと、高橋監督が2ビートのクロールで並んで泳いでくれていた。
そして、ついにゴール!
「いやぁ~、おめでとう! 100m個人メドレーで完泳なんて、大したもんですよ。平泳ぎの途中であおり足になっちゃった時は、もうダメかと思ったけどね(笑)」と高橋監督から温かい言葉をいただく。まさか水泳嫌いの自分が本当にメドレーで完泳できるとは…。「泳げない人を泳げるようにする第一人者」という高橋監督の指導力に、改めて頭が下がる思いだった。
実は平泳ぎの練習ではストロークのスナップをマスターすることに気を取られていて、キックにはあまり注意が向いていなかった。また、特に不得手な背泳ぎにより多くの練習時間を割いていた。いざ本番を終えてみると、背泳ぎのペースアップには大いに助けられ、甘く見ていた平泳ぎで足元をすくわれそうになった。やはり、練習は嘘をつかない…。
もともと、水泳のレベルアップを決意したのは、小学生の息子の鼻を明かしてやりたいという切ない望みからだった。その息子は球技に熱中するあまり下半身が筋肉で重くなり、見事なカナヅチくんとなって苦しんでいるようだ。高橋監督に教わった数々のノウハウを、これからは息子にも伝えてあげようと思う。
(撮影:竹井俊晴)
(衣装協力:ミズノ/取材協力:ワイジェイティー)
中央大学 理工学部教授、水泳部監督
