日経グッデイ

50歳直前ペーパースイマー、100m「美メドレー」への道

美しい背泳ぎの第一歩、足首がしなる柔らかいキックに挑戦

額の上にゴーグルを載せたバタ足にも成功

 稲川哲浩=日経Gooday

社会人になって以降、プールなど滅多に行かない中年記者。しかし、ぎくしゃくした泳ぎを小学生の息子にばかにされ、一念発起。大学最強水泳部の監督の指導を仰ぐことに。心許ないクロールしかできないわが身も省みず、流ちょうな4泳法メドレーを1年で完成させることが目標だ。

 背泳ぎが大の苦手だ。というのも、水の上に浮き続けるのが難しく、鼻から水が入ってツーンとした痛みを感じることを恐れているから。前回の記事「背泳ぎで楽に浮くには「パッ」「ハー」「ウン」の呼吸法」のレッスンでは、中央大学水泳部の高橋教授から、仰向けの状態でも体が沈まないようにするための呼吸法「パッ」「ハー」「ウン」や姿勢の作り方を教わった。今回のレッスンでは、キックを加えて、背泳ぎのバタ足で進むのが課題である。

 クロールでは、足の甲を進行方向の逆に押し出すキックを行うことで推進力を得ていた。その仕組みは背泳ぎのキックも同じだ。クロールは脚を水面から下ろす際に足の甲を後方へ押し出すのに対して、背泳ぎでは脚を水面へ上げる際に足の甲を後方へ押し出す。まずは、プールサイドで高橋監督の模範演技を見学した(下の写真を参照)。

 「背泳ぎのキックでは、足首に力を入れず、足首から足先までをしならせるような感覚で蹴り上げるのがコツです。水中から蹴り上げた足の甲が水面近くまできたら力を入れて、足首のスナップをピッときかせてください」(高橋監督)。

高橋監督による背泳ぎのキックの動きの模範演技
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(1)脚をやや内股気味にしたうえで、左足の指が足首に対して内側に来るように、足の甲を内側に傾ける。(2)左足首をしならせるような感覚で、左脚を水面に向けて上げる。(3)足の甲が水面近くまできたら、足首のスナップをピッときかせる。(4)~(6)左脚と同様に右脚のキックを行う。

最初は高橋監督の力を借り、浮くためのキックの練習

 高橋監督のような柔らかい足首の動きを真似するのは至難の業だが、まずは速く進もうとするのではなく、進みながら浮くためのキックを練習することになった。仰向けの状態で静止していると次第に沈んでいくので、浮き続けるために軽くキックを入れて推進力を加えるのが目的だ。

 高橋監督の模範演技を頭に入れてプールに入り、まずは水上で両腕を体側にそろえた状態で、足首を柔らかく動かすことに専念して、小さくキックする。それぐらいは簡単にできると思っていたが、泳ぎ始めの段階でフラットな姿勢を取るのが意外と難しく、脚が沈み気味になってしまい、足首の動かし方に気を配るどころではなかった。

 そこで、高橋監督が水に浮かんだ記者を進行方向へ押し出すことで、キックを打ち続けやすい体勢を作ってくれた。水上を進む勢いがつくと体が沈みにくくなるので、落ち着いて足首の力を抜いたキックの練習に専念できるようになった。これで次第に足首のスナップを利かせて水を後方に押し出すキックの感覚をつかめてきた。もし練習を手伝ってもらえるパートナーがいるようなら、初心者でも浮いた姿勢を維持しやすく、キックの練習に専念しやすいので、この練習方法をお勧めしたい。

高橋監督が記者を押し出して練習をサポート
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泳ぎ始めにフラット姿勢のバランスを取るのが難しいので、最初のうちはパートナーに浮いた体を進行方向へ押し出してもらうと、キックの練習をリラックスしてできる。

大きいキックとストリームラインの姿勢で速く進む

 次第にキックの動きが柔らかくなってきたので、浮くためのキックから、速く進むためのキックへステップアップすることになった。具体的には、キックの幅を大きくし、さらに両腕を頭上で組んだ状態(ストリームラインの姿勢という)で背泳ぎのキックを練習した。キックの推進力を増やし、ストリームラインの姿勢によって水の抵抗を少なくすることで、速く進めるようになる。

 このストリームラインの姿勢での背泳ぎにチャレンジしてみたところ、確かにスピードは出てきたが、右脚でキックすると左肩が下がり、左脚でキックすると右肩が下がる「ローリング」という動きが大きく出てしまった。キックの動きが大きくなるにつれて、両腕で左右のバランスを取れなくなるために、体が左右に揺れやすくなってしまうのだ。

 「ストリームラインの姿勢でキックを打ちながら左右のバランスが取れるようになれば、初心者のキックとしてはほぼ合格と言ってよいでしょう。水泳五輪代表の入江陵介選手(イトマン東進)は、キックやストロークをしても体の軸がぶれないから、世界で一番きれいな背泳ぎと言われているんですよ」(高橋監督)。

 この大き過ぎるローリングの解消に向けて、取り組んだ最初の練習は、足にミニフィンを付けて、振り幅が大きくても力むことなくゆっくりと動かすキックを行うことだ。「ミニフィンを使うと、柔らかく動かすだけで簡単に進めるという感覚を身に付けられます。キックの際に足首に力を入れ過ぎない感覚を一度つかんでしまえば、ミニフィンを外しても自然とできてしまうことが多いのです」と高橋監督が説明してくれた。

 残念ながらミニフィンが使えるプールはそれほど多くはないが、一部の大規模なプール(東京体育館プール、横浜国際プールなど)やスポーツジムなどでは使用できるところもあるので問い合わせてみるとよい。

大きいキックとストリームラインで速く進む
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補助具のミニフィンを使い、大きくてもゆっくりとした、足首が柔らかく動くキックの感覚をまずつかむ。ストリームラインでも体が左右に揺れないようになれば、推進力のロスが少ない良いフォームということだが、最初はなかなか難しかった。

額にゴーグルを載せて大き過ぎるローリングを解消

 大きくても力まないキックの習得に加えて、高橋監督が教えてくれた大き過ぎるローリングの解消に役立つもう一つの練習法は、額の上にゴーグルを載せたまま泳ぐことだ。ゴーグルが滑り落ちないように体のバランスを取る意識を持って泳ぐことで、自然とキックも横方向にぶれない縦の動きに落ち着いていき、大き過ぎるローリングが解消されていくことを実感できた。

額の上にゴーグルを載せてストリームラインの背泳ぎに合格
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ゴーグルを額の上に載せることで、体の平衡感覚のバランスを取る意識が高まり、大き過ぎるローリングが解消されてきた。

 実はレッスン前に、記者が「入江選手のように額の上にペットボトルを載せて泳げるようになれるものでしょうか」と相談していたこともあって、このゴーグル載せ練習を高橋監督がしてくれたのだが、そのおかげで体の左右のバランスは次第に整っていった。そして、最後にミニフィンを外して、バタ足背泳ぎの最終テスト。足首のしなる柔らかいキックも何とかこなして合格を頂いた。生まれてから四十数年間、苦手意識を持ち続けていた背泳ぎのマスターに一筋の光が見えてきた…。

 次回は美しい背泳ぎになるストロークのコツをお伝えします。

(撮影:竹井俊晴)

(衣装協力:ミズノ/取材協力:ワイジェイティー)

高橋雄介(たかはし ゆうすけ)さん
中央大学 理工学部教授、水泳部監督
高橋雄介(たかはし ゆうすけ)さん 1962年生まれ。52歳。現役時代はバタフライの選手として活躍。5年間の米国留学で最先端の水泳トレーニング法を学ぶ。帰国後は中央大学水泳部のヘッドコーチ、続いて監督に就任。2004年に全日本学生選手権での11連覇を達成し、2014年には15回目の優勝を達成した。今では、米国仕込みの新しい水泳法「フラットスイム」を全国のスイミングクラブに伝えており、個人向けの指導も行っている。