日経グッデイ

50歳直前ペーパースイマー、100m「美メドレー」への道

肩甲骨の動きを良くするエクササイズに四苦八苦

室内エクササイズで美しいクロールの土台を作る【前編】

 稲川哲浩=日経Gooday

社会人になって以降、プールなど滅多に行かない中年記者。しかし、ぎくしゃくした泳ぎを小学生の息子にばかにされ、一念発起。大学最強水泳部の監督の指導を仰ぐことに。心許ないクロールしかできないわが身も省みず、流ちょうな4泳法メドレーを1年で完成させることが目標だ。

 前回は、中央大学水泳部の高橋雄介監督から、25mを楽に泳げるキャッチアップクロールの合格点を無事に頂戴した。今後は美しいクロールのマスターに向けて、姿勢やキック、ストロークの仕上げを行っていくわけだが、そのためには、今の筋力や柔軟性では少々心許ない。

 そこで、高橋監督が考案した筋力や柔軟性の強化を図るエクササイズを、今回から2回に渡って紹介する。冬場はプールへ通うのがついおっくうになってしまうという人も、自宅でできるエクササイズに取り組んでおけば、「今後の上達が楽になる」との高橋監督のお墨付きだ。

 ここから紹介する3つのトレーニングは、体幹の筋肉や肩甲骨の柔軟性を高めるエクササイズとなる。

“前に乗る感覚”を身につける「フロントブリッジ」

 高橋監督が最初に教えてくれたのは、体幹の筋肉を鍛えるためのエクササイズ「フロントブリッジ」だ。腹筋や背筋など、体幹の筋力強化とともに、クロールでストロークする際に水をかいて体を前方へ進める感覚をつかむのにも役立つ。高橋監督の言葉を借りれば、「水中で“前に乗る感覚”を身につけられる」というエクササイズだ。

「フロントブリッジ」で体幹の筋肉を引き締める
[画像のクリックで拡大表示]
(1)両手と両膝を床に付いて四つんばいになり、腹圧を入れる。(2)足を後方に片足ずつずらしながら、両膝を持ち上げて、腕立て伏せの体勢になる。みぞおちを上げて少し猫背気味にするよう意識する。(3)顔は真っすぐ下を向けたまま、つま先の力を使って、前方へグーっと体を移動させる。この状態で30秒キープする。

 初心者の指導経験も豊富な高橋監督によると、「よくあるNG例は、最初に四つんばいになった時に、お腹が落ちること」だという。水の中と同じように腹圧を入れて、少々猫背気味に姿勢を保つ。また、このときに、肘を曲げないように注意する。

腹圧が入っていないNG例
[画像のクリックで拡大表示]
腰を反らすと体幹のトレーニングにならない

 実際にやってみると、腹圧を入れて猫背になった状態で「前に乗る」姿勢をキープするのはかなりきつかった。10秒ほど経過した頃には、腹筋がプルプルと震え出す。通常の腕立て伏せでも腹筋は鍛えられると聞くが、フロントブリッジのほうが腹筋にははるかに効いているように感じた。また、体を支える腕が斜めになるので、腕や肩への負荷は結構強い。

腹圧をしっかり入れると「かなりキツイ」
[画像のクリックで拡大表示]
腹筋がプルプルと震え、額にはすぐ汗がにじみ出てきた…。

 運動不足の記者にとっては相当きついトレーニングだったため、高橋監督に少し負荷を落としたアレンジ方法も教えてもらった。下の写真のように、膝を床に付いたままの状態で「前に乗る」姿勢をキープすればいい。これならば女性でも実践できそうだ。

負荷を軽くした「フロントブリッジ」
[画像のクリックで拡大表示]
最初、四つんばいになる際に、両手を付く位置をやや前方よりにする。この姿勢から体を前方へ移動させる。

肩甲骨の動きを高める「肩立て伏せ」

 次に行ったのは、「肩立て伏せ」という聞き慣れないエクササイズだ。四つんばいの姿勢から少し上下動を加えて、肩甲骨を寄せたり離したりする。このエクササイズには、「肩甲骨の可動域が広がり、クロールで水をかいた腕を後ろから前へ戻す動作(リカバリー)がスムーズになる効果がある」(高橋監督)そうだ。

肩甲骨の可動域を広げる「肩立て伏せ」
[画像のクリックで拡大表示]
(1)両手、両膝を付いて四つんばいになり、肘をしっかり伸ばす。(2)少々前のめりになり、肩甲骨同士をグーッと内側に寄せる。(3)体を上げながら、肩甲骨を外側へ離していく。(4)最後は、猫背になるくらいまで肩甲骨を離す。また(1)へ戻る。これを10回繰り返す。

 高橋監督が披露してくれた“模範演技”を見ると、骨に油が差してあるのかと思えるほど、肩甲骨が柔らかく寄ったり離れたりする。「ウワー、寄ってますねぇー、監督」とカメラマンが見とれながら写真を撮り続けていた。

肩甲骨がここまで開閉できれば達人級
指が挟まるくらい、肩甲骨を寄せるのが理想的。
[画像のクリックで拡大表示]
猫背になるまで肩甲骨を離したところ
[画像のクリックで拡大表示]

 40代後半で体の随所がガチガチになっている記者。「これは絶対できない…」と確信した。しかし、ものは試しとやってみると、意外にも2~3回目の挑戦でOKを頂いた。一番難しいのは肩甲骨を寄せるところだが、体を少し前のめりにする勢いを使うと何とか上手くいくようになる。背中にしわを寄せられた瞬間にささやかな達成感を得られた気がした。

気合いを入れて肩甲骨を寄せた!
[画像のクリックで拡大表示]
体を少し前のめりにする勢いを利用するのがコツだ。何とか肩甲骨を寄せようとして、肘が内側へ曲がってしまうこともあったが、それでも高橋監督から「まあ、いいでしょう」を頂いた…。

 「このエクササイズは肩こりの解消にも効きますので、デスクワークで疲れた時などにお勧めですよ」と高橋監督。男性より女性のほうが肩甲骨が動きにくく、動きが固まっている。日常からよく動かしておこう。

クロールでの肩甲骨の動きをスムーズにする「ショルダーアップ」

 今回最後のエクササイズは、床にうつ伏せになってクロールのリカバリーのような動きを行う「ショルダーアップ」だ。「クロールのリカバリーにおける肩甲骨の使い方を意識しながら、肩甲骨の動きをスムーズにさせていきます」と高橋監督。腕を上げる際に、先に紹介した「肩立て伏せ」で行った肩甲骨を寄せる動きを加えながら、腕を前方へ戻すのに合わせて肩甲骨を後ろから前へと動かす。

肩甲骨の動きをスムーズにする「ショルダーアップ」
[画像のクリックで拡大表示]
(1)うつ伏せに寝て、左腕は前方に伸ばし、指先だけで床をつかむ。右腕は後方に向けて、手の甲を床に付ける。顔は真下に向けて、クロールと同じ姿勢をとる。(2)右手の親指を下に向けたまま、クロールのリカバリーと同じように右腕を体に沿わせて回転させる。左手の指先で体をしっかり支える。(3)肩甲骨を内側に寄せながら、さらに右腕を持ち上げる。(4)肩甲骨を前に動かすようにして、腕を前へ戻していく。(5)~(8)同様に左腕のリカバリーを行う。これを10回繰り返す。
「ショルダーアップ」を横から見たところ
[画像のクリックで拡大表示]
肩甲骨が後方から前方へ大きく動いている。

 「これは水中の動きを陸上でやるだけだから楽勝だろう」とたかをくくっていた記者。しかし、実際にやってみると、リカバリーの際に手のひらをどちらに向けたらよいのか、戸惑ってしまった。特に腕を後ろから前へ戻すときに、手の甲をどちらに向けたらよいのかで悩んだ。「詳しくは今後のレッスンで説明しますが、リカバリーのときは親指を上ではなく下に向けるのが正解なので、手の甲は体の外側を向くようになります」と高橋監督が教えてくれた。確かに親指を上に向けてしまうと肩は回せない。

手のひらの動かし方をマスターするのに四苦八苦
[画像のクリックで拡大表示]
一連のエクササイズを行ってみると、写真(2)のときのように、手の甲を外側に向けながら肩を回すのが難しい。本来は顔を上げてはいけない。(4)ここで肩甲骨を寄せるよう指導を受けた。

 腕の動かし方に慣れてきたところで、高橋監督から新たな課題を頂いた。それは、リカバリーする腕と逆の足のつま先をしっかり床に付けること。「実際のクロールでは入水する腕の反対側の足でキックを打つので、そのタイミングを学ぶことができるんですよ」(高橋監督)。ここまできっちりやると、床の上でもプールで練習しているような感覚を味わうことができた。

 次回は体幹や体側の筋肉を強化する、少々キツ目のエクササイズを紹介する。

(撮影:竹井俊晴)

(衣装協力:ミズノ/取材協力:ワイジェイティー)

高橋雄介(たかはし ゆうすけ)さん
中央大学 理工学部教授、水泳部監督
高橋雄介(たかはし ゆうすけ)さん 1962年生まれ。52歳。現役時代はバタフライの選手として活躍。5年間の米国留学で最先端の水泳トレーニング法を学ぶ。帰国後は中央大学水泳部のヘッドコーチ、続いて監督に就任。2004年に全日本学生選手権での11連覇を達成し、2014年には15回目の優勝を達成した。今では、米国仕込みの新しい水泳法「フラットスイム」を全国のスイミングクラブに伝えており、個人向けの指導も行っている。
日経グッデイ春割キャンペーン