鬼編集長の業務命令で、「2年でシングルを目指す」という途方もない目標のゴルフ企画を担当することになった40代記者。前回、山口信吾先生からゴルフクラブにダメ出しをもらい、自分に合ったクラブを探すという、初心者にとっては大きな「難問」を抱えていた。そんなある日、会社からの帰り道で通りかかったビルに入ると、あれよあれよとクラブのフィッティングをすることに。
ごくまれに仕事が早く片付いた日は、常からの運動不足を解消するために、少し遠回りに歩いてから帰宅するのが記者の習慣の一つになっている。
我が「日経Gooday」編集部がある港区白金を出て、すぐ目の前にある「魚籃坂(ぎょらんざか)」を上り、「伊皿子坂(いさらござか)」に連なる小高い丘を越えた後、かの浅野長矩(あさのながのり)と赤穂浪士が葬られている「泉岳寺(せんがくじ)」の脇道へとたどる。およそ15分のウォーキングだが、足腰の衰えを防ぐ格好の散歩道である。
寄り道で飛び込んだヤマハのビルでクラブを握る
そんな帰途の道すがら、偶然目にしたのが「YAMAHA」の文字だった。

今年40代半ばを迎えたのを機に、オヤジ記者は老後の愉しみの1つにしようとピアノを本気で習いたいと思っていた。読者の皆さんにはにわかには信じられないだろうが、小生、幼少のみぎりより、ベートーヴェンを愛聴し、ショパンをピアノで奏で、バッハをフルートで吹きこなしたほどの音楽愛好家であった。まっとうな道を歩んでいれば、今ごろは巨匠の道を進んでいる…予定だった。
『思いっきり、音楽。』
ビルの玄関先にあるポスターの広告コピーを見た瞬間、かねてから気になっていた「ヤマハ大人の音楽レッスン」のパンフレットをもらうつもりで、なんのためらいもなくビルの中に飛び込んだ。実はこのビルこそが、ヤマハ東京本社であった。受付の女性に丁寧な案内と説明を受けた後、ある表示板がふと目に止まり、きびすを返した。
ヤマハという社名を聞くと、真っ先にピアノやギターといった楽器を思い浮かべるに違いない。さもなくば、オートバイを挙げる人も多いだろう。
ん? ヤマハがゴルフ?
…詳しい経緯は割愛するが、あれよあれよと話が進み、30分後にはゴルフスタジオの中でクラブをぶんぶん素振りしてスタンバイしていた。
シャフトの動きに注目した独自の解析方法

「ヤマハゴルフスタジオ高輪にようこそ」という言葉とともに、爽やかな笑顔で登場したのが米山太基さんだった。聞けば、同社のクラブ開発の担当者だという。
記者 「よろしくお願いします。仕事の関係で13年ぶりにゴルフを再開しました。ゴルフクラブをフィッティングするなんて、う、う、生まれて初めての経験です」
米山さんによれば、ヤマハがゴルフクラブを発売したのは1982年。実に30年以上の歴史があるメーカーである。これまでの商品開発のノウハウと蓄積したユーザーデータを生かし、クラブのフィッティングができる「ヤマハゴルフスタジオ高輪」を今年7月にオープンしたのだという。フィッティングは「現状分析」「シャフトのしなりの測定・分析」「推奨クラブの決定」「結果の説明」という大きく4つのステップからなる。
中・上級者のゴルファーは既にご存じかと思われるが、一般的なゴルフショップで行うフィッティングは、クラブのヘッドの軌道やインパクト位置、ボールの回転数、スイングスピードから、いくつかのクラブを試して選び出す。これに対して、ヤマハが開発した解析システムでは、先の計測情報に加えて、スイングするときのシャフトの動き(しなり方)を測定・分析する画期的な方法を導入している。これによってヘッドとシャフトの理想的な「組み合わせ」を選び出してくれるのが特徴だ。
3タイプのヘッドと4タイプのシャフトに必ず合う組み合わせがある!
米山さん 「今のクラブ選びは通常、既存商品を使って計測した結果と、自分の感覚が合うかどうかで判断します。そのため、上達度に応じて、クラブを買い換えたり、シャフトを調整したりするのが慣例的です。しかし、私たちはこうした従来の考え方から、ヘッドの動きを左右するシャフトの挙動に注目し、ユーザーに応じたヘッドとシャフトのベストマッチを“作り出す”という発想で商品を開発しています。そのため、ゴルフスタジオでのフィッティングでは、シャフトのしなり挙動に注目しています」
ヤマハが今年10月25日発売した新作「インプレス・RMX(リミックス)」のドライバー(1W)を例にすれば、3タイプあるドライバーのヘッドと4タイプのシャフトとの組み合わの中から、「自分に合うドライバー」が必ず見つかるという。これまで、一部の上級者向けのクラブを除き、ほとんどのクラブがスペックの決まった既製品として売られているのに対し、同社のクラブはカスタムオーダーに近い組み合わせで選べる。さらに、上達の度合いやコースを回る日の調子によってシャフトを交換したり、ウエイトを微調整したりもできる。「組み替え自在なことが、リミックス=REMIXのネーミングたるゆえん」(米山さん)であるそうだ。
記者 「スイングに伴う動きに表れる個人の特性に、クラブをカスタマイズさせるわけですね。ということは、ありのままに振れるクラブが選べるともいえますか?」
米山さん 「はい、その通りです。もちろん、初心者は基礎的なスイング方法を身に付けることは前提ですが、ベストな組み合わせを見つければ、あとはクラブがボールを理想的に飛ばしてくれる。スイングの個性を最大限に生かせるのです。私たちは『自分に合うドライバーが、一番飛ぶ』をコンセプトにしています」
記者 「素朴な疑問なのですが、ゴルフショップでも同じようにフィッティングをしてもらえると思いますが、メーカーのスタジオで選ぶのとはどこが違うのでしょうか」
米山さん 「簡単にいえば、ショップでは複数のメーカーを“ヨコ比較”できるのに対して、メーカーでは、ブランド別やシリーズ別といった“タテ比較”が可能です。例えば、8番アイアンを試し打ちするとして、当社であれば上級モデルから初中級モデルまで5つのシリーズがあります。さらにシャフトもカーボン製とスチール製が試せる。もしも気に入ったメーカーがあれば、そこでフィッティングするのがいいかもしれません」
前方のスクリーンに映し出されたコースに向けて、ふにゃりとしたシャフトのドライバーでボールを5球ほど打ち、違うタイプのクラブに変えてボールを打ち、さらにヘッドやシャフトを代えてまたボールを打つ。ゴルフシミュレーター使いながら、自分に合った組み合わせを絞っていくわけだ。なんだかオーダーメードでクラブを作るプロゴルファーにでもなった気分で、初心者にはとても新鮮である。
クラブ選びは「クルマ選び」に似ている!
ところで、「ゴルフクラブをどうやって選ぶか」という問題に、どんなゴルファーでも一度は頭を悩ませた経験はあるだろう。クラブヘッドの形状や素材にはじまり、シャフトの長さと硬さ、カーボン製かスチール製かといった選択、これらに重さ、ロフト角、ライ角、トルク、重心距離…といった数字の要素が加わる。ショップや店員が違えば、薦められるクラブが同じメーカーでも違うことは珍しくない。初心者にはもうお手上げである。
ましてこれから始める人ともなれば、予算という制約がついて回ることもあるだろう。記者の周りにいる初級、中級者ゴルファーたちに聞いてみると、クラブの購入方法はおよそ3タイプに集約されることがわかった。当たり前のようだが、そのポイントは「クルマ」を購入するときにもどことなく似ている。
1 「中古クラブで買いそろえる」
2 「親、上司、友人などからのおさがり」
3 「新品を購入する」
まずは、中古の場合。その利点は廉価性だ。高スペックなクラブを廉価で買えるうえに、数年前のモデルであれば、5万~10万円でフルセットをそろえることもできる。腕前を上げるに従い、中上級者向けクラブに買い替えやすい利点もある。ただし、自分が求めるモデルがすぐ手に入るとは限らない欠点は覚悟する必要がある。
次に、おさがりの選択肢だが、これはほぼ負担ゼロで始められる利点がある。社内コンペや接待などで年に1、2回コースに出るようなライトユーザーには向くだろう。必要なときにだけレンタルで凌ぐ手もある。ただし、ドライバー(1W)などのウッドをはじめ、アイアン、ユーティリティー、パター…など、メーカーもタイプもバラバラになることも少なくない。また元オーナーのプレースタイルで選ばれているために、自分に合っていない恐れもある。「上達」を主眼に置くゴルファーならば、おさがりは一考したほうがよさそうだ。
最後、新品で購入するときにも、大きく2通りの買い方がある。価格優先で5万~10万円程度の初級者向けのクラブセットを買うか、 先々の上達を見込んで中級者レベルに対応するクラブを組み合わせて買うかである。新品で購入する利点は、自分のレベルやスイングの特徴に合わせてクラブを選べることに尽きる。また、自分のクラブを持つことでゴルフへのモチベーションや道具への愛着が湧くことも大きい。
本企画は、シングルを目指す決意なのだから、真っ先に「おさがり」はありえず、「中古」の選択肢もビミョーである。すると「新品」という結果にたどり着くのだが、過去のゴルフ経験を加味して2年でシングルになるとの「業務命令」から逆算すれば、お値ごろな初級者セットを買うなどと悠長なことは言っていられない。
こうしてクラブ選びに悩んでいた矢先に、別の目的で飛び込んだヤマハで、まさかゴルフクラブとの出会いがあろうとは想像もしていなかった―というわけである。
着々と60分間のフィッティングが進むにつれて、急場しのぎでかき集めた中古やおさがりクラブが、自分のスタイルにマッチしていないことがようやく理解できた。そして最終的に、記者が想像していなかったマッチンングが導き出されることになった…。
山口信吾先生からの課題として紹介した「手首のエクササイズ」(詳しくは、「ゴルフが上達しないのは体の使い方がよくないから!?」をご参照ください)で、手首の柔軟性が高まってきたら、実際にクラブ(サンドウェッジ・SW)を持って「コック」を使うコツ習得して行こう。「ゴルフの上達のためには、私は7つの基本動作を習得する必要があると考えています。まず、手首を柔軟にすることが基本動作の第一歩(基本動作1)。その次が、手首をタテに使ったコックの習得です(基本動作2)」(山口先生)。自宅で5分もあればできる簡単なドリルだ。
ゴルフのスイングは、手首を「タテ」に動かしながら、腰と体幹部は「ヨコ」に動かすという複合的な動作が求められる。まずは山口先生が提唱する「コック」「リリース」「リコック」という3つの大切な手首の使い方を、ゆっくりとした動きで身に付けていこう。「クラブを持って手首をタテに上げたときが『コック』した状態。次に、コックを解いて、クラブを下ろしたときが『リリース』。リリースしたクラブを再びタテに上げたときを私は『リコック』と呼んでいます」(山口先生)。
実際のスイングでは、最初の構えからクラブをバックスイングするときに手首を「コック」させ、クラブを振りだしてボールを打つときには手首を「リリース」し、打った直後からフォロースルーまでにクラブのヘッドを再び引き上げる「リコック」の動きがセットになっている。「剣道にたとえると、一連の動きは上段、中段、下段の形に近い」(山口先生)。早速、日課に取り組み、コック・リリース・リコックを上手に使えるようにしよう。
(次回は、「ベストマッチのクラブを手に入れてはやシングル気分?」の予定です。ぜひご覧ください)
(写真:相田克己・フィッティング/竹井俊晴・ドリル)
ゴルフ作家




