日経グッデイ

金哲彦式ウォーキング術 目指せマイナス10歳ボディ!

こんな歩き方になっていませんか?

体幹を使えているかどうかは歩き方で分かる

 高島三幸=ライター

誰でも気軽にできる運動として人気のあるウォーキング。心肺機能や脚の筋力が向上したり、ストレスが解消されて気持ちが前向きになったりといった効果が知られている。このコラムでは、ウォーキング指導で定評のある金哲彦氏の監修で、肩甲骨や骨盤を有効に使う“体幹ウォーキング”のメソッドを紹介する。そのスピードを上げやすく、疲れにくい歩き方をマスターして、10歳若返った体を取り戻そう。

 せり出したお腹でベルトが弾けそうになりながら大汗をかいて歩いていたり、首も背中も曲がったままでパソコンやスマートフォンを操作していたり…。そんなビジネスパーソンの姿を見て、「若々しい」「さわやか」「仕事ができそう」という印象はなかなか持ちにくい。体型や姿勢は、その人の“見た目”を決める大事なポイントだ。

 いつも若々しく、見た目がよくなる体型や姿勢づくりで有効なのが、体幹(胴体部分)をしっかり使って歩く「体幹ウォーキング」。ウォーキングといえば、60、70代以上のシニアが行う運動だと思っていた人も多いだろう。だが、プロ・ランニングコーチの金哲彦さんによれば、背骨が曲がりきらない年代から、正しい歩き方を身につけることが重要だという。

ランニングだとすぐ膝や腰を痛めてしまうという人にお薦め

 「正しいフォームで30分から1時間ほど歩く習慣を身につければ、お腹周りはすっきりし、美しい姿勢でさっそうとかっこよく歩けるようになるので、だんだん楽しくなってきます。また、体幹を使ったウォーキングは着地の衝撃を緩和し、体への負担が少ない効率的なフォームをとるので、長時間、歩いても疲れにくい体になる。体のゆがみも少しずつ改善され、肩こりなどの悩みが軽減されるはずです。何よりも軽く汗をかけば、お酒もご飯もおいしくなり、いいことづくしです」。また、ランニングだとすぐ膝や腰を痛めてしまうという人にも、この体幹ウォーキングは有効だと話す。

写真1・2◎ 体幹は着地の衝撃を和らげてくれる
(1)体幹を使いにくい姿勢
(2)体幹を有効に使える姿勢
(1)手を前に組んでかかとを上げ下げすると、着地の衝撃を大きく感じる。これは体幹を使いにくい姿勢のためだ。 (2)手を後ろに組んでかかとを上げ下げすると、着地の衝撃をあまり感じない。これは体幹を有効に使える姿勢のため。

 そこで、このコラムでは、体への負担が少なく、若々しい体をつくるフォームやペースの作り方、体のメンテナンス、楽しく続けるコツなど、ウォーキングのすべてを丁寧に解説する。第1回は、自分の体幹の強さや、歩き方などの現状を知る方法を紹介しよう。

あなたの体幹力をチェック!

 まずは、自分の“体幹力”をチェックしよう。下の写真3(左)のように座って脚を上げ、背筋を伸ばすポーズを取り、下腹部に力を入れて脚を支えられたら合格だ。また、写真4(右)のように、合わせた両手のひらを壁などに付き、体が斜めにもたれたポーズでは、背筋をきちんと伸ばせたら合格となる。

写真3・4◎ 体幹の筋力チェック
(1)座ってチェック
(2)寄りかかってチェック
(1)座って足を上げ、背筋を伸ばす。下腹部の力で支えられたら合格だ。 (2)体を斜めにしてまっすぐにできれば合格。お尻が出たり、引っ込んだりしてはダメ。

 では、体幹とはどの部分の筋肉なのか、具体的に見てみよう(図1)。

 金さんが特に重要だというのは、体の軸となる背骨とお腹を支える筋肉だ。僧帽(そうぼう)筋などの肩甲骨周りにある背中の筋肉は、胸を開いて正しい姿勢を保つのに必要な部位。ここをしっかり動かせれば腕を後ろに引きやすく、スムーズで楽な腕振りにつながる。

図1◎ ウォーキングで使う体幹の筋肉とは?
[画像のクリックで拡大表示]
ウォーキングで使うために金さんが重視する体幹の筋肉は、赤字で示した僧帽筋、腹直筋、腸腰筋、中殿筋、大殿筋だ。これらの体幹の筋肉を働かせて姿勢を整え、脚にある青い部分の筋肉を効率的に働かす。

 この背中の筋肉と腹直筋など腹周りの筋肉がバランスよく働き、尻の大臀(だいでん)筋や中臀(ちゅうでん)筋がしっかりと体重を支えることで、正しく美しい姿勢へとつながる。股関節を曲げる働きをする腸腰(ちょうよう)筋は、太ももを引き上げたり、骨盤を動かしたりするために大切な体幹の筋肉だ。

 これらの体幹の筋肉で姿勢を整えて、脚の太ももにある筋肉を効率的に動かすことにより、疲れにくく、力強いウォーキングができるようになる。太ももの裏にある大腿二頭筋など、「ハムストリングス」と呼ばれる部分は、歩く時に体を前に押し出すアクセルのような働きをする。太ももの前にある大腿四頭筋も重要で、着地時に体重を支え、ウォーキングではブレーキの役割を果たす。

猫背は腰痛の原因に

 体幹がしっかりしていないと、どんな歩き方になってしまうのだろうか。街でよく見かける、体に負担がかかる悪い歩き方の例を紹介しよう。

 まずは「猫背歩き」(写真5)。

 パソコン作業などのデスクワークで前傾姿勢がクセになっていないだろうか。「スマートフォンを四六時中、操作している人や、肩甲骨の動きが悪い人なども猫背になりやすい」と金さんは言う。前傾の姿勢が続くと、背筋が曲がって腹筋を使わなくなり、肩甲骨周りの筋肉が伸びきって固くなり、慢性的な肩こりにつながる。背骨のS字カーブも崩れ、重たい頭を支えるために首や腰に負担がかかり、腰痛を引き起こす。

写真5◎ 良くない歩き方(猫背)
前傾の姿勢が続くと、背筋が曲がって腹筋を使わなくなる。肩甲骨周りの筋肉が伸びきって固くなり、慢性的な肩こりにつながる。

 このタイプの人は、ウォーキングの前に背中の筋肉がほぐれるようなストレッチなどを取り入れ、筋肉をほぐすことが大事だ。

 次は、「反り腰歩き」(写真6)。

 一見、背筋が伸びているように見えるが、実は腰が反りすぎているタイプだ。これは腹筋と背筋のバランスが悪いことが原因。腹筋が弱い女性が姿勢を正そうとしたときに、このような歩き方になるケースが多いという。また、ハイヒールを履いたときもどうしても前傾になるため、反り腰になりがち。

 反り腰歩きを長く続けると腰やひざに負担がかかり、痛みを伴うことも少なくない。金さんが提案する予防策は、腰周りの筋肉がほぐれるようなストレッチと同時に、腹筋の強化を図ることだ。

写真6◎ 良くない歩き方(反り腰)
反り腰歩きを長く続けると腰やひざに負担がかかり、痛みを生む原因になる。

 3つ目は、「ひざ曲げ歩き」(写真7)だ。

 体幹部分の筋肉が全体的に衰え、体重を支えられなくなった状態の歩き方を指す。例えば、膝や腰が曲がり、太ももの前傾を使って体を支えている人はいないだろうか。この姿勢が続くとお腹の深部にある腸腰筋が弱まり、ますます体幹が使えなくなるという悪循環に陥る。お年寄りによく見られる姿勢だ。

 お年寄りだけでなく、ハイヒールを履く女性も膝が曲がるので、同様の姿勢になり、体幹を使わなくなる。太ももや腰痛、膝の故障につながるため、腹筋や背筋、お尻の筋肉といった体幹を意識したウォーキングが大事だ。

写真7◎ 良くない歩き方(ひざ曲げ)
この姿勢が続くとお腹の深部にある腸腰筋が弱まり、ますます体幹が使えなくなるという悪循環に陥る。

 詳細は次回で解説するが、体幹を有効に使った理想的なフォームは写真8のようになる。

写真8◎ 体幹を使った理想的なフォーム

ガニ股は関節痛の原因に

 4つ目は、脚が外向きに曲がっている「ガニ股歩き」(写真9)だ。

 男性は太ももの外側の筋肉の張りが強いためにガニ股になるケースが見られるが、女性は骨盤がゆるんで脚の付け根から開いていることが多いという。太ももの外側の筋肉やふくらはぎに負担がかかり、股関節やひざを痛めやすくなるのだ。

 骨盤のゆがみが関係しているガニ股をすぐに直すのは難しいが、歩くときに、つま先をまっすぐ出すように意識するだけでも足への負担は軽減されるという。

写真9◎ 良くない歩き方(ガニ股)
太ももの外側の筋肉やふくらはぎに負担がかかり、股関節やひざを痛めやすくなる。

 最後は、「左右傾き歩き」だ(写真10)。

 いつも同じ肩にショルダーバッグをかけたり、鞄を持ったりする人に多く見られ、骨盤が傾いた状態でバランスを取ろうとするため骨格全体がゆがんでしまう。気になる人は、靴のかかとをチェックしてみよう。どちらかが一方だけ早く減る人は、左右いずれかに傾いている可能性が高い。鞄を持っている方の脚に張りはないだろうか。バランスが崩れたまま歩き回っている営業職などの人ほど、その張りが強く、足首痛、腰痛、ひざ痛などを起こしやすい。

 改善策として、鞄をリュックに変えたり、たすきがけできる鞄を使ったり、いつも同じ側ばかりで荷物を持たないようにするなど、日常生活から意識するように心掛けよう。

写真10◎ 良くない歩き方(左右傾き)
骨盤が傾いた状態でバランスを取ろうとするため、骨格全体がゆがんでしまう。

 なお、前から見た理想的なフォームは写真11のようになる。

写真11◎ 体幹を使った理想的なフォーム

 悪い歩き方をいくつか挙げてきた。自分の歩き方に近いタイプはあっただろうか。「自身では分かりにくいので、家族や友人にチェックしてもらうといい」と金さんはアドバイスする。

 では、理想の歩き方とはどのようなものだろうか。次回からは、金さんが推奨する「体幹」を使った歩き方を紹介しよう。

(写真:村田わかな)

金哲彦(きん てつひこ)さん
プロ・ランニングコーチ
金哲彦(きん てつひこ)さん 1964年生まれ。早稲田大学在籍時に箱根駅伝で4年連続で山登りコースの5区を担当し、区間賞を2度獲得した。現在は、五輪出場選手向けのランニング指導から、一般向けのウォーキング指導まで、幅広い層に向けたコーチングを行っている。駅伝やマラソンの解説者としても活躍している。
体力の若返りには速歩が有効

 ウォーキングは若々しい体を作るために、どれほど有効なのか。この研究テーマに1997年から取り組む、信州大学大学院医学系研究科教授の能勢博氏に聞いてみた。「人は誰でも年をとると特に下半身の筋肉量が減っていきます。この下半身の筋肉の衰えが、身体能力の低下だけでなく、高血圧や高血糖、肥満、脂質異常症などの生活習慣病を招くという考えが世界のスポーツ医学会の潮流になりつつあります」と能勢氏は話す。

 加齢による筋肉量の低下を測定した、ある研究結果を見てみよう(図A)。これはスポーツ医科学分野で権威のある教科書に掲載されたもの。平均的に最も筋肉量が多い20歳の大腿筋(太もも)の断面積を100とすると、40歳で約90、60歳で約70、80歳で約50と、40歳を境に一気に筋肉量が減っていく。

図A◎ 太ももの断面積は加齢とともに減少する
20歳の大腿筋の断面積がピークとなり、40歳で約90%、60歳で約70%、80歳で約50%と、一気に筋肉量が減っていく。これが30%を切ると、日常生活に支障が出るという。(Astrand PO & Rondahl K. Textbook of Work Physiology. McGraw-Hill. NY. p343. 1986を基に能勢氏が一部改変)

 また、WHO(世界保健機構)などで要職に就いていた、著名な研究者であるイローナ・キックブッシュ氏による類似の研究では、加齢による身体活動量の変化が、先ほどの筋肉量の低下曲線とほぼ同じカーブを描くことを確認している。身体活動量とは、立ったり、歩いたり、腕を曲げたりなど、1日当たりの活動の量を示し、言わばその人の体力に相当する指標である。「専門家の間では、その値が20代の頃の最大値の30%を切ると、日常生活に支障が出ると認識されている」(能勢氏)という。

 効率的に体力を向上させられる運動を調べていた能勢氏は、最終的に、全力の7割程度の速さで歩く速歩と、通常の歩きを3分おきに繰り返す「インターバル速歩」に注目。2003年に長野県松本市で246人の中高年者を対象とした実証実験を行い、膝の屈伸力が17%、有酸素運動の能力を示す最大酸素摂取量が10%増える効果を確認した(図B)。一方で、「全力の4割程度になる通常の歩き方では、1日に1万歩歩いても、それほど体力の若返り効果は確認できなかった」(能勢教授)。

図B◎ 脚の筋肉強化や運動能力の向上につながるインターバル速歩
信州大学が行った実証実験では、「インターバル速歩」によって、膝の屈伸力が17%、有酸素運動の能力を示す最大酸素摂取量が10%増えた。一方、通常の歩行ではほとんど効果が見られなかったという。この実験では、長野県松本市に住む平均年齢64歳の中高年者(男60人、女186人)の協力を得て、それぞれのトレーニングを5カ月間実施し、その効果を測定した(2003年)。

 このような速歩を無理なく行うには、体幹を活用した歩き方が役に立つ。インターバル速歩の具体的な方法については、また追って紹介しよう。(稲川哲浩=日経Gooday)